東京都千代田区が歩きたばこを禁じた生活環境条例」を施行して、10月で丸2年になる。
毎日新聞 2004.9.5
 違反者から2000円をとる前例のない取り組みは当初大きく取り上げられたが、歩きたばこは減ったのだろうか。
    
 8月、路上禁煙地区の一つ、秋葉原の電気街を区職員の小島稔さん(60)、小川利明さん(57)と歩いた。まず週1度、定点観測している場所に向かう。イチョウの木4本の下に、たばこの吸い殻が8本。施行直前は995本、直後も当初は3けた台の週もあったが、今年に入り1けた台が目立ってきている。

もみ消した男性捨てぜりふ残し 巡回に出ると、間もなく歩きたばこをしている30代会社員とおぽしき男性に出会う

 路上禁煙を知らせる条例のビラを示すが、男性はもう片方の手で握る携帯電話を切ろうとしない。
過料を知らせると男性は財布からお金を抜き出し「大丈夫、お金払ったから」と電話の相手に話しながら立ち去った。

 JR神田駅近くでは、男性が膚弓待ちしながらたばこを吸っていた。30代か。横断歩道を渡ってくるのを待ち構え、ビラを示すと、男性は「吸ってるんかいボケ」 「証拠見せろ」とまくしたてた。

火はもみ消したようだ。

2人は「説明させて下さい」と食い下がったが、男性は「どけ」と捨てぜりふを残して去った。

 様子を見守っていた私に、小川さんは「この仕事は信念を持ってやらないと」と話す。午前中に過料を払ったり、納付書を受け取った人は7人。通常の倍ぐらいという。

 千代田区内に路上喫煙禁止地区は10あり、皇居を除く区全体の52%に及ぶ。係長以上の職員全員と臨時職員計350人が交代で、くまなく回る。

過料を納めた人は約85人という。

 小川賢太郎・生活環境課主査(39)は「条例は着実に定着してきた」と話す。地域、企業、大学などがそれぞれ、清掃活動やパトロールを実施。歩きたばこを拾う側として汗をかいてくれる効果が大きいという。小川さんは「本来マナーであるものをルール化したのが条例。それをまたマナーに戻したい」と熱く語る。

「副流煙被害も 知ってほしい」
一方、路上禁煙地区から少しはずれた、同区大手町のサンケイビル前。
灰皿とベンチのある一角に喫煙者が次々立ち寄っていた。たばこを吸っていたアルバイトの男性(37)は、「歩きたばこは習慣。煙が他人にかかるようなところでは気をつけている」と話す。別の会社員の男性(43)は「喫煙者のマナーも悪いが、もう少し逃げ道(喫煙場
所)が多いといい」。

 たばこメーカーのJT(本社・東京都港区)も、秋葉原に屋内の喫煙スペースを設けた。さらに、喫煙するためのトレーラーやトラックを札幌の雪まつりや徳島の阿波踊りに送り込んだり、渋谷のハチ公前などには行政と連携して屋外喫煙スペースを設けた。「吸う人と吸わない人との共存」に躍起だ。

 罰則つきの歩きたばこ禁止条例は全国に波及しているが、過料をとる自治体は、広島市や千葉県市川市などまだ少数だ。

 「禁煙席ネット」主宰者で医師の宮本順伯さんは「歩きたばこは減ったが、マナーだけで根本的な解決は図れない。重要なのは、喫煙者が出す副流煙が強い毒性を持ち、周囲の人々の健康を害することがもっと知れ渡ること」と指摘する。

 私は吸わない。狭い歩道でたばこを振りながら無神経に歩く人を見ると、腹が立つ。今回、同行してみて条例の周知は進んでいることがうかがえたが、歩きたばこに寛容な社会からの転換は、緒に就いたばかりと感じた。

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