誤操作率(02/9/29)

1.人間の誤操作率

NTTが電電公社であった頃、私は無線関係の仕事をしていた。 今は「携帯」の時代だが、その頃は「マイクロウエーブ」が花形であった。 マイクロウエーブの回線が全国に張り巡らされ、それを使って、テレビ番組をキー局から地方の系列局まで中継していた。 今でもこの業務はNTTコミュニケーションが実施しているはずだ。

少ない中継線を複数のキー局で共用する為、テレビ番組を垂れ流しにしないで、時間帯を限って切り替えていた。 例えば、午前8時から9時まではTBSの番組、9時から10時まではNTVの番組中継に使う為、電電公社の無線局で送受端を手動で切り替える必要が有った。 人間のする事だから、幾ら注意しても切り替え誤操作が起り、NHKの番組に民放のコマーシャルが流れたりして大変なお叱りを受けた。 巨人−阪神の野球中継番組が、同時間帯のパリーグの試合に化けると言うハプニングも起きた。

色々な防止対策を打ったが、誤操作率1/1000の壁を打ち破る事は出来なかった。

その後コンピュータ制御システムに移行したが、切り替え情報の人為的入力ミス等あり、一桁以上の改善は出来なかったと記憶している。

この事例が示す様に、人間は必ず誤操作をする。 毎日の様に新聞を賑わしている医療ミス、交通事故、果ては過失致死まで誤操作による事故のニュースが減る事は無い。

防止対策を徹底すれば防げると言うが、必ず限界があり、それ以下には減らない。 コンピュータ制御に置き換えても、人間とのインターフェ−スの所でミスが生じるし、ソフトにはバグがあるからやはり限界がある。

人間は不完全な動物であり、人間社会から誤操作は無くならない、新聞の種は尽きる事が無いと諦観すべきなのである。

2.遺伝子コピーの誤り率

この世は常に揺らいでいる。 その根源をなす原子の世界にも熱による揺らぎがある。 そもそも、熱とは揺らぎの大きさを表す。 

生殖細胞(精子と卵子)が出来る時、親からの遺伝情報は、親のDNAからコピーされて忠実に生殖細胞にセットされ、受精して子供に伝達される。 その情報量は人間の場合30億ビットである。 すべてのビットが正確にコピーされれば、コピーの誤り率はゼロである。 しかし、実際の誤り率は10-7程度であり、30億ビットの内300ビットは誤ってコピーされる。 原因は「揺らぎ」にある。

もし誤り率がゼロだったらどうなるか。 生物の進化は完全にストップする。 生命が誕生した頃の誤り率はもっと高く、10-3のオーダーだったと推定されている。 まだコピーエラーの少ないDNA分子が存在しなかったからだ。 単細胞の生物は有性生殖ではなく、細胞分裂で個体の数を増やして行く。 誤り率が大きかったので、親に似ない子が生れ、分裂する度に誤りは累積して行く。 こうして世代を重ねる事30億年、単細胞生物は進化して人間にまでなった。 累積のプロセスは多岐にわたり、現存する膨大な生物種へと分岐して行った。 勿論、単なる細胞分裂による増殖だけでなく、複数の生物が融合(正確には共生)合体して新しい生物に変身する過程もあった。 例えば植物が持つ「葉緑素」は独立した生物だったが、他の生物の細胞に入って光合成機能を持つ植物へと進化した。

つまり、生物の進化の源泉はコピーエラーと共生と自然淘汰であり、最大の貢献をしたのはコピーエラーなのである。 コピーエラー無くして、我々人類を始めとする種の分化や進化は有り得なかったと言える。

3.結論

人間は30億年掛けて累積したコピーエラーの結果誕生した生物である。

人間は「エラー」の塊であり、欠陥だらけの生物であるので、誤操作による事故は無くならない。

この世は常に揺らいでいる。 遠い将来を予測する事は出来ない。