喫煙は緩慢なる自殺だ

『駆ける』より 2005.11.20 日経新聞 朝刊
1995年の阪神大震災直後。心臓血管外科医として勤務していた神戸市立中央市民病院の医局で、信じられない光景を目にした。

数人の医師がタバコを吸い、書類が散乱した床に灰を落としている。水道は止まり、周辺の道路は障害物だらけで消防車も通れない。 「自力で避難できない患者も多い。火事になったらどうするんだ」。言葉にならない憤りが、薗に病院の全面禁煙に取り組むことを決意させた。

 97年に同病院に禁煙対策委員会を設置。喫煙者は「ストレスの多い職場で息抜きも必要」と抵抗したが、薗は「患者の健康を守る病院で受動喫煙の害を放置できない」と3年がかりで説得2000年に建物内の全面禁煙を実現した。

 今年一月には全国でも数少ない病院敷地内の全面禁煙にこぎ着けた。途端に敷地の外で喫煙する患者が続出、「患者の所在確認が難かしくなった」と看護師が悲鳴を上げ、近隣から「路上のポイ捨てが増えた」との苦情も。守衛と協力して勤務後に周辺のパトロール≠始め、3月までに約1万1千本の吸い殻を回収、達反した患者ら約360人に注意して回った。

 喫煙は高血圧や動脈硬化の原因となり、心筋こうそくの危険を高める。情熱はスモーカーの治療にも注がれ、96年から禁煙外来や教室を設置。禁煙補助剤を処方するなど粘り強く治療を続けた結果、受診した約5百人のうち3割近くが禁煙に成功した。「人生にタバコが必要と思っていたのは勘違いでした」。50年間吸い続けた70代男性から感謝の手紙が届いた。

 今年四月に兵庫県西宮市保健所長に就任した後は、小中学校や高校で子どもや保護者を対象に講演し、タバコの害を訴える。「スモーカーの患者の中には、心臓病や肺がんで40、50代で早死にする人もいた。喫煙は緩慢な自殺だ」。

喫煙者を減らすばかりでなく、子どもを将来喫煙者にしないことを目指し、薗の地道な活動は続く。
医局はたばこの無法地帯になっていないでしょうか?

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