資本主義の欠陥(2007621日)

 

  1. 所得が公平に分配されない

    資本提供者や経営者に不公平に多くの所得が配分され、労働者や被雇用者に割安な所得が配分される。 資本主義とは資本家に高所得のインセンティブを与えて、出来るだけ多くの設備投資をさせ、会社を成長し易くした制度である。

    したがって、所得格差を拡大する要因を最初から含んでおり、所得の多いものはますます所得を増やして行き、所得の少ないものはなかなか所得を増やせないシステムになっている。 例えば、ベストセラー作家は、10万冊売れようが100万冊売れようが本の値段を変えないので、直線的に所得が増大する。 沢山売れるほど本の値段を漸次下げて、あるレベルで飽和する様にすべきであるが、資本主義の経済ではそんな事はしない。 本が沢山売れるのは買う人が増えたからであり、本当は本の値段を少しずつ下げて消費者への所得の再配分をすべきであるが、そんな事は誰も考えない。 これが資本主義の欠陥の一つである。

  2. 生産性を上げるほど失業者が増える

    資本主義の下では同業各社の競争によって生産コストを下げ、安くて良質なものを消費者に提供して、利潤を拡大するという手法が採られる。 その為には製造のオートメーション化が必須である。 すなわち、生産コストに人件費の占める割合を出来るだけ小さくしてコストダウンを計る様熾烈な競争をする。 自動化の設備製造、自動化のソフト開発に人手やコストを要するが、自動化による人件費削減の方が大きいのでトータルコストが節減でき利潤が増大する。 この様に、生産性を上げるほど雇用は減少する構造になっているのである。 雇用を維持するには人件費縮小を打ち消すだけの生産規模の増大を実現しなければならない。 いや、生産性が上がると労働者一人当たりの所得が上がるので、その分だけ余計に生産の規模を拡大しないと雇用を維持できない。

    先進国ではこうして職に就けない若者が増え、フリータやニートと云われる定職の無い低賃金労働者や、何時まで経っても芽が出ない俳優、歌手などがどんどん増えて行く。

    次章で述べる様に、安い人件費を求めて企業が海外進出するので、雇用不安の問題は一層深刻になる。

    ここにも貧富の差を拡大する利潤第一主義の資本主義の構造的な欠陥がある。

  3. 所得の低い国ほど損をする

    先進国の一人当たりの国民所得に比べ、発展途上国の国民所得は大きく差を付けられている。 例えば中国に進出した企業は、中国人を訓練して自国の労働者と同じ程度の技術レベルにしながら、支払う賃金はその国の相場によるので、数分の一の人件費しか払わない。

    同一労働・同一賃金が原則の自国の所得配分とは大きくかけ離れたやり方で莫大な利益を挙げる事が出来る。 もっとも、人件費の下がって分、商品の価格を幾らか下げているが、国際間の所得の格差を利用して儲けている事に変りは無い。 

    同様な事は、発展途上国が輸出する一次産品の価格が安過ぎる事にも言える。

    これらは、所得の低い国の為替レートを割安に維持し、先進国を有利に導く為替システムの特性が作用している。 途上国の労働者は法外に安い賃金で搾取されているのである。

    これも資本主義の構造的な欠陥の一つである。

  4. 拝金主義が罷り通る

    人生の目的は金を稼ぐ事である、と言う拝金主義が社会的風潮になり、その為には少々嘘をついても、インサイダー取引をしても構わない。 税金は出来るだけ誤魔化して脱税するのが賢い者のやり方である。 公共工事は談合して出来るだけ多くの税金をせしめる。

    会社の為に能率良く仕事をしないものは左遷したりリストラし、お互いを争わせて出来るだけ労力を搾り取る。 その為に競争に敗れた個人が敗者になっても構わない。 

    金儲けの為には、手段を選ばないと言うのも資本主義の一大欠点である。

    政治体制にも問題がある。 表向きは民主主義を標榜しているが、政治献金という賄賂性の高い献金を受けて政治家は活動する。 したがって、多くの金を持つ階級ほど多額の献金をし、政治家は献金者に有利になる様な政治をする。 公開されない多額の政治献金が裏社会で動き、富裕層にますます多くの所得を配分する様に画策される。

    米国の「死の商人」達は、大量の武器を売る為に、軍部と結託して「産軍複合体」を構成し、政治家へも働き掛けて、世界中何処でも戦争の火種が消えない様に画策する。 人の命よりも自分達の稼ぎを増やす方が、彼らにとってはより価値がある。

    地球温暖化が問題になっていても、自国の産業を保護する方を優先する米国の態度など、拝金主義の際たるものである。

  5. 投機が横行する

    資本主義社会では、他人への迷惑など考えず、金儲けの出来る所に投機資金が集中し、例えば、日本では土地の値段が鰻上りに上昇した経緯がある。 土地など公共の物件を投機の対象にしてはいけないはずなのに、自由経済を標榜する資本主義では公衆の迷惑など考えず、投機によって物価が乱高下する。 土地成金が所得番付の上位を独占した時期が続き、土地を持たない大都市のサラリーマンは稼いだ金を殆ど土地成金に搾り取られた。 政府も有効な対策が打てず投機家のなすがままに放置された。

    最近では、株式への投機がエスカレートして、MRAが盛んに行われる様になった。

    会社自体を売買して金を稼ごうなどと言う事は本来すべきではない行為であるが、何でもありの資本主義ではそれが許される。 

    産業を発達させて国を豊かにすると言う生産的な行為ではなく、投機と言うマネーゲームで、楽して金を稼ぐ事に血道を上げる。 これが、資本主義の到達する末路の姿である。

  6. 資源を浪費する

    資本主義は大量生産、大量消費により出来るだけ金を稼ごうとする。 その為に地球上の資源が枯渇しても知った事ではない。 新聞に挟まれて毎朝届く大量のチラシ広告、広告費を高く維持する為に売れない新聞を大量に印刷する新聞社、使い捨て商品の氾濫、燃費の悪い高級車の販売など、大量生産・大量消費を煽り、公害や資源の枯渇などお構い無しに、自分達が稼ぐ事だけを優先する。

    最近、やっとその矛盾に気付き、資源のリサイクルと真面目に取り組むようになって来たが、これは本来の資本主義の欠陥を修復しているに過ぎない。

  7. むすび

    いかなる主義主張にも内包する欠陥がある。 しかし、良い面があるので人はそれを受け入れ懸命に努力して裕福になろうとする。 しかし、時間の経過とともに次第にその欠陥が露出し、修正を迫られる。

    人類の歴史はその繰り返しであり、現行体制の矛盾点が急激に高まると革命が起きて新しい体制に入れ替わる。 フランス革命、ロシヤ革命、南北戦争、明治維新、植民地の独立戦争など、人類は色々の社会革命を乗り越えて、国民皆が満足に生きられる社会の実現に努力して来た。 資本主義を改革しようとした共産主義は失敗に終り、現代は何とか資本主義体制が世界的に維持されている。 しかし、上述した様に資本主義体制の矛盾点が露呈し始め、地球的規模での公害、資源枯渇、所得格差、民族紛争、テロリズムが人類を苦しめつつある。 この苦しみから脱却する道はあるのか。 国連を中心にして色々な対策が検討されているが、南北間の対立、民族間の対立、人間の欲望の対立が複雑に絡み合ってなかなか解決への道が見出せない。  しかし、このまま進めば人類は滅亡する。 

    それを食い止める為に、我々人類の本当の知恵が今試されている。 

    手段を選ばない利潤の追求を抑制し、経済成長第1主義を捨てない限り、人類の最大多数の最大幸福は実現出来ない様に思える。