2011年から、放送大学で「格差社会と新自由主義」と云うテーマで新しい講義が始まった。
一回45分の講義が15回継続され、各回の講義タイトルは左図の様になっている。
以下記載した部分は、新自由主義がもたらす格差社会の実態の抜粋である。
ソ連邦の共産主義が終焉し、東西冷戦構造が消滅した。 そして、西側の民主主義諸国では、「新自由主義」を標榜する政権が誕生してきた。
「新自由主義」はそれまでの政権の政策を左図の各項目に示す様に大きく修正して行った。
市場の規制撤廃、公共企業の民営化、自由貿易の推進などに大きく舵を切った。
規制緩和された公共部門と規制緩和の内容を左図に示す。
左図は、国民所得に対する「国民負担率」の各国比較を示す。アメリカ、日本などは国民負担率が低く、北欧諸国などは負担率が大きい。

「新自由主義」は小さい政府を標榜し、国民負担率も小さくする傾向が強いが、社会福祉主義を採る北欧諸国などは国民生活を守るセーフティネットを強化する為、高福祉・高負担(大きな政府)政策を採用している。
現在、完全な新自由主義に最も近いのはアメリカで、日本を含め他の主要国は社会福祉主義の方向にシフトしている。
1980年代以降、「新自由主義」の台頭とともに何故所得格差が拡大したか、格差基準にはどの様な考え方があるかを検討してみよう。
格差を定量的に表すには「ジニ係数」を用いる。
ジニ係数は、所得の一番小さい世帯から所得最大の世帯まで、小さい順番に並べ、横軸にその世帯数の全世帯数に対する累積比を目盛り、縦軸に各累積世帯数毎の所得額累積比(全累積所得額に対するその累積世帯数までの累積所得の比率)をプロットして行く。 そうすると、全世帯が均等な所得を得る格差の無い理想的な完全平等の場合は、左図に示す「均等分布線」で表示される。
格差があると下に凹な「ローレンツ曲線」で表示され、格差が大きいほど二つの線で囲まれる半月型の黄色い部分の面積は増大する。
「均等分布線」を長辺とする直角三角形の面積の対する黄色い部分の面積の比を「ジニ係数」と定義する。 図面全体の面積をベースとする時は黄色い部分の面積を2倍にして「ジニ係数」を求める必要がある。 完全平等な場合は「ジニ係数」はゼロとなり、最大値は1となる。
日本での「ジニ係数」の年度変化を左図に示す。
所得の多いものに累進課税を掛けると「ジニ係数」は減少し、所得再配分効果が生じる。
我が国における所得格差拡大の主要原因を左図に示す。

年度毎の生産年度人口は2000年をピークに大きく減少し、老年人口、後期老年人口はその分増大している。
世帯主の年齢階級別「ジニ係数」の年度別推移を左図に示す。 平均に対し60歳代以上の「ジニ係数」は減少しており、高齢化とともに格差が拡大している事が分かる。
正規雇用と非正規雇用の年齢別賃金格差を左図に示す。 非正規社員の増大が所得格差を増大させている。
現代の社会では所得格差は必ず生じるが、どの様な格差の有り方が許容できるかを考える基準として、2つの格差基準があり、それぞれにメリットとデメリットがある。 どちらかに偏るよりも、両者の中間的な所に正常な解があると考えられる。
全世帯数を所得の少ないグループから順に20%ずつに分割し、各グループの総所得を全所得との比率で表した、「分位内総所得」をピンクの棒線で示す。 これにより、所得最小のグループと所得最大のグループの所得比は、日本では約10倍である事が分かる。 最近アメリカで99%と書いたプラカードをかざしたデモ行進が行われたが、これは世帯数の1%が膨大な所得を独占しているアメリカの現状を揶揄したものである。
上記で述べた「平均所得倍率」の年度別国際比較を左図に示す。 アメリカでの格差が増大している。
日本でも1980年代から緩やかな増大傾向にある。
我が国における年度別平均所得倍率を示す。年度毎に上昇傾向にある。
赤線は全世帯の平均家計所得が2000年以降、急速な下降傾向にある事を示している。
左図は、所得5分位別の所得種別の構成比を示す。 所得最小の第1五分位では、公的年金・恩給が54%を占め、年金生活をする高齢者がこのグループに多い事を示している。
「ジニ係数」の推移から読み取れる事をまとめると、左図の様に要約される。
我が国における所得別雇用者の分布を1997年と2007年で比較してみると、中間所得層が減少し、低所得層に移行している実態がはっきりと見て取れる。
非正規労働者の内訳と年度別推移を表す。
1985年から2009年に掛けて全体で約3倍に増加している。 これが低所得層への移行の主原因の一つであると考えられる。
人件費の削減を計る為に、自民党政権が実施した非正規社員の規制緩和の実態を示す。
この様な施策により、非正規社員は増大して行った。
非正規社員の規制緩和にもメリットがあると主張する人もいる。
メリットに比べ、デメリットの大きさは計り知れない。
時給ベースでみた年齢別の賃金カーブ。
2008年の実態を表す。
非正社員では、退職金、ボーナス、自己啓発援助制度に、正社員と比べ、大きな格差がある。
高齢化と所得格差が原因で、60歳代の自殺が1980年前半から急増している。
徹底した社会福祉政策を採る北欧での一例、デンマークでのセーフティーネットの張り方を、参考に示す。 高い税金や社会保障費は取られるが、失業中の生活保障や徹底した再訓練・教育支援などにより、安定した生活が実現している。

新自由主義が掲げる「小さな政府」と社会福祉主義が実行する「大きな政府」のどちらが、国民大多数の幸福にとってより優れた政策なのか、この講義でも、結論は出ていない。

社会福祉国家への移行には、気の遠くなる様な障害が立ち塞がっている。