本能の遺伝(2009414)

 

例えば、ある魚のオスはメスの産み落とした卵に授精した後、その卵が孵化するまで新鮮な水を卵に吹き掛けたり、ヒトデやウ二など岩に付いた卵を狙う外敵を見つけると、それらをくわえて離れた所に持って行き、必死に卵を守る習性がある。

彼らも小さな脳を持っているが、子孫を守る為にこの様な行動を考えて実行しているとは思えない。 この様な防衛本能が脳幹に刷り込まれており、本能的に無意識に行動をしているとすると、脳内神経がその行動を起こす様に配線されている事になり、その様な配線を制御する遺伝子が存在しなければならない事になる。 しかしその様な遺伝子の存在は仮説として無理がある。

今ひとつ考えられる仮説は、自分と同種の成魚がする行動を見ながら、その真似をするのではないかと言う学習説である。 こちらの方が無理のない仮説であるが、まだ実験で確かめられてはいない。 

生物の求愛行動や生殖行動はホルモンの様な物質を感知して、本能的に行動すると言う事が考えられる。 すなわち、ある刺激を受けると、それをセンサーで感知して、自分の中にある種のホルモンが生成され、それが一定パターンの行動を誘発する。 ホルモンの生成には遺伝子が関与していると考えられる。

しかし、魚のオスが卵に新鮮な水を吹き掛ける行動をホルモンなどによる刺激の相互作用に起因するとするのは、いささか無理がある。

いずれにしろ、これら一連の行動を全て本能を司る遺伝子やホルモンの所為にするのは、私は無理があると思う。 生物行動生態学者による研究で早急に明確に解明して貰いたいものである。

知能が発達した哺乳類の本能的な行動は、遺伝的な本能と生後獲得する学習や模倣で説明できるが、知能レベルの低い魚や昆虫などの本能的な行動パターンが、学習ではなく、すべて遺伝的な本能で説明できるのかどうか、と言う疑問が、彼らの行動を知れば知るほど大きく膨らんで来る。 本当に自然界は不思議に満ち溢れている。