原子力発電の将来(2011年6月7日)

1. 福島第一原発事故が示唆する事

まず東京電力が原発建設当時から云って来た安全神話が、粉飾された虚構であったと云う事、第2の示唆は、地震や津波によって破損した設備のリスク対応能力が無かったと云う事である。 彼等は今回の災害は想定外の大きさであったし、破損後に水素爆発が起きる事は知らなかったと弁解している。
しかし、第3者の冷徹な目で見ると、建設当初、利害を度外視した十分な安全設計がなされていなかった事が分かる。 建設を実現する為には、地元住民に対して絶対に安全だと云うほかなかった。 しかし、企業家としては安全設計と建設コストのトレードオフを考えねばならず、絶対安全な設計はあまりにコストアップを招くので実現できなかった。 原子力安全委員会が通産省内に設置された自体がそれを物語っている。
想定される津波の高さも10mとされた。 これは当時としては妥当な数値であったかもしれないが、1150年前にこれを越える大津波が東北を襲っていたと言う記録(貞観地震時の津波)は、知る人が少ないと言う当時の事情にかまけて意識的に割愛され、御用地震学者たちが科学的に推定したと言うコストアップに繋がらない緩い想定値を採用した。(東北地方で、公認された津波の想定値10mを採用せず、15mの防波堤を建設した町は1箇所だけだったが、そのお陰でここだけが今回の大津波の災害を免れた。 他の市町村は建設工事費の削減を計る為、挙って10mを設計基準とし、東電と同じ過ちを犯した。)

今回の事故処理が遅れたのは、事故発生時、外部から供給すべき電力のバックアップが不十分であったからである。 移動電源車が、原発構内に置かれていた為同時災害を受け、予備電源の役割を果たせなかった事が、原発容器内の冷却を遅らせ、水素爆発を引き起こす原因となった。 後から考えれば何故小高い丘の上に電源車を待機させなかったのかと思うが、当時は安全の為のコストを如何に下げるかで頭が一杯でそんな簡単な事が見過ごされていた。
また、事故後の冷却処置が遅れると水素爆発が起きると云う事を予測した専門家がいなかったと云うのも、事故発生後のリスク管理体制が疎かにされていた証拠である。
安全委員会とは名ばかりで、本当は素人の集まりに過ぎなかった事が露呈した。 これも広い意味での安全設計が十分に考慮されていなかった証拠である。

2011年6月11日の読売新聞によれば経済産業省所管の独立行政法人「原子力安全基盤機構」が2008年から毎年発表している報告書は、福島第1原子力発電所2,3号機と同規模のマーク1型原子炉の津波災害を、防波堤の高さを13mとして解析。 15mの津波が来襲した場合、外部電源、非常用電源を含め全電源が失われ、冷却機能停止によって100%炉心が損傷すると予測していた。 2010年公表の別の報告書は、地震によって全電源が喪失した場合、わずか約1時間40分で燃料溶融が始まり、約7時間後には、格納容器まで損傷し、大量の放射性物質が大気に放出されると予測した。 原子力安全・保安院とともに、原発の安全基準を担う基盤機構の研究成果は、電力会社の対策に反映される事も多い。 しかし、東電は「発生確率の高いものを優先し、対応に手が回らなかった」と弁解する。安全神話を維持する為、これらの忠告に耳を傾けなかった東電の体質には、事故が万一起こった場合に発生する莫大なコストに頭を回す想像力よりも、安全対策にかかるコストを如何に減らすかで頭が一杯になるな企業家気質が染み付いていた事が読み取れる。 上記の研究結果が生かされなかった背景にメスを入れる必要がある。

2. 原子力発電の将来

今回の事故を見て、ドイツでは原発廃棄へと大きく政策を転換した。 地震国でもないドイツが方針の大転換をしたのは、実に懸命な処置だったと思う。
私は、日本の様な地震国は、今回の事故を教訓として原発拡大路線から撤退し、自然エネルギー発電の普及へと大きく舵を切るべきだと考える。
電力会社は、今回の教訓を基に十分な安全対策を施せば、原発を廃止する必要は無いと主張するが、彼らは独占的な企業利益をあげる為にそう言っているに過ぎない。
人間の浅はかな知恵では1000年単位で発生する自然災害のピーク値を予測し、安全設計に織り込む事は出来ない。 今回の大災害の経験も、世代が変れば次第に忘れ去られて行く。 戦争を知らない子供がいつかまた戦争を繰り返すのと同じだ。 人間はその日の生活に追われ、遠い過去の歴史から教訓を学び、遠い将来に生かす長時間思考の余裕を持たない。 
地震予知ですら、一向に進んでいない。 まして大津波の予測など人間の能力の限界を超えている。 人間は自然の前にもっと謙虚にならなければならない。 
そんな未知の危険を孕んだ原発を推進するよりも、各家庭に太陽電池等による自家発電を普及させる方が、将来の電力コストを節減し、集中発電から分散型発電に転換する事により災害にも強い社会インフラの実現を可能にする。
ヨーロッパ(フランスは除く)などでは、殆んどの国がその方向に向けて自然エネルギーを利用するクリーンな社会を作る政策を推進している。
これが地球温暖化を防止する最善の方策である事は間違いない。