鳥になった恐竜075日)

恐竜が繁栄した時代

今から1億9000年前のジュラ紀、爬虫類から巨大進化した恐竜がこの地球上に出現した。その頃地球上には、大型のシダ類や原始的な潅木類が繁茂しており、草食性恐竜はそれらを食料にしていた。
その時代は火山活動によって大気中の炭酸ガス濃度が現代の5倍も高く、光合成が加速され植物の成長を促進した。
 
しかし、成長の早い植物の栄養価は低く、恐竜は大量の餌を必要とした。 その為、大きな消化器官を発達させ、体が巨大化して行った。また、恐竜は特殊な「気嚢システム」を持ち、一対の肺だけを持つ哺乳類に比べ、巨体の隅々まで酸素を
有効に浸透できた。

われらの祖先である哺乳類は、凶暴な肉食恐竜に怯え、小さな夜行性のネズミの姿をしてちょろちょろと地上を這い回り、小さな昆虫などを食べて細々と生きていた。
しかし、真っ暗な闇の中で虫の動きを察知する為、聴覚が著しく発達した。
 また、それにつれて聴覚信号の処理器官である大脳新皮質が発達し、脳全体の容積は小さな体に似合わず大型恐竜の2倍以上もあった。
動物の寿命は体の大きさに比例する。 体長30メートルもあった草食恐竜の寿命は100−200年であった。 これに対し、体長10センチのわれらが祖先は2−3年の寿命しか持たず、世代交代が激しかった。 この事は環境に適応した進化と多様化を促進すると言う有利な一面を持っていた。
中国遼寧省で発見された恐竜の化石には体の表面を被う羽毛がはっきりと刻まれていた。 羽毛は空を飛ぶ為ではなく、初めの内は抱卵や体温を保つ働きをしていたと考えられる。 彼らは現代の駝鳥の様に地上を走り回っていたに違いない。 恐竜は最初の内は冷血動物であったが、次第に進化して温血動物になったものも出現した。 また一部、鳥類の様に、完全な羽を持ち、空中を滑空する恐竜(ヤノルニス)の化石も発見されている。
羽毛恐竜が繁栄を謳歌した時代、植物界に大きな変化が生じた。
シダ類や裸子植物(松、杉などの針葉樹)しかいなかった地上に、花を咲かせる被子植物が出現した(写真は初期の花を付けたアーケフルツクス)。 花は蜜を出して昆虫を呼び寄せ、花粉による受精を可能にした。 こうして、蜂や蝶などの新しい昆虫が繁殖し、哺乳類は期せずして栄養価の高い昆虫や果実や種などの食料を豊富に手に入れる事が出来た。
今から6600万年前、1億年を生き抜いた絶滅前の恐竜はどの様な繁栄をしていたか。
羽毛恐竜の子孫であるティラノザウルスが世界を席巻していた。
彼らは子供の内は羽毛に覆われて敏速に行動できたが、成長して親になると体重が5トンにもなり、走る速さは自転車並みに遅かった。 そこで親子が集団で狩をし、すばやい子供が草食恐竜を親の待ち伏せる方向に追い込み、強力な顎を持った親が止めを刺すと言う戦法を取った。


恐竜の絶滅と再生

そして、その時が突然やって来た。 今から6500年前の白亜紀末期、巨大な隕石が地球に落下し、摩擦によって発生した超高温を伴った爆風が地表全体を駆け巡った。 運良く生き残ったものも、大気圏を被い尽くした砂塵に太陽光を遮られ、餌の植物が枯渇してまず草食恐竜が死滅した。 続いて、それらを餌にしていた肉食恐竜も死滅した。

しかし、しぶとく生き抜ける恐竜の一群がいた。 餌が足りないから巨体の恐竜はすべて絶滅した。 この時は体の小さい事が有利に働いた。 しかも、羽毛を持つ少数の種が生存に最も有利だった。 強烈な自然淘汰が働く悪環境下で、羽毛を持ち自由に飛行移動できる事は絶対的必要条件であった。 わずかに残った生きられる環境を求めて、彼達は必死に移動した。 こうして、恐竜の中から鳥類のルーツが誕生した。

この事は、恐竜の化石から分かる体の特徴(上述の気泡システムなど)が、現代の鳥類が持つ共通の特徴と非常に類似している事から類推された仮説である。 恐竜には歯があったが、それは退化して鳥類の嘴に変形した。 辛うじて生き残った恐竜の一部は、環境の激変に適応して鳥類に姿を変え、生命の火を絶やさなかった。 それ以来6500万年、鳥類は進化と多様化を繰り返し、寒帯、温帯、熱帯に広く分布し、繁栄している。

我々哺乳類の共通祖先である小さなネズミもこの天変地異を乗り越え、森林の樹上に住む猿からサバンナに進出し二足歩行する類人猿へと進化して行った。 その間、5000万年を要した。 

映画「ジュラシックパーク」や、30mもある恐竜の化石標本を見た人で、絶滅した恐竜がスズメやカラス、タンチョウ鶴やイヌワシに姿を変えて、今も生き続けている事を想像できる人がどれだけいるだろうか。 不死鳥のような生命力のしたたかさを改めて強く感じるのは、私だけではないだろう。