遺伝子がおもしろい
14年11月
14年12月
理化学研究所が、人間の病気の仕組み等に役立つマウスの遺伝子の大量特定に世界で始めて成功した。 癌に関する遺伝子も含まれている。(3日)
音を聞き取るのに重要な役割を果たす内耳の「有毛細胞」を再生させることに、伊藤寿一・京都大教授らの研究チームがネズミの実験で成功した。聴覚回復に新たな可能性を開く基礎研究として注目される。研究チームは、ネズミの有毛細胞を人工的に壊し、蝸牛に穴を開けて、神経のもとになる神経幹細胞に発光物質を組み込んで注入、再生するか観察した。 その結果、有毛細胞が存在する溝に、光る細胞が少しだが入り込み、有毛細胞の形になった。
日本人の主食である稲の全遺伝情報が、わが国を中心とする米仏など10カ国の国際チームによって99.99%の高精度で解読された。12月18日、東京都内で式典が開かれ、小泉首相が「世界の食料、環境問題の解決に広く貢献する事を確信する」と解読の終了を宣言した。暑くて乾燥したアフリカでも簡単に栽培されるスーパー稲なども短期間に開発できる可能性が高まった。 イネゲノムの配列は約4億で、その内約90%を読了した。 イネゲノムの中には、病害虫に対抗する遺伝子や、収量を決めている遺伝子、味にかかわる遺伝子など、4−6万個の遺伝子が含まれていると推定される。 日本はすでに、いもち病に対抗する遺伝子など36件を特許申請した。
ミツバチは、蜜を蓄えた花のありかを「8の字ダンス」と言う奇妙な踊りで、仲間に伝える。 人間を含む霊長類やクジラ、イルカを除けば、これ程高度なコミュニケーションをする動物はいない。「わずか1ミリグラム余りの脳がこれを成し遂げている」「ミツバチは誰からも教わらずにダンスを踊る。 踊り方は遺伝子に刻み込まれているはずだ」。東京大学大学院教授、久保建雄氏(42)は校舎の屋上で5−10万匹のミツバチを飼育し、ミツバチの行動を支配する脳の「キノコ体」だけで働く十数種の遺伝子をすでに見つけた。その一つは学習や記憶に欠かせない遺伝子だった。ミツバチの脳の神経細胞は85万個程度で人間の千億個に比べればはるかに少ない。 「人間の脳の理解への足がかりになるはずだ」と意気込んでいる。
平成15年
低迷する日本経済再生の起爆剤として期待がかかっているのが、特許やブランド、ノウハウなどの知的財産の活用だ。 国際競争力を維持し続ける事の出来る「知力国家」を目指し、国や企業などで知的財産への取り組みが始まっている。研究用理化学機械メーカーのマイクロテック・ニチオンは電機大手東芝が事業化を断念した特許を利用し、遺伝子情報を使って牛肉や米などの銘柄の特定が簡単に出来る装置の開発を急いでいる。 2003年中の開発を目指して追い込みの段階にある。 人間の体内の細菌検知等への応用も見込め、市場の広がりは大きくなる事が期待される。
新興宗教団体「ラエリアン」のフランス人科学者ブリジット・ボワセリエ博士は4日、世界二人目のクローン人間である女児が3日夜、北ヨーロッパで誕生したと語った。 女の子はオランダのレスビアンのカップルに生れた。同団体の関連企業「クローンエイド」のボアセリエ博士は5日、英BBCテレビに対し、更に3人のクローン人間が数週間内に誕生する見込みだと語った。誕生は1月末か2月初旬の見込み。
新しい肺がん治療薬(イレッサ)が引き起こす副作用によって多数の患者が亡くなり大きな問題となっている。
世界に先駆けて昨年7月承認された薬で、欧米では未承認である。 10月に13人の副作用死が報告されて以来,その数は急増し、12月25日には124名の副作用死亡が報告された。 しかし、わが国での治験成績結果では30%弱の肺がん患者に有効であったと報告されている。 一方推定されている副作用死亡率は1%以下で、この頻度は従来の一般的な抗癌剤の0.5−2%に比べて特に高いわけではない。
この薬に過敏な体質を持った患者がいる以上、これを科学的に解明して対策を講じる必要がある。 薬剤の反応性を遺伝情報の違いをもとに解明していく研究計画が進行しつつあり、欧米の製薬企業は共同チームを組み、検討を始めている。 この研究分野ではわが国は世界のトップクラスにあり、半年程度の研究期間で副作用の原因を解明できる可能性は高い。 薬剤の副作用を「体質のせい」としてあいまいなまま放置しないで、遺伝子レベルで解明する為の体制作りに早急に取り組むべきである。
英国の警察はDNA技術を犯罪捜査に活用しようとしている。 警察は人の息を証拠として集める事になるかも知れない。人が話す時に出る湿気の微小な水滴はその人のDNA情報を含んでおり、受話器、マスク、その他の物の表面に残るので、刑事は極めて貴重な情報を収集できる。 呼吸をする度に証拠を残すので,犯人が痕跡を残さない様にする事は困難であり、指紋に代わって事件解決に不可欠な方法になると言われている。
匂いの正体は「におい分子」と言う極めて小さな粒子。 におい分子は、鼻の奥の臭細胞にある「におい分子受容体」と言うかぎ穴に嵌まり込む。 すると弱い電気信号が起きて、脳の「臭球」と言う部分に伝わる。 信号は臭球を覆うように並ぶ小器官「糸球体」が受け取り、大脳に送り届ける。 私たちはここでようやく匂いを感じる。
なぞは、50万種もあるにおい分子に比べ、かぎ穴の種類の数が圧倒的に少ない点。 人間のかぎ穴は数百種類しかない。 臭覚が鋭いマウスも、わずか千種類。 マウスの臭球表面には、約1800個の糸球体がびっしり並ぶ。 糸球体のうち、かぎ穴から電気信号を受けた時に反応したものだけを色分けすると、匂いの種類ごとに特徴的なパターンが浮かび上がった。 個々の糸球体にはそれぞれの役割があり、並び方に意味がありそう。 その配置を調べると、謎が解けるはず。 かぎ穴からの沢山の信号を、糸球体が何らかの意味のある情報に整理しているのではないか。 東大の谷口氏は、マウスで実験の末、糸球体の配置を決める遺伝子を世界で初めて見つけた。 この遺伝子を様々に操作すれば、糸球体の仕組みがもっと解明できると谷口氏は言う。
慢性骨髄性白血病の発病にかかわる遺伝子を、京大生命科学研究科の湊長博教授らが発見した。 細胞の増殖に関係する「SPA1」と言う遺伝子の詳しい働きを研究し、この遺伝子が働かないネズミを作ったところ、生後一年を過ぎる頃から白血病の症状を示し始め、更に半年ほどたって急性骨髄性白血病になった。 SPA1が作る蛋白質は、細胞増殖などの刺激を伝えるスイッチに関わる。 これば無いとスイッチが入りっぱなしになって細胞が癌化すると見られる。
薬の効き目や副作用など体質による個人差を、一滴の血液を使って2時間で調べられる遺伝子診断の検査法を、東北大学医学部が開発した。
患者から採取した一滴の血液と合成DNAを含んだ特殊な液体を反応させて、検尿用紙のような長さ10センチの細長い試験紙に垂らし、紫色の反応線が現れるかどうかで判定できる。 一回の検査コストは3−400円で済む。
同じ薬でも人によって効き目が異なったりするのは、全遺伝情報の0.1%に個人差がある為。 この検査法で、個々人に最適な治療法を提供する医療が一般の病院で普及するだろう。
平成16年
人間の脳が大きくなった原因につながる遺伝子を、米ペンシルバニア大などの研究チームが突き止めた。 この遺伝子は本来、類人猿の強靭なアゴの筋肉を作る働きがあったが、人類では偶然、240万年前に機能を喪失。 この為、アゴの筋肉で縛り付けられていた頭の骨が自由になり、脳が大型化する可能にしたらしい。
人類は、約250万−200万年前に猿人から原人に進化し、脳は大きさが猿人の2倍程度になったとされる。 今回の遺伝子が機能を失ったのは約240万年前と推定され、原人への進化時期と一致する。
これまでの化石研究などから、頭の骨が膨らんだのは、頭頂部に近い所から続いていた猿人のアゴの筋肉が弱くなり、開放された為ではないかと考えられていたが、この進化過程を遺伝子レベルで裏付ける証拠が見つかったのは始めてである。 チンパンジーやゴリラは今も、この遺伝子が働いていてアゴの筋肉が頭部を広く覆っている。 人類は原人に進化した段階で、硬い木の実に加え、柔らかい肉なども食べる様になり、アゴの筋肉の退化も不利にならなかったようだ。
農水省系の独立行政法人、農業生物資源研究所は16日、神奈川県平塚市の隔離圃場で6月から、スギ花粉症予防に有効な成分を含む遺伝子組み換えイネを栽培し環境への影響を調べると発表した。 厚生労働省は「医薬品として有効性や安全性の審査を受けて欲しい」としており、花粉症予防米として商品化されるとしてもかなり先になりそうだ。
このイネには、スギ花粉のアレルギー反応原因物質(アレルゲン)の一部分を作る遺伝子が組み込まれており、米を食べてアレルゲンに体を慣らすことで、花粉症予防につなげ様としている。
マウス実験では効果を確かめたが、将来は人間での有効性試験などを経て、一種の機能性食品として流通させる事を想定している。
平成19年
脳梗塞と特定の遺伝子との関連が、大規模な疫学調査で実証されたのは世界で初めて。脳梗塞を遺伝子レベルで予測し、診断や治療に生かせる成果として注目される。 研究チームは、日本人の脳梗塞患者と健康な人を約1100人ずつ選び、両者の遺伝情報の違いを比較した。
その結果、脳梗塞の患者は健康な人と比較して、「プロテインキナーゼCエータ」と呼ばれるたんぱく質を作る遺伝子の特定の部分が、1〜2個置き換わっている人が多いことがわかった。
さらに、この遺伝子の違いが本当に健康な人の脳梗塞の危険因子になっているのかを確かめるため、長期の疫学調査を行っている福岡県久山町のデータを活用。1988年に健康だった40歳以上の住民1642人について、その後2002年までの14年間の脳梗塞の発症率と、この遺伝子の関係を調べた。
その結果、2個の部分がいずれも置き換わった人は、脳梗塞の発症率がそうでない人より約2・8倍高まっていることが判明した。このたんぱく質は、動脈硬化の発症や進行に深くかかわっていると見られる。
65歳以上で発症するタイプのアルツハイマー病に関係する遺伝子の一つをカナダ・トロント大、イタリア・トリノ大、千葉大などの国際研究チームが特定し、14日付米医学誌ネイチャージェネティクス電子版に発表した。この遺伝子の型によって、発症しやすさに差があるという。治療法の開発などにつながると期待される。
アルツハイマー病患者の脳には「ベータアミロイド」というたんぱく質が蓄積することが知られており、チームはSORL1と呼ばれる遺伝子が正常に働くと、このたんぱくの蓄積を抑えることを実験で確認した。
さらに欧米に住む人を中心とする約6000人から集めたDNAサンプルを調べたところ、SORL1に個人差(型)がある場所があり、アルツハイマー病のかかりやすさに統計的に意味のある差があることがわかった。チームは、ほかの遺伝子6個についても調べたが、関連はみられなかった。
65歳以上で発症するアルツハイマー病は日本人にも多い。関連する遺伝子は93年に報告されたアポリポたんぱくEと呼ばれる遺伝子が有名だ。
植物成長ホルモンの働きを抑えることで、通常の10分の1程度の大きさしかない「ミニ植物」を作り出すことに、理化学研究所と米ミシガン大の国際研究チームが成功し18日発表した。 近く米専門誌で報告する。新たな観賞用植物や、風害に強い作物など品種改良への応用が期待される。
研究チームは、通常の交配で作り出された背の低い稲や麦などの品種では、成長ホルモンの「ジベレリン」を合成する遺伝子が壊れていることに着目。ジベレリンを抑える仕組みがないか探った結果、多くの植物が持つ「GAMT1」と「GAMT2」という2種類の遺伝子が、ジベレリンを中和する酵素を作ることを突き止めた。
2種類の遺伝子がいつでも働くように改造したペチュニアやシロイヌナズナを実際に作ってみると、大きさが通常の10分の1程度の「ミニ植物」となった。一方、ジベレリンを与えると、通常レベルに成長。大きさを自由に調節できることもわかった。
理研植物科学研究センターの山口信次郎チームリーダーは「大きな植物をミニチュア化した室内観賞用や収穫しやすい背の低い作物など、様々に役立つ手法になる」と話している。
遺伝子組み換え作物の2006年の商業栽培面積は、世界全体で1億200万ヘクタールとなり、初めて1億ヘクタールを超えたことが、米国の民間団体「国際アグリバイオ事業団」の調査で分かった。
前年より13%も増えた。
栽培国は、スロバキアが加わり、計22か国になった。最も栽培面積が大きかったのは米国で、次いでアルゼンチン、ブラジル、カナダの順。インドは、害虫抵抗性のワタの栽培が前年の約3倍に急増し、中国を抜き5番目になった。
最も広く栽培されている作物は大豆で、全体の57%。トウモロコシ、ワタ、ナタネと続いた。イランではコメも栽培されている。
全体の68%は除草剤耐性で、19%が害虫耐性、残りは両方の性質を併せ持つ作物だった。
日本を含む51か国で、食糧として輸入が認められている。
一滴の血液があれば、薬の効きやすさや、酒にどれだけ強いかといったさまざまな体質を、30分以内に遺伝子の型から診断する手法を、理化学研究所(野依良治理事長)などの研究グループが開発した。
従来法に比べて極めて簡便で、特殊な解析装置を持たない小規模な医療施設でも診断できる。成果は18日付の米科学誌ネイチャー・メソッズ電子版に掲載された。
遺伝子診断は、血液などから遺伝子を取り出して人工的に増やし、様々な試薬を用いて行う。これまでは、1時間半〜数日程度かかるのが普通だった。
研究グループは、遺伝子を高速で増やす特殊な酵素を細菌から発見。さらに、目標以外の遺伝子の増加を抑える別の酵素も見つけた。この両者を組み合わせ、極めて精度の高い遺伝子診断を、30分以内に完了する手法を確立した。
肺がん患者45人を調べたところ、抗がん剤の「ゲフィチニブ」(商品名イレッサ)が効く遺伝子型を持つ患者と、効果が期待できず、副作用が懸念される遺伝子型の患者を正確に判別できた。
また、がん細胞特有の遺伝子を調べる組織検査を行ったところ、がん細胞がわずか1%しか混じっていない組織も見分けることができたという。
慶応大学先端生命科学研究所は20日、バクテリア(細菌)にデータを保存する技術を開発したと発表した。生命の設計図であるゲノム(全遺伝情報)に手を加え、残しておきたい情報を埋め込む。実用化には時間がかかるが、CD―ROMなど既存の記録媒体より格段に小さく何百年も長持ちする“生物メモリー”が将来登場するかもしれない。
保存したい情報をDNA(デオキシリボ核酸)の塩基配列の形に変換、バクテリアの一種である枯草菌(こそうきん)のDNA配列に複数個所組み入れた。枯草菌1個に最大フロッピーディスク(FD)1枚分のデータを保存可能なことが分かった。
バクテリアを記録媒体に活用する試みはこれまでにもあった。ただ枯草菌だと約30分で世代交代するため、そのたびDNA配列が少しずつ変化しデータが壊れてしまうのが難点だった。
複数の個所に同じ情報を組み入れることで、データの一部が壊れても修復できるよう工夫した。データ保存は数百年間可能だという。
生物はもともと女性で、男性は女性から変化して生まれた――。生物進化の過程でオスが誕生する鍵となった遺伝子を、日本の研究グループが世界で初めて発見した。
新遺伝子は、OTOKOGI(侠気(おとこぎ))と命名され、19日付の米科学誌カレント・バイオロジーで報告した。
男女間で生殖する有性生殖は、性が異なる二つの細胞がくっついて遺伝子を交換する「同型配偶」から出発、その性が後に、精子を作るオスと卵子を作るメスへと進化したと考えられている。
東大の野崎久義助教授(生物科学)らは、神奈川県内の湖で見つけた緑藻「ボルボックス」の新種の雄株から、オス特有の遺伝子OTOKOGIを発見。この遺伝子が、同型配偶するクラミドモナスという緑藻の性を分ける遺伝子から進化し、精子の核にあるたんぱく質を作ることを突き止めた。
ボルボックスと遺伝的に近いクラミドモナスはプラスとマイナスの性があり、特定の遺伝子を持つとマイナスの性になるが、どちらがオスとメスに進化したかは不明だった。今回の研究で、性を分ける遺伝子を持たない生物がメスで、この遺伝子を後から持つようになったオスが生まれた可能性が高いことがわかった。野崎助教授は「日本人が見つけた男性に最も重要な遺伝子という意味で、侠気と名づけた」と話している。
DNAが傷ついた細胞が自ら死んでいく詳しい仕組みを、東京医科歯科大の吉田清嗣助教授らが解明した。
“細胞死”は、がんを防御する重要な体内メカニズムで、この仕組みを上手に活用できれば、がんの新たな治療法につながる可能性がある。9日付の米科学誌に発表する。細胞が自らの遺伝子を働かせて死んでしまう現象は、異常が起きた細胞を体から排除したり、生物の発生過程で形態を変化させるためにも欠かせない。
その仕組みは単一ではないが、DNAが傷ついた場合は、がん抑制遺伝子p53が損傷の程度を判断、傷が小さい場合は修復、大きい場合は細胞死を誘導する。
細胞死をp53に働きかけるスイッチの正体は不明だった。吉田助教授らは、p53にリン酸を結合させる働きがある酵素の一つに着目。この酵素を人工的に欠損させると、細胞死が起きないことがわかった。また、この酵素はDNAが傷つくと働き出すことも確認され、細胞死を誘導するスイッチと判明した。
吉田助教授は「この酵素の機能を制御できれば、抗がん剤などと併用することで、効率的ながん治療が可能になる」と話している。
肥満と糖尿病のなりやすさに関係するDNAの微妙な違い(SNP=スニップ)を英オックスフォード大などのグループが見つけ、13日付の米科学誌サイエンス(電子版)で発表した。新たな治療法につながる可能性がある。
SNPは、DNAを構成する塩基の配列が1カ所だけ異なっていること。グループは国際協力で見つかってきた49万カ所のSNPについて、糖尿病患者2000人と患者でない3000人とで頻度に差があるものを探した。
その結果、患者では非患者に比べて、16番染色体にあるFTOと呼ばれる遺伝子で、塩基配列の1カ所がT(チミン)ではなくA(アデニン)の人の割合が高くなっていることがわかった。
父母からいずれもAを受け継いだ人(研究対象の欧州白人では約16%)は、いずれもTの人に比べ、糖尿病の9割以上を占める2型糖尿病になるリスクが約5割高くなっていた。
欧州の白人約3万8000人を対象に、体重(キロ)を身長(メートル)で2回割る「BMI」という指標を使って、2型糖尿病になりやすい肥満との関係も調べた。ともにAの人はともにTの人に比べ、平均体重が3キロ重く、BMIが30以上の肥満になるリスクが約7割高いことがわかった。
欧州では父母のどちらか、あるいは双方からAを受け継いだ人は4〜5割程度だが、日本人では1割程度とみられる。FTO遺伝子の働きはまだわかっていない。
板倉光夫・徳島大ゲノム機能研究センター長は「極めて大規模な解析で注目される。肥満や糖尿病の仕組み解明や治療法の開発につながる可能性がある」といっている。
植物に花を咲かせる「開花ホルモン」を、日本、ドイツの研究グループがイネとシロイヌナズナでそれぞれ特定することに成功した。開花ホルモンは、いわば“花咲かじいさんの灰”にあたる物質で、70年にわたって多くの研究者が探し求めてきた。ともに19日付の米科学誌サイエンス電子版に発表される。
開花ホルモンの候補としては、日照時間が短くなると花をつけるイネなどでは「Hd3a」、日照時間が長くなると花をつけるシロイヌナズナなどでは「FT」というたんぱく質が見つかっている。しかし、日光を受ける葉から、花芽(かが)ができる茎の先に実際にどんな物質が伝わっているのかわかっていなかった。
奈良先端科学技術大学院大の島本功教授らは、イネの遺伝子の一部を変えてHd3aたんぱく質に目印をつけ、イネの中でどう動いているか追跡したところ、葉で作られ、茎を通って茎の先端へ運ばれている様子が観察できた。このことから島本教授は、このたんぱく質が開花ホルモンであると結論づけた。
また、ドイツのマックス・プランク研究所のグループも、FTたんぱく質が葉で生成され、茎の先端まで移動したとする研究を発表。Hd3aとFTがよく似た構造であることから、多くの植物に共通の開花ホルモンが存在する可能性も示された。
開花ホルモンは、旧ソ連の植物生理学者チャイラヒャンが37年にその存在を仮定し、「フロリゲン」と命名。島本教授は「フロリゲン本体が特定できたことで、開花を自由に調節できる夢の薬剤の開発につながるのではないか」と話している。
いったん断っても、再び常習してしまう覚せい剤依存症には、特定の遺伝子が関係していることが分かった。マウスを使った名城大学(名古屋市)などの研究チームの成果で、治療薬開発の手がかりになりそうだ。
名城大の鍋島俊隆教授とヤン・イージン名古屋大特任助手らは、赤ランプが点灯した時にその下にある穴を鼻先でつつくと、少量の覚せい剤がもらえる仕組みのマウス飼育箱を作製。普通のマウスと、GDNFという神経栄養因子を作る遺伝子を働かなくしたマウスをそれぞれこの中で飼い、常に覚せい剤を求め続ける依存症になるまでの日数を比べた。
すると普通のマウスは平均20日かかったが、GDNF遺伝子が働かないマウスは平均15日。覚せい剤が出ない状態を3カ月保った後、再び赤ランプをつけると、普通のマウスの倍のペースで穴を激しくつつき続けた。GDNFがないと覚せい剤依存症の発症・再発がしやすくなることが示された。
これと並行して、丹羽美苗(にわ・みなえ)・名城大研究員はGDNFを増やすことが分かっているアミノ酸分子を使い、治療効果を調べた。依存症にしたマウスに5日間、覚せい剤を与えないでおく。この間にアミノ酸分子を1日1回注射したマウスは、覚せい剤を再び与えても再発しなかった。一方、何もしなかったマウスはすぐに再発した。GDNFの増加で「誘惑」に強い体質になったと見ている。
鍋島教授は「結果がそのまま人間に当てはまるかどうかは分からないが、治療薬開発の手がかりになる」といい、今後、複数の大学病院などと連携して、覚せい剤依存症で治療中の患者の血液を使って、人でのGDNF遺伝子を調べる。
覚せい剤依存症を治す薬はなく、陥ると手を切るのが難しい。厚生労働省のまとめによると、覚せい剤取締法違反で検挙された人のうち、再犯者は00年の50%から増加し続け、05年には55%に達している。
睡眠など1日の生活リズムを決める体内時計の新たな「時計遺伝子」を、理化学研究所神戸研究所システムバイオロジー研究チームなどがショウジョウバエで見つけた。19日付の米科学誌「ジーンズ・アンド・ディベロップメント」の電子版に発表する。上田泰己チームリーダーは「ヒトの体内時計の解明につながる研究だ」と話している。
研究では、ショウジョウバエを用いた。生活リズムを制御している頭部にある137の遺伝子について、それぞれ遺伝子操作したハエを作り、生活リズムの変化を調べた。すると、CWOという遺伝子を働かなくしたハエの睡眠などの生活リズムが24時間周期から2時間遅れて26時間になることが分かった。
また、この遺伝子はオレンジという名がついた遺伝子配列の領域を含み、ほかの時計遺伝子の働きにも影響していた。そのため、スタンリー・キューブリック監督によって映画化されたアンソニー・バージェスの小説名にちなみ「時計じかけのオレンジ」と名付けられた。上田チームリーダーは「今後、これまでに分かっている6、7個の別の時計遺伝子との関係を調べていきたい」という。
保湿効果などで注目される糖類「トレハロース」を細胞内に取り込む遺伝子を、農業生物資源研究所(茨城県つくば市)の黄川田(きかわだ)隆洋・主任研究員らが、世界で初めて発見した。 トレハロースは細胞を乾燥から守る働きがあり、見つかった遺伝子を組み込むことで、切り花の花持ちをよくしたり乾燥に強い作物を作り出したりすることができると期待される。
トレハロースは人間など哺乳(ほにゅう)類は合成できないが、昆虫やキノコ、酵母など幅広い生物が合成して利用している。例えばネムリユスリカという昆虫は、乾燥した状態になってもトレハロースの働きで生き延びることができる。
黄川田さんらはネムリユスリカを使い、トレハロースを細胞内に取り込む遺伝子を発見した。マウスの細胞に遺伝子を組み込むと実際にトレハロースを取り込み、哺乳類でも遺伝子が機能することを確認した。遺伝子組み換え技術を使って、乾燥に強いコメの開発を既に始めているという。
トレハロースは人間が食べても害はなく、食品や化粧品などに使われている。
遺伝子組み換え技術を使って植物の光合成の能力を増強する方法を開発したと、日本大学の奥忠武教授(生物有機化学)らの研究チームが9日発表した。シロイヌナズナで光合成能力を増強し、野生の株に比べて60日目で1.3〜1.5倍の背丈に成長させることができた。バイオ燃料や森林資源の増産などが期待される成果だという。
奥さんらは、太陽光が届きにくい水中の植物は持っているが、陸上の植物は失ったとされる光合成関連遺伝子に着目。ノリが光エネルギーを取り込む際に働くたんぱく質の遺伝子「シトクロムc6」を、シロイヌナズナに組み込んだ。
その結果、発芽60日後の株は野生株と比べ、エネルギー源となるアデノシン三リン酸(ATP)の量が約2倍、でんぷんが1.2倍に増えており、光合成能力の増強が確認できた。背丈や葉の面積、重量も増えた。同じ能力が3代目まで保たれることも確かめた。
エタノール生産に使われるトウモロコシ、ジャガイモ、ケナフなどで実験を始めており、奥さんは「生物資源の増産や二酸化炭素削減など環境保全への貢献が期待できる」といっている。
フランスとイタリアの共同研究チームがブドウのゲノム(全遺伝情報)を解読し、26日、英科学誌ネイチャー(電子版)に概要を発表した。ワイングラスを傾けながら、遺伝子レベルでワインの個性にうんちくを傾けられるかもしれない。果実をもつ農作物でゲノムが解読されたのは初めて。植物では、イネ、シロイヌナズナ、ポプラに続いて4番目。
チームは、仏ブルゴーニュ地方の赤ワインの主要品種で、シャンパンにも使われるピノノワール種の系統のブドウを調べた。遺伝子の数は3万434個。赤ワインが健康にいい理由の一つとされるレスベラトロルという物質の遺伝子や、赤ワインの風味の重要な要素の一つであるタンニンの代謝にかかわる遺伝子が、ゲノム解読ずみの他の植物よりたくさん働いていることがわかった。
チームは「ワインの風味の多彩さを、遺伝子レベルで説明できるようになるのではないか」と述べている。
糖尿病やその「予備群」の人は、そうでない人よりアルツハイマー病になる危険性が4.6倍高いことが、九州大の清原裕教授(環境医学)らの研究でわかった。福岡県久山町の住民約800人を15年間、追跡して分析した。がんや脳梗塞(こうそく)、心臓病も発病しやすいという。糖尿病が、失明などの合併症に加え、様々な病気の温床になることが浮かび、その対策の重要性が改めて示された。
九大は久山町で1961年から住民健診をして、生活習慣や体質と病気の関係を研究。死亡した場合には解剖への協力を求めている。
清原さんらは85年時点で、神経疾患などを研究する米国立衛生研究所の研究機関の基準で認知症ではないと判断した65歳以上の826人を追跡。00年までに集めたデータの解析を進めてきた。
15年間に188人が認知症を発症し、うち93人がアルツハイマー病だった。画像検査のほか、死亡した145人は9割以上を解剖して確定診断をした。
同じ826人について、ブドウ糖の代謝能力である耐糖能の異常も調査。生活習慣が主な原因とされる2型糖尿病の病歴がある▽空腹時血糖が血液0.1リットルあたり115ミリグラム以上――などの人らをアルツハイマー病調査と合わせて分析した。これら糖尿病やその予備群の人は、耐糖能異常のない人に比べて4.6倍、アルツハイマー病になる危険性が高かった。
清原さんによると、脳にたまってアルツハイマー病を引き起こすとされる物質は、インスリン分解酵素によって分解される。耐糖能異常の人はインスリンが少ない場合が多く、分解酵素も減るので、アルツハイマー病の危険性が高まるという。
解剖などによる確定診断に基づいたアルツハイマー病研究で、これほどの規模のものは世界でも例がないという。
また、別に40〜79歳の約2400人を88年から12年間追跡し、糖尿病とがん、脳梗塞などとの関係も調べた。その結果、糖尿病の人は、そうでない人よりがん死亡の危険性が3.1倍高く、脳梗塞も1.9倍、心筋梗塞など虚血性心疾患も2.1倍高かった。
清原さんは「糖尿病対策がアルツハイマー病予防につながる可能性がある。国内ではここ十数年で耐糖能に異常がある人が女性で2割、男性で4割増えており、対策を急ぐ必要がある」と話す。
抗生物質を効かないようにする薬剤耐性遺伝子は、自然界の海洋細菌から、人の体内にもいる大腸菌や腸球菌に移動しやすいことが分かった。耐性菌を含んだ生魚などを食べると、使ったことのない抗生物質でも効かなくなる可能性を示す結果だという。松山市で開催中の日本微生物生態学会と国際微生物生態学シンポジウムアジア大会の合同学会で、愛媛大沿岸環境科学研究センターの鈴木聡教授らが17日、発表する。
実験では、魚の養殖でも利用される抗生物質の一つであるテトラサイクリンが効かなくなる耐性遺伝子を持った5種類の海洋細菌を使った。これらの海洋細菌と、大腸菌や腸球菌を一緒に培養した。すると、細胞の膜構造が互いに似ている場合に、耐性遺伝子が大腸菌や腸球菌に取り込まれる確率は最高1000分の1程度あった。
似た細菌が接触して細菌間で遺伝子が移動する確率は、100万分の1から10万分の1程度だとされる。ところが、耐性遺伝子では100〜1000倍高い値になった。
鈴木教授は「環境中の菌から、人の体内の病原性の大腸菌などに耐性遺伝子が移ると、抗生物質が効かなくなる恐れがある」と話している。
耳あかが湿っているか、乾燥しているかは遺伝子のタイプで決まるが、どちらの型の人が多いかは地域によって微妙に違う−。
長崎県の高校生らが、全国の高校生から集めたつめのDNA分析を基に、長崎大と共同でこんな研究結果をまとめ、東京で開催中の日本人類遺伝学会で15日発表した。
研究に取り組んだのは県立長崎西高3年の山田賢輔君(18)ら。
耳あかは、両親の双方から特定の変異がある耳あか遺伝子を受け継ぐと乾燥型になる。過去の研究から、古くから日本にいた縄文人は変異がなく湿っていたとみられるが、大陸から渡来した弥生人は乾燥型だったとされ、現代の日本人は約八割が乾燥型といわれる。
山田君らは、地域による違いがあるのかを調べようと計画。長崎西高は理数教育に重点を置く「スーパー・サイエンス・ハイスクール」の指定を文部科学省から受けており、全国のスーパー高校に協力を呼び掛けた。これまでに28道府県の32校から計771人分の高校生のつめを集め、長崎大で遺伝子の型を分析してもらった。
すると、乾燥型の比率は岐阜、京都、愛媛、大分などで比較的高く、岩手、三重、島根、沖縄などでは低めとの結果が出た。耳あかと遺伝子の関係を解明した新川詔夫長崎大名誉教授(分子医療)は「もっと詳細に調べれば、弥生人の移動経路の推測に役立つかもしれない」と話した。
心臓が正常に動くために必要で、不足すると心不全につながるたんぱく質を国立循環器病センターと大阪大などの研究グループが発見した。心臓への負担が少ない心不全治療薬の開発につながる可能性がある。米医学誌ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション電子版に21日、発表した。
発見されたたんぱく質はミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)と呼ばれる酵素の心臓特異型。12人の重症心不全患者から治療のために切り取った心筋を使い、そこで働く遺伝子を調べた。すると、心不全の症状の重さと関連の深い遺伝子が特定され、その遺伝子が作りだすMLCKが少ないと、心不全になる傾向が強いことがわかった。
心筋内のMLCKが足りない熱帯魚を遺伝子操作でつくったところ、心臓収縮の原動力となる筋細胞内の配列が乱れ、心臓が大きくなって拍動に異常が現れ、心不全と同じ症状になった。ラットの実験でも、MLCKが心筋細胞内の規則的な配列を維持し、心臓が正常に収縮するために必要なことがわかったという。
循環器病センターの北風政史・心臓血管内科部長は「弱った心筋を酷使する従来の強心剤は心臓への負担が大きい。心臓のMLCKの働きを活性化することで壊れた心筋を修復し、副作用も少ない心不全治療薬の開発につながる」と話す。
NECは、犯罪捜査などで使われるDNA解析を約25分で完了する持ち運び型の解析装置を開発した。
プレス機械メーカーのアイダエンジニアリング(神奈川県相模原市)との共同開発で、携帯型のDNA解析装置は世界初という。主に警察向けに2008年度にも実用化する。
装置は幅50センチ、奥行き40センチ。携帯型にしたことで「初動捜査をより迅速に進められる」(NEC)ことが期待される。DNA解析は現在、事件現場で採取した皮膚などを研究施設などに持ち帰って複数の装置で行うため、1日から1週間ほどかかっている。
食中毒の原因菌として知られるサルモネラ菌が宇宙の無重力環境で増殖すると、病原性が増大することが、スペースシャトルでの実験で明らかになった。近く米科学アカデミー紀要電子版に掲載される。
アリゾナ州立大などの研究チームは、昨年9月に飛行したシャトルに、サルモネラ菌の培養装置を搭載。地上でも光や温度などの条件を全く同じにした装置で培養した。約12日間の飛行終了後、それぞれの菌をマウスに感染させたところ、宇宙飛行した菌は、地上の菌の3分の1の量で、マウスの半数を死なせてしまった。同じ量を感染させると、宇宙飛行の菌の方がマウスが早く死んだ。
分析の結果、遺伝子167個の働きが飛行中に変化していた。研究チームは「無重力環境では、細胞膜が周囲の液体から受ける力が減るため、膜の構造なども変化する」と指摘。「長期間の宇宙飛行に向け、感染予防などの面で貴重なデータになる」としている。
シベリア北部の永久凍土から発掘された1万2000年前から5万年前のマンモス10頭の毛から、細胞小器官ミトコンドリアのDNAを抽出し、高い精度で解読することに成功したと、米ペンシルベニア州立大などの国際研究チームが28日付の米科学誌サイエンスに発表した。
従来の骨や筋肉からDNAを抽出する方法に比べ、毛は周囲が硬いケラチンに包まれ、細菌などのDNAの混入が少なく、劣化が進んでいないのが特徴。絶滅した動物の他の種との関係や進化過程をより正確に解明できるほか、DNA解析の対象がこれまでに成功したマンモスやマストドン、飛べない巨鳥モアなど以外にも広がると期待される。
理化学研究所と慶応大などの研究チームは2日、つい間板ヘルニアの原因遺伝子の一つを発見したと発表した。新しい治療や予防法の開発につながる可能性のある成果だ。
つい間板ヘルニアは、背骨の間にある軟骨(つい間板)が外に飛び出して腰の神経を圧迫する病気で、腰痛や座骨神経痛などを引き起こす。20〜40歳で発症しやすく、日本人の1%以上がかかっていると言われている。
理研遺伝子多型研究センターの池川志郎チームリーダーらが見つけた原因遺伝子は「COL11A1」。つい間板の組織のたんぱく質を作ることが知られていたが、病気との関係はわかっていなかった。患者と健常者計1730人を調べると、患者の方が、COL11A1が変異している割合が9%高かった。
この変異のある人が病気にかかる危険性を計算すると、変異がない人に比べて1・4倍高くなった。変異があると、たんぱく質の作成量が約30%減り、つい間板が弱くなって飛び出しやすくなることも突き止めた。
つい間板ヘルニアの原因遺伝子はいくつかあると考えられており、研究チームは2年前にも原因遺伝子の一つを発見している。
スウェーデンのカロリンスカ医科大学は8日、今年のノーベル医学生理学賞をマリオ・カペッキ米ユタ大教授(70)、マーチン・エバンス英カーディフ大教授(66)、オリバー・スミシーズ米ノースカロライナ大教授(82)の3氏に贈ると発表した。あらゆる細胞や組織になることができるマウスの胚(はい)性幹(ES)細胞を使って特定の遺伝子を操作したモデル動物を作り出し、さまざまな病気の原因解明などに貢献した業績が評価された。
賞金は1000万クローナ(約1億8000万円)で3氏で分ける。授賞式は12月10日、ストックホルムで開かれる。
エバンス教授は、分裂が進んだ受精卵から取り出した細胞を特殊な方法で培養し、ES細胞を作り出す方法を見つけた。カペッキ教授とスミシーズ教授は、標的とする遺伝子を操作できる手法を確立。89年に、これらの技術を組み合わせ、特定の遺伝子の働きを失わせたノックアウトマウスができた。
この手法で、がんや高血圧など500種以上のモデルマウスが作られ、様々な病気と遺伝子との関連を調べる研究が、世界中で飛躍的に進んだ。3氏は01年に共同でラスカー賞も受けている。
ES細胞は98年に人間でも作り出されており、将来、再生医療、移植医療を大きく発展させると期待されている。
〈オリバー・スミシーズ氏〉 25年英国生まれ。51年英オックスフォード大で博士号取得。現在、米ノースカロライナ大教授。
〈マーチン・エバンス氏〉 41年英国生まれ。69年英ロンドン大で博士号取得。現在、英カーディフ大教授。
〈マリオ・カペッキ氏〉 37年イタリア生まれ。67年米ハーバード大で博士号取得。現在、米ユタ大教授。96年に京都賞。
欧米の研究チームはこのほど、米科学アカデミー紀要の電子版で、母乳育児が知能発育を促進する傾向を再確認した上で、カギとなる遺伝子を特定したと発表した。
同遺伝子には、魚に多く含まれ、脳発育を促す栄養素「オメガ3不飽和脂肪酸」などを母乳を通じて乳児が摂取するのを助ける働きがある。
研究チームは約3200人を対象に、母乳と知能指数(IQ)の関連性を追跡調査。その結果、同遺伝子を持った子供が母乳で育てられた場合、IQは非母乳組に比べ平均7ポイントも高かった。約9割の人は同遺伝子を生来備えているという。一方、同遺伝子を持たない子供では、母乳育児か否かによりIQに差異は生じなかった。
最大6時間も走り続ける「スーパーマウス」を遺伝子組み換え技術で作った、と米オハイオ州のケース・ウエスタン・リザーブ大学が発表した。エネルギー代謝に関係する酵素が活性化しているため、運動の際に筋肉にたまる乳酸が非常に少なく、激しい運動に耐えられるという。
スーパーマウスは、走行装置の上を、分速20メートル(時速1.2キロ)ほどで5〜6キロを走り通した。普通のマウスが200メートルで脱落した後も走り続ける映像が、大学のウェブサイト(http://blog.case.edu/case−news)に掲載された。普通のマウスと外見は変わらないが、行動的・攻撃的で、寿命や生殖期間は長いという。ただし、普通の1.6倍ものエサを食べる。
研究グループは、このスーパーマウスを著名な自転車レース「ツール・ド・フランス」で7年連続総合優勝したランス・アームストロング選手にたとえた。一方で、今回の動物実験はあくまで運動と病気などの関係を調べるのが目的で、人への応用は倫理的にも不適切と強調。「人の代謝過程への干渉は、どんなものであれ、効果よりも害の方が大きくなるだろう」と注意を促している。
人の皮膚細胞などに複数の遺伝子を組み込み、各種の組織のもとになる万能細胞(人工多能性幹細胞=iPS細胞)をつくることに、京都大・再生医科学研究所の山中伸弥教授らが成功した。21日、米科学誌セル(電子版)に発表する。米ウィスコンシン大も同日、米科学誌サイエンス(電子版)に同様の成果を発表する。人間の体細胞から万能細胞ができたことで、臓器や組織を補う再生医療が現実味を帯びてきた。
代表的な万能細胞の胚(はい)性幹(ES)細胞は、生命の萌芽(ほうが)である受精卵を壊してつくるので批判が根強い。山中教授と高橋和利助教らは昨年8月、マウスの皮膚の細胞に四つの遺伝子を組み込み、世界で初めてiPS細胞を作製。受精卵を壊す必要がなく、倫理問題が少ないとして注目された。
山中教授らは今回、成人の顔の皮膚の細胞や関節にある滑膜の細胞に、マウスの場合と同じ四つの遺伝子を導入。人やサルのES細胞の培養用の増殖因子を使ったり、マウスより長く培養したりして、人間のiPS細胞をつくるのに成功した。この細胞が、神経細胞や心筋細胞、軟骨などへ分化できることも確認したという。
山中教授は「再生医療の実現にはまだ少し時間がかかるが、ねらった細胞に効率よく分化させたり、安全性を高めたりして、臨床応用につなげたい」と話している。
一方、米ウィスコンシン大のチームは、山中教授らの4遺伝子のうち二つを別の遺伝子にして、新生児の皮膚細胞からiPS細胞をつくった。
日本人などアジア系に多い「緑の黒髪」には、黒い、太い、直毛といった特徴があるが、そのうち太さに関係する遺伝子を東京大学の徳永勝士教授(人類遺伝学)、大学院生の藤本明洋さんらの研究チームが特定した。毛髪の形状に直接かかわる遺伝子が具体的に示されたのは、初めてだ。
研究チームは脱毛症などと関係が深いとされる170の遺伝子に注目。国際データベースを使い、東アジア系、欧州系、アフリカ系で違いのある遺伝子を探したところ、東アジア系では2番染色体にあるEDARという遺伝子で、ある1カ所が特有の配列の人が多いことがわかった。
直毛やくせ毛などばらつきが大きいインドネシアとタイで計186人の毛髪の形状とEDARの特徴を分析すると、東アジア系特有のEDARの人は、そうでない人に比べ毛髪の断面積が1.2〜1.5倍と太かった。
EDARが作るたんぱく質は毛髪の根本にある毛包の形成に関係するほか、歯の形状にも影響する。太い毛髪の遺伝子をもつ東アジア人の祖先は同地域で生き延びる上で利点があったと考えられるが、毛髪の太さが直接、有利に働いたかどうかはわかっていない。
徳永教授は「毛髪の特徴は病気との関係が薄いこともあり、これまで本格的な遺伝子解析が行われてこなかった。今後は身近な特徴にかかわる遺伝子についても研究が進むだろう」という。米人類遺伝学会で発表した。
平成20年
細菌のゲノム(全遺伝情報)を人工的に合成することに、米クレイグ・ベンター研究所のチームが成功した。これまで、より原始的なウイルスでの成功例はあったが、自己増殖能力を備えた生物である細菌のゲノムを人工合成したのは初めて。人工合成ゲノムを実際に働かせることができれば、細菌の人工合成につながるだけに、「人工生命」づくりに向けた大きな前進だ。米科学誌サイエンス(電子版)に25日、発表する。
人工合成したのは「マイコプラズマ・ゲニタリウム」という細菌のゲノム。
チームはまずゲノム全体の8分の1〜4分の1の大きさの分子を試験管内で化学合成。これらの「部品」を大腸菌に入れ、遺伝子組み換えでくっつけ、大きな部品をつくった。さらに大きな部品を酵母の中で同様にくっつけ、完全なゲノムを合成した。
生物の設計図であるゲノムの人工合成は、特定の能力を備えた「人工生命」づくりの前提となる技術。バイオ燃料を製造したり、有害廃棄物を分解したりするのに必要な人工微生物づくりなどへの応用が期待されている。
人工生命づくりには、合成したゲノムをどうやって働かせるかなどの課題はあるが、チームは昨年、ある細菌のゲノムと別の細菌のゲノムを入れ替えることにも成功しており、こうした技術との組み合わせで「人工生命」が誕生するのも時間の問題、という見方も広まってきている。
しかし、人工生命はテロへの悪用、自然界への悪影響などの懸念がつきまとう。
国立遺伝学研究所の小原雄治所長は「生命のデザインを可能にする大きな一歩だ。ただ、人工微生物を人間が制御できなくなったときにどう対応するのかなど、二重、三重の安全対策を考えていく必要がある」と話す。
ノーベル生理学・医学賞を受賞した米マサチューセッツ工科大の利根川進教授が、脳の神経回路のスイッチを自在に「オン」「オフ」する遺伝子操作技術を世界で初めて開発することに成功した。
脳の神経がどのように働いているかを調べるための研究に有用な技術で、利根川教授は、大学と同じマサチューセッツ州を本拠地とする米大リーグ、ボストン・レッドソックスの松坂大輔投手にちなんで、英文の頭文字をつなぎ、この手法を「DICE―K(ダイスケ)」と名付けた。25日の米科学誌「サイエンス」(電子版)に掲載される。
これまでの方法では、実験動物の脳の一部を回復できないように人為的に壊して調べるため、広範に壊すことによる影響が出る。脳の機能を維持したまま、神経回路をピンポイントで操作できる今回の手法を使えば、状態がより正確に把握できるという。
利根川教授は、マウスの実験で、3種類の遺伝子を組み換えて、記憶を担う脳の「海馬」という領域にある特定の神経細胞だけを操作した。この神経細胞は、「ドキシサイクリン」という抗生物質に反応して回復するようになっている。
ヒトゲノム(全遺伝情報)に存在する二万数千個の遺伝子が、相互に干渉せず秩序を維持して働く仕組みを、東京工業大大学院の白髭克彦教授らの日欧共同研究チームが解明した。環状のタンパク質がDNAを約1万3000カ所で区切り、遺伝子の機能を場所ごとに制御していることを突き止めた。
英科学誌「ネイチャー」(電子版)に30日、発表した。
人体の設計図であるヒトゲノムを機能別のブロック単位で理解できるようになる成果で、遺伝病の原因究明や遺伝子治療の進歩につながると期待される。
タンパク質をつくる遺伝子は、スイッチ役の制御配列から「オン」(活性化)や「オフ」(抑制)の情報を受け、機能を制御されている。 この情報は個々の遺伝子ごとにきちんと区別して伝達され、“混線”することはないが、その仕組みは分かっていなかった。
白髭教授らは、ゲノム上のタンパク質の働きを網羅的に解析。細胞分裂の際に働く「コヒーシン」という環状のタンパク質が、遺伝子の機能制御に深く関係していることを発見した。コヒーシンは、輪ゴムで縛るようにDNAをループ状に区切っていると推定。遺伝子の制御情報は、区切られた領域内で同時に伝わるが、他の領域にはコヒーシンによって遮断されて伝わらないという。
遺伝子治療では、導入した遺伝子が本来の機能を発揮せず、治療効果が得られない場合がある。今回の成果を基に、遺伝子が活性化される領域を狙って導入すれば、効果が高まる可能性があるという。
緑や赤に光る絹糸 オワンクラゲの遺伝子組み込む(08年10月25日、朝日)
今年のノーベル化学賞で話題になったオワンクラゲなどの遺伝子を蚕に組み込み、光る絹糸を作らせることに農業生物資源研究所(茨城県つくば市)のグループが成功し、24日発表した。この技術を応用すると様々な色の糸が作れ、染色が不要になるという。実用化に向けた研究が進んでいる。
研究グループはオワンクラゲの緑色とサンゴの赤色、オレンジ色の蛍光たんぱくの遺伝子をそれぞれ組み込んだ3種類の蚕をつくった。蚕が作った繭に青色光をあて、黄色のフィルターを通して見ると、各色に光った。
見るための特殊な条件を必要としない着色も、組み込む遺伝子を変えるだけでできるという。ほかに、遺伝子の一部を改変して細くて強い糸を作ったり、細胞に接着しやすいたんぱくの遺伝子を組み込み、できた絹糸で人工血管を試作したりしている。
遺伝子組み換え体を扱うため、実用化には生産施設の立地などに課題が伴うが、同研究所遺伝子組換えカイコ研究センターの田村俊樹センター長は「5年以内の実用化をめざしたい」と話している。
絶滅動物の復活も?凍結死体からクローン技術でマウス誕生(08年11月4日、読売)
16年間、凍結していた死体から、クローン技術でマウスを誕生させることに、理化学研究所のチームが成功した。
凍結死体からのクローンは世界初。凍結マンモスなど絶滅動物の復活が期待できるが、死体からのクローンは倫理的な議論も呼びそう。米科学アカデミー紀要に4日発表される。
クローンは、核を抜き取った卵子に、コピーしたい動物の体細胞の核を入れ、これを代理母の子宮に移して誕生させる。凍結死体のクローンは技術的に難しく、これまで報告されたクローン動物はすべて生きた細胞から作製された。
研究チームは、細胞を培養液内で軽くすりつぶし、核だけを押し出すように抜き取る手法を開発。氷点下20度で16年間凍結保存されていたマウスを解凍し、脳細胞や血液細胞の核を健康なマウスの卵子に注入した。この卵子から
平成21年
iPS細胞で新薬副作用調査、2年後にも実用化…医科歯科大(09年2月7日,読売)
様々な細胞に変化できる人の新型万能細胞(iPS細胞)を使い、新薬の候補となる物質の心臓への副作用を正確に素早く検査する方法を、東京医科歯科大の安田賢二教授らが開発した。
心臓への副作用は、新薬開発中止の主な原因となっており、動物実験に代わる画期的な技術。iPS細胞で実際の創薬に使える手法を開発したのは初。2年後の実用化を目指している。
安田教授らは、極細の電極を張り付けたガラス基板の上で、iPS細胞から分化させた心筋細胞を培養。心電図のように心筋が出す電位を、電極を通じて検出した。心臓に悪影響を与える薬剤を加えると、不整脈に似た波形になった。
今後、慶応大の福田恵一教授らと、薬の影響を受けやすい心疾患の患者のiPS細胞を使って、医薬品の反応を調べる。
新薬開発が中止となる理由の約3割は心臓への副作用。動物実験では分からず、最終段階の臨床試験で初めて人への害が分かり、巨額の開発費が無駄になることも多かった。
山中伸弥・京都大教授の話「iPS細胞の実用化が最も早いのは、間違いなく新薬の毒性試験だと思う。この方法なら、臨床試験では使えないような高濃度の薬剤の影響を人の細胞で確かめられるので、安全面でも優れている」
平成22年
動物のDNA内、新たなウイルス遺伝子を発見(2010年1月7日、朝日)
ヒトやサルなど動物のDNAが、少なくとも4千万年前までに感染したとみられる「ボルナウイルス」の遺伝子を取り込んでいることを、大阪大学微生物病研究所の朝長(ともなが)啓造准教授(ウイルス学)らが発見した。遺伝子治療で体内に有用な遺伝子を入れるための運び屋として使うなど、ウイルスの新しい利用法開発につながる可能性もあるという。7日付の英科学誌ネイチャーに発表した。生物のDNAには、進化の途中で感染したウイルスの遺伝子の一部がとりこまれ、残っていることが知られている。ヒトのDNAの全遺伝情報(ゲノム)の約8%は、DNAに入り込む性質を持つ「レトロウイルス」のものだとされている。 そのためウイルスの感染と生物進化の関係が研究されているが、これまでレトロウイルス以外のウイルスの遺伝子がゲノムに侵入するかどうかはわかっていなかった。
朝長さんらは、ボルナウイルスに注目した。このウイルスは、はしかウイルスなどに近縁で、動物の細胞の核の中で持続感染する。DNAを分析したところ、サルや象、マウスなど様々な動物のDNAからボルナウイルスの遺伝子が見つかった。
とりこまれた遺伝子は今もたんぱく質を作り出していることもわかり、今後役割を突きとめていく。
やせ形の糖尿病、新たな原因遺伝子発見 東大など(2010年1月8日、朝日)
日本人に多い「やせ形の糖尿病」を発症させる危険度(リスク)を2.5倍余に引き上げる新たな遺伝子の型を東大と東京女子医大などの研究チームが見つけた。インスリン分泌を妨げる役割を持っており、分泌を制御する治療薬の開発につながる可能性もある。
米国人類遺伝学会誌(電子版)に8日、発表した。見つけたのは、血糖値を下げるホルモンのインスリンの制御にかかわる「KCNJ15」遺伝子。生活習慣と遺伝的な要因が関係する「2型糖尿病」を対象に、患者1568人と健康な人1700人の遺伝子を調べた。日本では、欧米に比べインスリン不足で太っていなくても高血糖になる「やせ形の糖尿病」と言われる。
病気になりやすい遺伝子の型だと発症リスクは約1.7倍、体格指数BMI(体重〈キロ〉を身長〈メートル〉の2乗で割った値)が24以下の太っていない患者だと約2.5倍という。欧米人と比べ、この変異は日本人に多いこともわかった。
これまで膵臓(すいぞう)でインスリンの分泌を促す「車のアクセル」のような遺伝子は見つかっていたが、今回見つかった遺伝子は逆に「車のブレーキ」のような役割という。
平成23年
遺伝物質の断片ふりかけ、安全・簡単に万能細胞 (2011年5月27日、読売)
様々な組織の細胞に変化する人のiPS細胞(新型万能細胞)と同じ能力のある細胞を、新しい方法で作ることに大阪大の森正樹教授らのグループが成功した。
皮膚などの細胞に「マイクロRNA」という遺伝物質の断片を3種類ふりかけるだけで、安全性も高く、再生医療への応用が期待される。27日の科学誌「セル・ステムセル」に発表する。
研究グループは、細胞内の遺伝子の働きを制御するマイクロRNAの中には、普通の細胞をiPS細胞のような万能細胞に変えるものがあると予測。万能細胞だけで働くマイクロRNAを探し、脂肪や皮膚の細胞に入れる実験を重ねた。
その結果、細胞の性質を調節する「mir―200c」など3種類を、ヒトの皮膚の細胞などに加えるだけでiPS細胞とよく似た細胞を作ることに成功。マウスに移植して様々な細胞に変化することも確認した。「mi―iPS(ミップス)」細胞と名付けた。
平成24年
満の肥満原因遺伝子発見 京大教授ら 予防・治療に期待も(2012年2月21日、朝日)
食事の脂肪分が多いと肥満になりやすくなる原因遺伝子を、辻本豪三京都大教授(ゲノム創薬)らが見つけた。この遺伝子が働かないマウスは、高脂肪のえさを食べると肥満や脂肪肝を発症した。ヒトにもその遺伝子があり、肥満の予防や治療薬の開発が期待できるという。英科学誌ネイチャー電子版で20日発表した。
その結果、脂肪分が13%と少ないえさでは違いが出ないが、60%のえさを食べさせた場合、遺伝子が働かない方は体重が15%多かった。皮下脂肪の重さは1.5倍、内臓脂肪と肝臓の重さは1.9倍だった。
世界で初めて突き止めたと名古屋大学などの研究グループが発表し、せき髄損傷などの新しい治療法の開発につながると期待されています。研究を行ったのは、名古屋大学大学院理学研究科の松本邦弘教授と久本直毅准教授らのグループです。
実験には「線虫」という小さな虫を使い、神経を人工的に切断して、再生の様子を詳しく調べた結果、神経が再生する際に働く遺伝子が「SVH」と呼ばれる特殊なタンパク質を作り出していることが分かりました。
遺伝子を操作しなかった虫では、切れた神経の5%程度しか再生しなかったのに対して、遺伝子を操作して、このタンパク質の量を増やした虫では、40%から60%が再生したということです。
このタンパク質を作れないようにした虫では神経は再生しませんでした。
研究グループでは、神経の再生に必要なタンパク質を突き止めたのは世界で初めてだとしています。
久本准教授は「より高等な動物で研究が進めば、治療が難しいせき髄損傷などの治療法の開発などにつながるのではないか」と話しています。
切れた神経を再生させるタンパク質を世界で初めて突き止めたと名古屋大学などの研究グループが発表し、せき髄損傷などの新しい治療法の開発につながると期待されています。
研究を行ったのは、名古屋大学大学院理学研究科の松本邦弘教授と久本直毅准教授らのグループです。
実験には「線虫」という小さな虫を使い、神経を人工的に切断して、再生の様子を詳しく調べた結果、神経が再生する際に働く遺伝子が「SVH」と呼ばれる特殊なタンパク質を作り出していることが分かりました。
遺伝子を操作しなかった虫では、切れた神経の5%程度しか再生しなかったのに対して、遺伝子を操作して、このタンパク質の量を増やした虫では、40%から60%が再生したということです。
このタンパク質を作れないようにした虫では神経は再生しませんでした。
研究グループでは、神経の再生に必要なタンパク質を突き止めたのは世界で初めてだとしています。
久本准教授は「より高等な動物で研究が進めば、治療が難しいせき髄損傷などの治療法の開発などにつながるのではないか」と話しています。
この研究成果は、5日発行のアメリカの科学雑誌「ネイチャーニューロサイエンス」に掲載されます。
東北大は6日、同大大学院の片桐秀樹教授(代謝学)らのグループが、遺伝子操作により平均寿命が通常より約3割長いマウスを作ることに成功したと発表した。
人間の長寿化の研究に役立つと期待される。6日発行の米医学誌「サーキュレーション」に発表した。
高血圧などで血管が傷つくと炎症を起こし、動脈硬化の要因となるため、研究チームは、血管の最も内側にある血管内皮細胞で炎症反応が出ないような遺伝子操作を行った。また、食事制限で活動を低下させることで寿命が延びることは知られているが、食事制限はしなかった。
通常は寿命が約1年9か月のマウスに対し、遺伝子操作で作ったマウス約20匹を比較したところ、平均寿命が約2年3か月と3割程度延び、最長で約2年8か月生きたものもいた。筋肉内の血流と活動量が上昇したという。
片桐教授は「血管内皮細胞の炎症だけを抑える新薬を作れば、直接人間の長寿につながる可能性がある」としている。