生命の驚異(03624

 

放送大学の講義には生物学に関するものが数講座あり、その中に「ゲノム生物学」と言う講座がある。 その第11時限目に「バイオ・インフォーマティクス」についての講義があった。

今までの生物学は、物質やエネルギーの流れを通して生物の生態を観測して来たが、生物の持つ厖大な情報量に着目し、コンピュータを駆使してそれを体系化するのが新しい生物学「バイオ・インフォーマティクス」であると言う。 ヒトゲノム計画、DNA情報の解析、DNAによる生物の進化の解明、バイオコンピュータなど着々と成果を上げている。

この講義の中で非常に面白い事が指摘されたので、それらを抜粋してみよう。 

  1. 人間の血管の総延長は10万km(地球2.5周分)である。
  2. 人間の身体は約60兆個の細胞から出来ており、その中に含まれるDNA螺旋形分子をすべて縦に繋ぐと、冥王星の軌道直径(km)の10倍になる。 しかし、総重量はわずか20gである。
  3. 脳の神経細胞は個あり、一つの細胞から約1000個のシナプス(他の細胞との通信用内部配線端子)が出てネットワークを構成している。 従って通信回線の総数はのオーダーになり、世界最大級のスーパーコンピュータを越える。
  4. 人間のDNA配列は一人一人異なるので、人口の数だけ異なる遺伝子の組が存在する。
  5. 現在、地球上に生きている生物の種で認定されているものは、存在が推定される種全体の1%に過ぎない。
  6. 生命の起源は一つであり、約40億年掛けて種々の生物に多様化していったが、すべての生物は親戚関係にあり、相互作用によって結ばれ、一つの生命系を構成している。

講義中に示された図を2つ掲載して置く。

受精した時たった一個の細胞だったものが60兆個に分裂し、骨格、筋肉、神経系、循環系、消化系などよりなる身体を形成する。 自然が30数億年掛かって作り上げた生命体のスケールの何と雄大な事か。 30数億年の歴史が我々の体に凝縮している。 生命が如何に貴重な存在かが分かる。 

さて、ヒトゲノム計画により30億個のDNA塩基配列は全て解明された。
(注: DNA塩基は4種類あり、一つが2ビットの情報を担う。 従って、全部で60億ビットとなり、バイト(=8ビット)単位で表すと8.25億バイトの情報量となる。CDディスク一枚の記憶容量は700MBであるから、825MBあるDNA情報はCD一枚には収まらない。)

次の段階は、この暗号文の解読である。 情報文には必ずその文法があり、文法が分かれば解読が容易になる。 自然が作った文法はそれ程複雑なはずは無い。 単語の意味(各遺伝子の機能)と文法(遺伝子発現のアルゴリズム)を解読すれば、我々は長大な暗号文(DNA配列)から「神」の意志(自然が40億年掛けて蓄積した情報)を読み取る事が出来るかも知れない。 人間は何処から来て何処へ行くのか。 
それを「永遠の謎」に終わらせてはならない。