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●コラム:短編小説が難しい理由 (2011/10/15)

 短編小説はページ数が少ないので初心者に易しそうに思えますが、実はそこに大きな落とし穴があります。

  • 短編の英文は練り込まれていることが多く、長編より2倍難しい
  • 雑誌やアンソロジーは、作家ごとに文体と語彙が異なる。

 私もこの罠にはまり、雑誌を定期購読しては放置する失敗を何度も繰り返しました。洋書の初心者に長編をお勧めするのは、このためなのです。

 一方、短編小説は、その特徴さえ理解しておけばペーパーバック読みをより充実させてくれます。そのポイントをいくつかご紹介します。

■初心者は気に入った作家の短編だけを

Resplendent
スティーブン・バクスター
(ジーリー短編集)

 短編小説に挑戦する場合、まずは気に入っている作家の短編を選ぶことをお勧めします。

 できれば、日本で翻訳出版されている長編の「外伝」のような短編集があればベストです。同じ作家であれば、使う単語や世界観にもなじみがあり読みやすいからです。また、シリーズを通して出てくる登場人物なども、手元にある翻訳で確認することもできます。


 私の場合、昔からのスティーヴン・バクスターのジーリーシリーズのファンで、ペーパーバック読み始めのころその外伝となる未訳短編集を読み漁ったのですが、とても楽に読めました。

■アンソロジー・雑誌は作家のショーケース

SF傑作アンソロジー
Engineering Infinity
J.ストラハン編

 当たり前ですがアンソロジー・雑誌は、複数の作家の作品が載っています。数十ページごとに小説世界、文体・単語が切り替わることになるので、初心者は手を出さないほうが無難です。

 しかし、ペーパーバック読書を進めるにつれ、アンソロジーと雑誌は重要な情報源になってきます。

 

 アンソロジー・雑誌の最大のメリットは、知らない作家に出会えることです。つまり、作家のショーケースなのです。長編の読書を続けていると次に何を読もうかと悩む場合がでてきますが、そんなときはアンソロジーがお勧めです。多くの作家の中から、作風・文体・語彙なども含めて、自分にとって相性がよさそうな作家を見つけることができるというわけです。気になる作家が見つかったら、アマゾンなどでその作家の長編を探します。

 

 アンソロジーは、編者が時間を掛けて取捨選択しているので、一定レベルの作品がそろっており、ある程度安心です。

 雑誌は、初物好きの人向けです。穴埋めの駄作も多い一方、生きのいい原石や思わぬレビューに出くわすこともあります。たまたまその号だけ雑誌を買い損ねたために、傑作だという評判なのに単行本になるまで何年も読めなくて悔しい思いをすることもあります。


■アンソロジー・雑誌は、読み残して当然

 上記のような理由から、私は、アンソロジー・雑誌は「読み残して当然」と思うようにしました。もったいないからといって、つまらない短編も含めて全部読もうというのは、時間の無駄です。1冊に1篇、面白い短編に出会えたらそれでラッキーとしなければなりません。ここは、中高年の大人買いと割り切りましょう。

 かつては読み残し本を横目に新刊本を買うのは精神衛生上きわめてよろしくありませんでしたが、kindleのおかげで、積読本が増えてもあんまり気にならないですしね。(^ ^;)

■気に入った短編を3回再読する・味わって読解力アップ

 最後に、短編を使って読書力をアップできる方法をご紹介しておきましょう。

 それは「再読」です。


 英文を読んだ直後は、内容や途中で調べた英単語もまだ頭に残っています。この状態で再読すると、単語の記憶の定着が進むほか、全体構成が分かっているので文章自体の意味も1回目より深く理解できるのです。


 学生時代、興味の持てない教科書の文章を何度も読むのは拷問でした。ところが、自分が「面白い」と思った小説の場合は、逆にもっと深く味わいたいという欲求が生じます。楽しみながら再読ができるわけです。

 ここで短編の利点、「短さ」が生きます。気に入ったとはいえ500ページの長編を再読するのはさすがに大変ですが、20ページの短編なら何回でも読めます。本当に気に入った短編小説があったら、まず3回再読してみてください。読むたびにスピードが上がるはずです。単語が定着するのはもちろん、最初読んだときにはどうしても分からなかった文章構文がなぜか理解でき、読解力が向上します。

 「再読」は、英語学習のための多読ではほとんど無視されている方法ですが、味わいながら確実に効果があがります。ぜひお試しください。





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