罪にならない経済犯罪(2009年7月30日)

何時の世にも、ねずみ講、出資法違反、偽札作り、インサイダー取引、入札談合、贈収賄、独禁法違反などで刑罰を受ける経済犯は後を絶たない。 最近では、おれおれ詐欺など、新手の巧妙な経済犯罪が、雨後の竹の子のように、老人資産家の老後の安心を脅かしている。

しかし、100年に一回と言われる今回のアメリカ発大恐慌の仕掛け人を罰するという話は聞かない。 アメリカの議会などで、荒稼ぎした投資会社のCEOなどが召喚され、犯した行為を弾劾されているが、経済犯罪者として起訴されるまでには至っていない。

バブルを引き起こすのは不特定多数の資産家であり、特定の人に罪を課す現在の法律では処理できないとでも云うのだろうか。 これほどの大犯罪を起こしたのだから、主犯格の犯罪者は容易に特定できる。 しかし、資本主義の自由競争を賛美するあまり、世紀の大犯罪が見過ごされようとしているのに誰も疑念を挟もうとしないのはなぜか。

「社会の為に働いていたのではない。 ただお金儲けの為に働いていた。」と正直に白状している人も大勢いる。 もっともらしく「人間の強欲」が引き金になったと、本来人間が持つ欠陥に責任転嫁して良いのだろうか。 世界中の国が、今後は相互に協調してこの様な事態が起きないように規制を強化すると宣言しているが、その前に、この大犯罪を犯した人達を罰する方が優先するのではないか。 

住宅ローンのリスクを低めに設定した投資会社の経済学者、債権の証券化リスクを正確に査定できなかった格付け会社、他社に負けない為にサブプライム・ローンを強引に貸し付けたローン会社とそれを催促した投資会社の幹部連中などなど、経済構造全体に犯罪の細分化がなされていた。 かって騒がれた耐震強度偽装事件と同じ犯罪分散構造を持っている。 「みんなで渡れば怖くない」と云ってお互いに犯罪の責任を相互に分割し、それぞれの責任を曖昧にする集団犯罪の性格が酷似している。 

しかし、犯罪機構の核をなした責任者を厳選し、彼らを犯罪者の代表として有罪にする事は不可能ではない。 また、バブル崩壊前に濡れ手に粟で稼いだ連中から、なぜ莫大な罰金を取らないのか。 今後の規制を強化する前に、過去の清算を徹底的にやる必要がある。 政治家が金融の自由化を推進し、大量の政治献金を手にしているので、「天に向かって唾をする」様な事は出来ない仕組み、犯人が犯人を裁けない仕組みが元から出来上がっていた。 ブッシュ前大統領が神の裁きを受けるとすれば、イラク国民の虐殺、証券バブルの破綻などで累計百年以上の無期懲役の罪を言い渡されている事だろう。 しかし、その様な国家的規模の大罪は今の世では罪にならない。 資本主義は資本家の犯す大罪を棚上げにする機構までも巧妙に作り上げている。 その附けは、何時の日か、資本主義そのものを否定する革命によって一気に払わされる事態になる事を、今回の前科者たちも覚悟していた方が良いだろう。

注)国連に所属する国際司法裁判所には、国家間の紛争などを裁く権限があるが、当事国の両者が同意しない限り、裁判は開かれない。 国家を超越した裁判権を付与し、国際法を整備する必要がある。