情報化社会の欠陥(2007615日)

  1. 「俺々詐欺」が象徴するもの

    ここ数年、電話や携帯を使った詐欺行為が頻発する様になった。

    これは、個人情報の漏洩とも関係があり、知らない人の家族構成などの情報を有料で購入し、その中から口車に乗り易い老人を選んで金を振り込ませる情報詐欺である。

    なかにはアルバイトの若者を数人雇って、手当たり次第に電話を掛け、根気良くカモが引っ掛かるのを待つ輩もいる。 応対のマニュアルを作って、効率を挙げている組織もあると言う。

    簡単に電話が掛かる事、相手の顔が見えないので声だけの演技に騙され易い事、小金を持った孤独な老人の家庭が増えてきた事、不正に入手した個人情報が転売され易い事など、この種の詐欺が増えた原因は沢山あるが、要は情報化社会の一欠陥が悪用されているに過ぎない。

  2. 簡単に出来る情報改ざん

    我々の社会は相互の情報交換を通して機能しているが、情報の改ざんは簡単に出来るので、至る所で発信情報の改ざんが行われている。 情報の良い所は、通信技術が発達したお陰で、瞬時に低コストでの発信・受信が出来る事である。 しかし、大きな欠点は、簡単に改ざん・歪曲・捏造などの操作が出来る点である。

    人間は弱い生き物であり、時々無意識に過ちを犯す。 それを隠そうとして発信する情報を改ざんし白を切る。 最初ついた小さな嘘は、時間が経つうちに積もり積もって重大な過ちに成長する。 それでも、会社の為、保身の為と思って嘘をつき通し、終にはぼろを出す。 情報と言うものが簡単に改ざん出来ない性質のものなら、これだけ多くの過ちが日々繰り返されることは無いであろう。 情報化社会の一大欠点である。

  3. 誇大宣伝が罷り通る社会

    新聞やテレビはコマーシャルが誇大宣伝かどうか一応チェックして公開しているらしいが、あまり固い事を言っていると収入が減るので相当数の誇大宣伝や粉飾宣伝が毎日の様に発信されている。 最近はインターネットのホームページやブログなどに他社のコマーシャルを掲載し、それへのアクセス数に応じて広告料を稼げるシステムが出来つつあり、人気のあるブログでは年間数千万円の収入があると聞く。

    インターネットの宣伝は経費も掛からず、興味のある人だけがアクセスするので、宣伝効果は新聞やテレビなどのマス・メディアより高い。 その為、インターネットの広告収入は、従来のマス・メディアのそれをもう追い抜いているらしい。

    新聞や民放テレビの経営が成り立たなくなるのも、そんなに遠い将来ではない予感がする。

    情報化社会では、誇大宣伝が蔓延ると言う欠陥があり、インターネットにシフトすればする程、広告料の減少したメディアのコマーシャルの質は劣化したものになって行くだろう。

  4. インターネットに蔓延る病根

    情報化社会では貴重な情報は有料である。 出会い系サイトでは知らないもの同士でエッチな会話を楽しんで、後から数十万円の請求が来る暴力バーまがいの詐欺行為が増えつつある。 脛に傷持つ小心者は公にされたくないので、泣く泣く彼らの要求に応じる。 一度味を占めた連中は、ますますエスカレートして来る。 こうして、知らない者同士の間で、不正行為が日常茶飯事になって行く。 情報空間の相手しか知らないので、詐欺行為はますます大胆になって行く。

    以前は、インターネット・オークションなどで、不良品や盗難品を掴まされて大損をしたと言う話が多かったが、最近はオンラインでの商売も幾らか信用できる様になって来た。 詐欺ばかりしていると、健全なオンラインの商売が発展しないので、これも自然の成り行きだろう。 しかし、悪知恵の働く人間は後を絶たないので、バーチャルなネットワークの中に悪の蔓延る空間は至る所にある事に留意しなければならない。

  5. インサイダー取引

    インサイダー取引は株式市場での犯罪行為として取り締まれているが、魚心あれば水心で、みすみす儲かる情報を利用しない馬鹿はいない。 本人がやらなくても、電話一本掛ければ、代理人は幾らでも見付かる。 後で儲けを回して貰う架空口座など簡単に出来る。

    私は、官製談合も政治献金もインサイダー取引の一種だと思う。 自分達だけで入手した情報を悪用して稼ぐ手口は本質的に同じである。 情報化社会は情報が金を産む社会であり、甘みのある情報を独り占めされる不公平な社会である。

  6. 速過ぎる情報交換は社会を緊張させる

    いま、グローバル化の波が世界を蔽っている。 光海底ケーブルや衛星中継システムのお陰で、世界中の情報は瞬時に世界中を駆け巡る。 国内においても国際間においても、情報伝達の速さは凄まじく、情報の交換は更に新しい情報を生んで、雪だるま式に増殖する。

    こうして、人々は情報の洪水に見舞われて緊張を強いられ、相互間の競争はますます熾烈になる。 世の動きに付いて行けない人達は疲れ果て、自殺者や精神病患者が増え、社会はますます病んで行く。 弱肉強食の住み難い社会に変貌する。

  7. 情報はますます過激になる

    漫画一つを取っても、その内容は時を追って過激になる。 常に前の情報を超えようとし、話のねたは尽きて来るので、ますます刺激的なストーリーにバージョンアップする破目になる。 読者を飽きさせないで置くには、これしか方法は無い。 無限の想像力など持ち合わせないから、類似の筋書きで描写だけ過激にする。 いまのアメリカ映画の暴力的傾向を見るが良い。 彼らにはこれしか生きる道は無いのだ。

    情報化社会になって、生活に有用な情報を得やすくなった事は認めるが、情報化社会の持つ過激性が大きな社会問題となりつつある。 人々は、もっと物静かな、ゆとりのある生活を望んでいるのに、社会は思わぬ方向に加速しつつある。 このまま進めば、いつか、暴力的で過激な情報分野の風潮が、現実の社会に感染して行く惧れが充分にある。

  8. 情報管理システムの脆さ

    最近立て続けに問題が発生した。 一つは全日空のコンピュータシステムの障害で、旅行客の予約受付が出来なくなった。 窓口に受付する人はいるし、航空機も日常の運行に合わせてちゃんと待機している。 しかし、すべての窓口作業はコンピュータに依存しているので臨機応変に昔の手作業に切り替えることが出来ない。 大規模なコンピュータシステムは必ず障害を起こす。 その時の応急処置もコンピュータシステム設計のリダンダンシ−で乗り越えなければならない。 しかし、システムは想定外の障害を起こしダウンしてしまう。

    一回の障害が起きると数十億円の損害となるので、システム設計者は色々のバックアップ態勢が取れる様に最初から設計しているが、システムの規模が大きくなり複雑になる程、必ず未必の欠陥が隠されている。 情報化社会は思わぬ脆さを内包している脆弱な社会なのである。

    最近起きたもう一つの問題は、社会保険庁の年金不払いである。 延べ5000万人の人の年金記録が宙に浮いている。 別人が年金を払った様な記録が残っていたり、払ったはずの年金が記録漏れしたりしている。 色々な職業を点々とする人はその都度就職先変更の届けをする。 これらの情報をインプットする人はアルバイトの素人である。人為的な間違いはそのままインプットされ、誰もチェックしない。 国民背番号制になっていなかったので、個人の識別を名前でするしかなかった。 複雑で膨大な情報を管理する体制を取っていなかった所に問題がある。 情報化社会では、膨大な情報に翻弄されない様、記録方式の単純化は必須である。 それを怠るととんでもない事態が発生し、情報の海で溺れる破目になる。

    情報化社会は複雑な個別システムの複合体であり、その複雑さが時に、人間の情報管理能力を超える危険性を秘めている事を良く認識し、万全の対策を講じる必要がある。