たばこのがんリスクと牛肉のBSEリスク?

『なるほど予防学』より 2005.11.6 日経新聞 朝刊
 人の判断基準は、多くが主観的だ。とっさの判断が求められる事態などではやむを得ないが、重要な方針決定の場では、客観的データも重視されなければならない。

 健康管理についても、正しい科学的情報を取捨選択し、客観的なトスク管理という概念で臨むべきである。そのためには、ある要因が有害であるか否かという情報に加え、その要因に遭遇する確率や、それを排除することにより期待できる見返りなどの定量的な情報が必要となる。

 英国では、牛海綿状脳症(BSE)感染牛100万〜150万頭で、約150人の新変異型クロイツフェルト・ヤコブ病患者が報告されている。

 日本で対策前に食用された感染牛は100頭とみられている。英国のデータをあてはめると、その時点で日本の患者数は一億人あたり0.04人いたと計算されるという。危険部位除去という対策で、発症リスクは一億人あたり0.0004人に減り、全頭検査でさらに0.0003人にまで下がるときれている。

 病気の悲惨さを考えると、安心して牛肉を食べるには、全頭検査してほしいという気持ちになる。しかし、多大な労力・コストと、見返りとなるリスク軽減とのバランスは良くない。食中毒でも毎年多くの人が命を落とす。ヤコブ病になりたくないから牛肉を食べないというリスク管理のための行動は、割に合わない。

一方、たばこ対策によるリスク軽減効果はどうか。40歳の男性喫腰者100人中、75歳までに何らかのがんになる人は推計32人。非喫煙者では20人なので、理論的には、禁煙によっで喫煙者のがんリスク3分の2程度に引き下げることが可能だ。

 日本全体で見ると、たばこ対策を徹底すれば、毎年48万人に発生しているがんの内の9万人のがんを、また、毎年27万人に起こっている30〜69歳までの早死の内の5万人の死を予防可能であると試算される。個人としても、日本社会にとても、健康維持のために、禁煙やたばこ対策には、きわめて大きな見返りが期待できる。


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