退化する人類(07/5/15)

 

  1. 高度技術社会の落とし穴

    最近の医学の進歩は著しい。 大抵の病気は、安い健康保険制度で簡単に治る。 昔は、子供の死亡率が高く、病弱な子供は自然淘汰された。 しかし、現代は医療技術の進歩したお陰で病弱な子供も何とか成長し、結婚して子供を作る。 こうして、病気に弱い遺伝子が自然淘汰されず、次第に蔓延していく。 例えば、戦国時代には「人生50年」と言われた。 しかし、現在の日本は世界一の長寿国で、男女の平均寿命は80才に達している。 今もし医者が姿を消したら、平均寿命は戦国時代の「50歳」に戻るのか。 そうではない。 50をを相当下回るだろう。 病弱な遺伝子が増えた分だけ50歳より下がるはずである。 仮にそれを40歳とすれば、80歳との差額40歳分は医療技術が齎した延命効果という事になる。 長寿の大半は医術の進歩が貢献しており、人類の遺伝子レベルでの自然寿命は年々短くなっているとは、空恐ろしい事である。 

    現代は交通機関が発達し、江戸時代の人が東海道を歩いて旅し、足腰を鍛えた様な鍛錬の場が無くなった。 自家用車が普及し、脚力の弱い人も子孫を残せる様になった。 

    最近、醤油顔の人が増えて来たのは、硬いものを良く噛んで咀嚼する食事スタイルから、柔らかい物を好んで食べる食習慣に変わったのが原因である。 こうして、顎の咀嚼力は退化を始めている。 退化の速度は進化の速度とは比べものにならない位速い。 しかも一代限りの退化ではなく、遺伝子レベルの退化だから、事態は深刻である。

    最近、有り余る食料で贅沢な食事をし、肥満や糖尿病で悩む人が増えた。 戦国時代、粗末な食料を効率よく消化吸収する遺伝子を持つ人が、多くの子孫を残したが、今ではそう言う人は栄養を取り過ぎてメタボリックシンドロームになりダイエットに励んでいる。 優れた消化能力の遺伝子は無用の長物となり、次第に減少して行くだろう。

  2. 知能レベルの2層化

    一方、知能を司る遺伝子は、高度文明社会の中でその優位性を発揮し、勢力を持つ様になる。 しかし、ここにも問題が潜んでいる。

    殆どの仕事が自動プログラム化され、プログラムを作る人とそれを使用する人の2層化が進む。 プログラムを作る人は高度の知識を必要とし、知能を司る遺伝子が世代を超えて増殖して行く。 反面、自動プログラムを使って仕事をする人は、必要事項を入力すると自動的に答えが出るので、途中の思考プロセスが「ブラックボックス」となり、高度の基礎的知能を必要としなくなり、知能遺伝子は退化して行く。 両者の割合は、後者の方が圧倒的に多いので、思考力の無い人が次第に増えて来る。

    文明は急速に進展するが、その本質を知らず、皮相だけで物事を処理するオペレータタイプの人が大半を占める様になる。 

    ワープロが出来、自動計算システムが普及すると、漢字の書けない人、暗算の出来ない人が増えるのも情報化社会の欠陥である。 

  3. 小人閑居して不善をなす

    昔は皆貧乏だったので、勤労意欲が高く、高度の仕事をして高収入を得たいと思い、学習意欲も旺盛だった。 暇な時間は無く、一生懸命に仕事をした。

    しかし、今の若者達は裕福な家庭で育ち、ハングリー精神が無いので、何時までも親の脛を齧って甘えた生活をしている。 いわゆる、ニートが多くなった。

    「小人閑居して不善をなす」の諺がいみじくも言い当てている様に、詐欺や性犯罪、ATMや自動販売機荒らしが日常茶飯事になっている。 生活力のない人や犯罪に走る人が着実に増得ている。 一方、グローバリゼーションが世界的風潮になり、企業間の競争はますます熾烈になっているが、これが所得格差を拡大し、勝ち組と負け組みを作る。 問題は、負け組に入った人達がやる気を起こさないばかりか、「閑居して不善をなす」方向に走る点にある。 なまじっか裕福な社会で、勤労意欲の起きない人が増え、怠惰の遺伝子は密かに社会的な広がりを持とうとしている。

    近代文明社会は生物学的な面で色々な悪影響を与え、自然淘汰から人間を守る代わりに、遺伝子レベルにおいて人間をひ弱な生物へと退化させている。 

    この事に早く気付き、なまじっか技術に頼らないで人間本来の進化の道を探る努力が、近代人に課せられた火急の課題ではなかろうか。 「文明は必ず滅亡する」、これは人類の長い歴史が教える経験則である。 地球温暖化、人口爆発による資源の枯渇など、文明が引き起こす負の財産に気付き始めた人類は、現代社会の底辺で静かに進行している遺伝子の退化を見逃してはいないだろうか。 「文明は人類を滅ぼす」「文明は人類を繁栄さす」数十万年というタイムスケールで見た時、どちらが正しいのか。 それが分かった時は、とき既に遅く、人類は滅亡の渕に立たされているのではなかろうか。