共生する生命 (03/5/21)

  1. 共生して生きる

    30数億年前、この地球上に生命が誕生した時、それは余りにもか弱い一片の有機物に過ぎなかった。 厳しい地球環境に晒され、死滅するものも多かったと思う。 どうやって生き延びたかは誰にも分からないが、兎に角生き延びて来たのは、やはり偶然の仕業だったのだろうか。

    それぞれの異なる環境に合った色々な生命体が誕生した可能性があると私は推測する。 或るものは直ぐに死に絶え、或るものは増殖に成功して生き延びた。

    そんな状態が何億年も繰り返されている内に、増殖力のより強いものが突然変異で現われ、自然淘汰が更にその進化を促した。 そして遂に、生物は細胞の形態を獲得し、幾種類かの単細胞の細菌へと分化して行った。

    これらの細菌たちは、食べ物を求めてお互いに競争関係にあったが、中には2つの細菌が細胞同士融合して、共生するケースも発生した。

    今で言う葉緑素もその頃は独立した単細胞生物だった。 太陽光と炭酸ガスを吸収して有機物を合成しそれを栄養にして生きていた。 今の植物の原型である。 その周りには硫化水素など他の物質を栄養とする生物がいたが、葉緑素細胞と合体して太陽光からもエネルギーを生産出来る生物に進化して行った。 共生によって生きる機能が強化され、更に進化を遂げて今日の植物のルーツとなった。

    また、殆どの生物細胞にある「ミトコンドリア」も、原始時代には独立した生物だった。 酸素を吸収して有機物を分解する(呼吸する事)機能に優れていた為、色々な単細胞生物と合体して酸素呼吸をする生物を誕生させた。 それまでは硫化水素とか硫黄を分解して生きるエネルギーを獲得していた生物達が、酸素呼吸によりエネルギー変換効率を約10倍改善出来た。

    こうして、殆どの生物は「ミトコンドリア」と共生して酸素呼吸生物へと進化していった。

    共生が始まった頃は、合体した細胞は2塊のDNAを持っていたが、次第に遺伝子のグループ分けと分業が進行し、葉緑素や「ミトコンドリア」が持っていたDNAの内、宿主のDNAとダブっているもの、宿主の核に有った方が効率的なものが宿主の核内に移動し、主従の関係を持って、一個の細胞に統合され、今日に至っている。

    つまり、弱いもの同士が協力して一つの生物になり、生命の火を燃やし続けて来た。 その後、複合化した単細胞は更に合体し、多細胞生物へと進化し、個々の細胞の機能を分化させながら、今日の1億を越える生物種に多様化して行った。

  2. 協調の世界

    生存競争に明け暮れていると思われる動植物達のルーツが、相互協力により生きる機能を強化した複合単細胞であった事は、非常に示唆に富んでいる。

    生物は、他の生物を犠牲にし、生存競争を勝ち抜いて生き残ったのではなく、相互に協調しながら生きて来たのである。 生存競争も協調の一形態に過ぎない。 お互いを犠牲にしているのではなく、協調して生きているのがそう見えるだけなのである。 個人のエゴと公共の福祉の対立関係も見方を変えれば協調・妥協の相互関係である。 

    要するにこの世は、如何に協調して生きて行くかが最大の課題なのである。

    階級闘争、貿易摩擦、文明の衝突など、きな臭い対立の概念が弄ばれているが、それらはすべてマイナス思考であり、協調こそが問題解決の最も賢明な選択肢でありプラス思考である事を、我々は自然界から学び取らねばならない。