省エネ生物 (03/6/5)

  1. 地球に降り注ぐ太陽エネルギー

    放送大学の講義で驚くべき事実を知った。

    地球に降る注ぐ太陽エネルギーを100とすると、植物の光合成に使用されている割合は僅か0.03%(310000)であると言う。

    100%の内、反射されて宇宙に再放射されるのが30%、残り70%が地球に吸収され、その内47%が地表で熱に変換される。 海水や氷河に吸収されるのが23%、風・波・海流などのエネルギーとなるのが0.3%、光合成がもう一桁下がって0.03%である。

    我々動物は光エネルギーを直接利用出来ないで、植物が光合成した栄養物を横取りして生きる寄生生物である。0.03%の内、人間が利用するエネルギーの割合は更に何桁か少ないと思うが、化石燃料や太陽熱なども使っているので、人間が使うエネルギーの総和は光合成エネルギーの数倍にはなる。

    しかし、いずれにしても数十万分の一の太陽エネルギーを消費して生きている事に変わりは無い。 生物が非常に「省エネ」に設計されている事は、以上の数字を見ても明らかである。

    我々は広大な宇宙の中で、ほんの一握りのエネルギーを貰って生きている「吹けば飛ぶ様な」物体に過ぎない。

  2. 栄養の基は光

    生命を維持するエネルギーの基は光である。 アインシュタインは、光の持つエネルギーは不連続でその周波数に比例する事を発見した。 光のエネルギーは、原子を取り巻く電子の持つエネルギーが外界に放射されたものであり、太陽などの恒星が発する光は水素原子がヘリウムに核融合される時原子核の質量がエネルギーに変換され、電子を励起し光となって放射される。突き詰めると、我々が利用するエネルギーは原子核にその源が有る事になる。

    宇宙は物質と空間よりなるが、真空の空間にもエネルギーは有るらしい。 結局、宇宙はエネルギーの塊であり、それが万物を生み出す根源である。

    話が逆流したので元に戻すと、太陽から受けた光のエネルギーと水と炭酸ガスを使って、植物が有機物を合成する。 その分子構造をみると、炭素、水素、燐などの原子が複雑に結合しているが、それらの結合の何処かに太陽エネルギーが「化学エネルギー」として蓄えられている。

    光が電子のエネルギーであった様に、この「化学エネルギー」も結局は電子に蓄えられており、電流として利用される。

    酸素を呼吸して上記の有機物を分解すると、この電子エネルギーが解放され、複雑な経過を辿って我々の筋肉を動かし、神経系に刺激を伝送する。

    こうして、生物は「生きる」事が出来る。 生とは光のエネルギーを使って体の代謝(手入れ)をする事であり、それは多分数個の水素原子の核融合で賄われている。

  3. エネルギーの有効利用

    化石エネルギーが枯渇すると人類は原始生活に引き戻される、と危機感を募らせているが、有効利用されていない太陽エネルギーはふんだんにある事を忘れてはいけない。

    火を克服した人類は「熱エネルギー」を良く使う。 温度差がある程熱エネルギーは利用し易い。 太陽エネルギーは量は膨大であるが温度が低いので利用しにくい。 しかし、それは人間の知恵がその方面に使われていなかったからであり、人類の叡智を持ってすれば、有効利用は不可能な事ではない。

    ここで忘れてはならない事は、エネルギーのネット利用率である。

    NTT時代の先輩である松本高士氏が「宇宙・21世紀の心配」(サイマル出版社)に書いているが、例えば、太陽電池が生産する総電力量は、太陽電池を製造するに要した電力量より少ない。 従って太陽電池で太陽光線を電気に換えるより、その太陽電池製造に要した電力を直接使った方がエネルギーの「ネット利用率」は高くなる。

    最近は太陽電池の変換効率が上がり、製造に要する電力量も減っているので差し引きプラスの利用率になっているかも知れないが、この事はエネルギー生産設備では常に考えておく必要がある。

    生物は、酵素の力により低温で食べ物から効率良くエネルギーを取り出せる。低温な太陽光線から効率良くエネルギーを取り出すには、今の様な遣り方では限界があるだろう。 この方向に進むより、核融合により物質を直接エネルギーに換える方が良いのだろうか。

    これだけ省エネの人類が化石燃料を使うだけで地球は温暖化して行く。 地球は非常にデリケートな天体である。 掛替えのない地球を救う為の「クリーンなエネルギー」の開発が、人類に課せられた急務である事は間違いない。