パナソニック製「エネファーム」中央が燃料電池
右側は給湯タンク(200リットル)

家庭用燃料電池の効用(2009年7月18日)

 

  1. 燃料電池の原理

    水素と酸素を燃やすと電気が取り出せることは、1829年英国のグローブ卿によって発見された。 水を電気分解すると酸素と水素に分離する。 その逆プロセスで、酸素と水素を結合(燃焼)させると、電気が発生する。 勿論、水素が燃焼して水になるので、大量の熱も出すが、問題のCO2は出さない。 

  2. 燃料電池の構成


    燃料電池は、サランラップの様な電解質膜を白金などの触媒でサンドイッチ状に挟んだ構造をし、その両面に酸素ガスと水素ガスを供給し燃焼させると両端に0.8Vの電圧が発生する。この電解質膜は水素の分子は通さないが、水素イオンは通過させる。 水素イオンが通過するとその後にはマイナス電子が蓄積され、通過した水素イオンは酸素と化合燃焼して熱とプラス電荷を発生する。 こうして、水素側がマイナス、酸素側がプラスの電池が実現する。 触媒は水素分子のイオン化を促進する。この様な構成単位を単セルと言い、それらをセパレーターを介して直列に接続し、所要の直流電圧を得る。 例えば40セル直列接続すると、32VD.C.の電池が出来る。 流れる最大電流量は単セルの面積に比例して増大する。

    以上の話やこれから述べる事は、今日、2009718日、私が横浜で開催された東京ガスの「エネファーム」説明会で聞いて来た説明の概要である。

  3. 燃料電池の利点

    東京ガスは200951日家庭用燃料電池システム「エネファーム」の発売を開始した。それは2つの機器から構成され、値段は340万円である。 これに政府の補助奨励金が140万円でるので、機械単体では200万円となる。 燃料は都市ガス(メタンガス)で、メタンガスは炭素原子1個と水素原子4個から出来ているので、これを分離装置に掛けて炭素(燃焼して炭酸ガスとなる)と水素ガスに分け、燃料電池に供給する。 酸素は外気から摂取する。 燃料電池の出力は最大1kWであり、燃焼により同時に60度の水を大量に生成する。 電気の発電効率は一般の火力発電の発電効率とほぼ変らない。 両者の相違点は、火力発電所では電気に変換されなかった熱量は殆どすべて外部に捨てられるのに対し、燃料電池では副産物の熱湯を給湯タンク(200リットル)に貯蔵し、風呂や料理用などに効率よく利用できる点である。 この副産物分だけエネルギー効率が改善される。 電気変換効率は33%、熱水変換効率は等価的に47%であるので、総合効率は80%となる。

    火力発電の発電効率は37%で熱エネルギー全体の63%が無駄に捨てられているだけの違いである。 もしも火力発電所の排熱を、送電線を熱伝導線として効率よく使用し、電気と同じ様に熱も各家庭に配熱出来ると仮定すれば、両者の総合効率はほぼ同じとなり、燃料電池の優位性は無くなる。

  4. 発電量の自動調整

    最大発電量は1kWであるが、家庭での消費電力は電気機器の使用状態で変動する。消費電力が1kW未満の状態では、燃料電池は都市ガスの供給量を調整して必要なだけの電気を発電する。 実際に発電されるのは直流電力であるので、インバーターで100Vの交流電力に変換する。(精密に言うとインバーターの変換効率だけ劣化し、発電効率33%となる) また、家庭内の消費電力が1kWを超えた場合は、不足分は電力会社から供給される。

    燃料電池の発電量と60Cの熱湯発生量との間には一定の関係がある。 実際に使用された例を挙げると、1ヶ月の発電量が526WHの時、生成された熱湯量は607WH(電力エネルギーに変換)であった。 これは60Cの熱湯の容積に換算すると、10度の水を60度まで上げるには1CC当たり50カロリーを要するので、電気量に換算すると、約209Wsecとなり、607WHの熱湯の容積は10,445リットル/月となる。

    この設備の給湯タンクの容量は200リットルであるから、満タンにする所要電力量は11.6WHとなる。 一日30WHの電力を消費する家庭では一日当たり2.6200リットル、すなわち風呂タブ一杯分位の熱湯を使うと、発電量と発生熱湯量が均衡する。

    実際の運用では、設備の中に、その家庭の電気と熱湯の使用量の時間的変動を計量して、最適な出力量を与える様な学習ソフトが組み込まれている。

    上記の例示家庭では、「エネファーム」の発電量:526WH、家庭内の消費電力量合計:1335WHで、約39%の電力を燃料電池から供給していた。 また、一ヶ月の熱湯使用量は総計787WH13,570リットル)で、「エネファーム」から供給された量は607WH10,470リットル)であり、約77%が燃料電池から供給された計算になる。

  5. CO2の削減効果

    燃料電池に供給される都市ガスは炭素と水素ガスに分離されるが、炭素も燃焼されてCO2となる。 同じだけの都市ガスを使えば同じ量のCO2が発生するので、CO2削減効果は無い様な錯覚に陥るが、副産物として生成される熱湯のエネルギー分に相当するCO2が削減されるのである。 火力発電+給湯器の組み合わせと給湯機能を含む燃料電池のCO2排出量を1kWH発電時で比較すると、前者が1,016グラムのCO2を排出するのに対し、燃料電池システムでは555グラムとなり、約45%の削減効果がある。

  6. 経済比較

    今回発売された「エネファーム」は政府のエコポイントのお陰で、200万円+工事費で購入できる。 東京ガスの話では、平均家庭で年間の光熱費支出が約5万円節減できると言う。 耐用寿命は8年であるので、工事費を20%とすると、単純年経費は30万円となり、収支均衡するには今の1/6にコストダウンする必要がある。将来電気自動車が普及し、燃料電池が急速にコスト削減しなければ、一般家庭への普及は困難であろう。

  7. もう一つの問題

    将来、全ての自動車が燃料電池付きの電気自動車となった時、燃料の水素をメタンから分離していたのでは、残された炭素の処置に困る事態となる。 水素の生産を炭素を含まない別の物質から可能にしなければ、究極のCO2削減は出来ない。
    その為には、太陽光発電などの自然エネルギーを使った水の電気分解とか、ブレークスルーすべき大きな壁が立ち塞がっている。