保守的な電磁気力の世界(2007721)

  1. エネルギー保存の法則

    自然界を一元的に見る場合、エネルギーに着目して、その空間的または時間的な変遷の流れを観察すると、常に「エネルギー保存の法則」が成立する。 すなわち、宇宙は本来保守的なのである。 宇宙開闢のビッグバンは膨大なエネルギーの爆発で始まった。 しかし、瞬く間にエネルギーは素粒子や電子に形を変え、更に水素やヘリウム原子を構成した。 これらが引力で互いに引き合って星を形成し、強大な重力に押された内部が温度の急上昇を起こし、水素原子2個が融合してヘリウム原子1個になった。 その際、素粒子の持つ質量がわずか減少して膨大な熱エネルギーを発生し、持続的核融合反応の火が点火した。 これらが膨張する宇宙の中で光を放つ星々である。

    宇宙開闢以来150億年の時間が経過し、星々は誕生と死を繰り返しながら銀河を構成したが、「エネルギー保存の法則」は常に全宇宙を支配して来た。

  2. 電磁誘導の法則

    自然界には四つの力が存在する。 重力、電磁気力、強い力、弱い力がそれである。この中で、我々の日常生活に最も関係深いのが電磁気力である。

    その電気や磁気の世界は非常に保守的である。 

    170年近く前、イギリスの実験物理学者マイケル・ファラデーが発見した電磁誘導の法則がそれを表す。

    (ファラデーについてはhttp://www.ijinten.com/contents/ijin/faraday.htm 参照)

    ある導電体に直流電流が流れると磁界が発生し、近くに金属を置くとその中に起電力が生じる。 金属がループ状に閉じているとそこに電流が流れ、その電流が新しく磁界を発生する。その時、誘導された磁界は元の磁界を弱める方向に発生する。磁界の変化が速いほど発生する磁界は強くなる。 これがファラデーの発見した電磁誘導の法則である。

    別の言い方をすると、反発する磁界が発生し、磁界の無かった以前の状態に戻そうとする。 すなわち、保守的である。 

    しかし、この保守性のお陰で、宇宙は150億年も存続して来た。 もし電磁誘導で発生する磁界が、元の磁界を増強する方向に働いていたらこの宇宙はどうなっただろうか。 わずかな電流が流れると、それが引き金になって、電磁誘導で磁界が強くなり、それが起電力を増すので流れる電流が増加し、その影響で磁界が更に増大しと言った正のフィードバックが掛かり、金属は発生する熱で融解・蒸発するであろう。 核爆発と同じ連鎖反応で星は一瞬の内に爆発するだろう。

    水素の核融合反応の速度に比べ、電磁誘導は光の速度で伝播するので宇宙は一瞬に火達磨となり、星も生物も存在しない灼熱地獄と化しただろう。

    ビッグバン以来150億年に亘りこの宇宙が存続してこれたのは、電磁力が変化を抑圧する様に働く性質を持っているお陰であると云えるのではあるまいか。

    逆に言えば、その様な性質を持たない宇宙は存続自体が不可能であるとも云える。

    電磁気学には電流と磁力に関する色々な法則があるが、これらの法則は、いちいち個別に記憶しなくても、「必ず保守的に働く」とだけ記憶しておけば十分なのである。 これから電磁気学を学習する人はそう云った理解の仕方をした方が良い事を付言しておく。