道具を使う動物(20081214)

 

本能で行動する事が多い動物にも道具を使うものが次々見付かっている。それらの行動は親から子に学習を通して継承され、仲間にも真似されてその地域全体に広まって行き、一つの文化を形成する。 以下、私がテレビで見た数々の事例を列挙してみよう(一部の記述は「最近感じる事」(06-07)に掲載の「動物の知恵」と重複しています。)

  1. 数字の大小や言葉が分かるチンパンジー

    このチンパンジーは京都大学の類人猿研究所で人間から数字や言葉の意味を教えられ、ディスプレー上にランダムに表示される沢山の数字を瞬時にその大きさの順に指でタッチして行く。 数字だけではなく文字とその意味を記憶し、例えば「バナナ」と言う文字を示すと傍にあるバナナを持って来る。 アメリカの大学では、チンパンジーに英語を教え、人間の言う事を聞き取りそれに反応するまでに成功した事例がある。 喉の構造が違う為残念ながら人間と言葉で会話する事は出来ないが、人間の言う事は相当理解できる。

  2. 石を使う猿

    南米に住む猿の一種は硬い木の実を割って食べるため、数キロの重さの石を使い、2本足で立ってそれを持ち上げ、硬い倒木などの上に置いた木の実目がけて石を振り下ろし、硬い皮を割って中身を食べる。 その地域の同種の猿は子供から大人までこのやり方を学習し伝承している。 人間は二足歩行をする様になって手を自由に使えるようになり知能が発達したと言われる。 二足歩行の切っ掛けは何だったかはまだ解明されていないが、この様な行動が契機となった可能性は考えられる。

  3. 自動車で貝を割るカラス

    カラスは頭のいい鳥だが、東北では海岸で拾った貝やサザエなどをコンクリートの道路に落として殻を割り中身を食べるカラスがいる。 最近は更にそのやり方が巧妙になり、車の轍の通りそうな場所に貝などを置き、車が通ってそれを割ってくれるのを待つカラスが現われた。 上手く行かない時は、貝の置き場所を移動して車に轢かれ易い様にする知恵もある。

  4. 小枝を使って木の中の虫を食べる鳥

    木に穴を開け木の皮の内側に潜む昆虫の幼虫などを食べる鳥で、この小枝を爪楊枝の様にして穴に差込み、中にいる虫を引っ張り出して食べる習性を持つものがいる。 学習でその習性はその地域に広まっている。

  5. 昆虫を餌にして魚を取るサギ

    人間が疑似餌を使ってルアーで釣をする様に、ハエなどの昆虫を捕まえ、それを水面に浮かべて魚が近づくのを待ち、ハエで魚を釣るサギの一種が発見され話題になっている。 

  6. 疑似餌を使って魚を取る亀

    ペットの野生化で日本でも問題になっている「食付き亀」は舌の先端近くにミミズのような突起があり、口を開いて舌を揺らすと、子魚が餌と間違えて寄って来る。 そこを逃さず噛み付いて食べてしまう。 これは自家製の道具を使う事例であり、同じくチョウチン・アンコウは、大きな口の前に頭から出た細長い突起の先に付いた光る疑似餌を使って暗い深海で巧みに餌を取る。

  7. キノコを栽培するアリ

    南米などで多く見かける葉切り蟻は植物の葉を小さく切って地下の巣に運び、それらを発酵させてキノコを栽培し、食料にしている。 まさに農業をするアリである。

  8. 泡のカーテンを使って魚を一網打尽にするクジラ

    哺乳類であるクジラも頭脳が発達している。 水中で鼻から音を発信して仲間のクジラと交信し、また、数頭で群れを成して水中に泡のカーテンを作り、イワシなど群れを作って遊泳する魚群をその中に追い込んでおいて、大口を開け水中から一網打尽にそれらを呑み込む。 歯の様に口の渕に生えている濾し器(ひげ)を使って呑み込んだ海水は吐き出す仕組みになっている。

    長い進化の過程で、生物は色々な道具を手に入れ、それらを体の中に格納した。したがって特別の道具を使わなくても生活に支障は無い。 しかし、傍にある道具を使えば、更に効率的に食べ物を獲得できる。 道具の使い方を最初に発明した動物は偶然とは言え、幸運に恵まれた。 そしてそれを子供や仲間などに学習させ、自分たちの文化として継承している。 遺伝子による本能の継承だけでなく、後天的に学習した事を継承するのは人間の専売特許ではなく、広く生物界でも行なわれているのである。