要約「国家の品格」(07/04/07)


最近読み応えの無い本が氾濫する中で、遅ればせながら事の核心を付いた著書に遭遇しました。ここにその要約を掲載し、まだ読んでいない人の参考に供したいと思います。

  1. この本のユニークな主張

    先進国はすべて荒廃している。それは、西欧的論理、近代的合理精神の破綻に他ならない。 論理的に正しいからと言ってそれを徹底していくと、人間社会はほぼ必然的に破綻に到る。 その理由を挙げると、

    1. あらゆる論理には限界が内包されており、徹底すると限界超過して破綻する。
    2. 人間にとって最も重要な事の多くは、論理的に説明できない。
    3. 論理の出発点を決めるのは、論理性ではなく情緒力である。 出発点を誤った論理は必ず破綻する。
    4. 長い論理の展開ほど、我々を誤謬に導く。

    以下の各章に、引き続き、著者“藤原雅彦氏”のユニークな主張を要約します。

     

  2. 自由・平等・民主主義の疑点

    欧米諸国が近代社会を構築する際の「論理の出発点」は、「自由」「平等」「民主主義」であります。 

    しかし、人間にはそもそも自由はありません。 生れ落ちた瞬間から、法律が網の目の様に張り巡らされています。 法律の他にも道徳とか倫理と言うものまであります。

    さらにどんな組織にも規制があり、協調が強いられています。 我々の行動や言論は全面的に規制されているのです。

    「平等」もフィクションです。「人間はすべて平等」などと言っても、子供でも直感的に「ウソ」と分かっているはずです。

    その上、自由と平等は両立しません。アメリカのプライベートなゴルフクラブには女性会員を認めない所や、有色人種を殆ど入れないところが多くあります。 これはゴルフクラブから見れば、組織する自由、趣味の自由、思想の自由です。 自由と平等とが正面衝突しています。

    自由と自由、平等と平等も正面衝突します。 平等な条件で競争すると弱肉強食となり、貧富の差が大きくなり、不平等になります。 結果の平等ではなく機会の平等だ、と言う論理が流行していますが、噴飯物です。

    民主主義にも立派な論理が通っています。 民主主義の根幹は主権在民です。 しかしそれには「国民が成熟した判断をする事が出来る」と言う大前提があります。 過去・現在・未来においても、国民は常に世界中で未熟である。 したがって、「成熟した判断が出来る国民」と言う民主主義の暗黙の前提は、永遠に成る立たない。

    国民は永遠に成熟しないので、放っておくと、民主主義は戦争を起こし、国を潰し、地球まで潰してしまう。 それを防ぐ為に必要なものが、実はエリートなのです。 真のエリートこそが、暴走の危険を原理的にはらむ民主主義を抑制するのです。

     

  3. 「情緒」と「形」を重んじよ

    解決策として著者が提示するのは、日本人が古来から持つ「情緒」、あるいは伝統に由来する「形(かたち)」を見直して行こうという事です。

    論理とか合理性だけでは人間はやっていけない。 何かを付加しなければいけない。

    その付加すべきもの、論理の出発点を正しく選ぶために必要なもの、それが日本人の持つ美しい情緒や形である。 論理とか合理を「剛」とするならば、情緒とか形は「柔」です。 硬い構造と柔らかい構造を相携えて、初めて人間の総合判断力は十全なものになります。

    自然への繊細な感受性を源泉とする美的情緒が、日本人の核となって、世界に例を見ない芸術を形作っている。 「悠久の自然と儚い人生」と言う対比の中に美を感じる、という類まれな能力も日本人にはあります。 また日本には一年を通じて自然の脅威が絶えません。 「無常観」と言うものを生み出しやすい風土なのでしょう。

    もうひとつ、日本人の誇りうる情緒として、「懐かしさ」があります。 これは非常に高級な情緒です。 

    この懐かしさと言う情緒は、著者の呼ぶ「四つの愛」の基本となります。 「四つの愛」とは「家族愛」「郷土愛」「祖国愛」「人類愛」です。

     

  4. 武士道精神の復活

    美的感受性や日本的情緒を育むとともに、人間には一定の精神の形が必要です。 論理と言うのは大きさと方向だけで決まるベクトルの様なものですから、座標軸がないと、何処にいるのか分からなくなります。 人間にとっての座標軸とは、行動基準、判断基準となる精神の形、すなわち道徳です。 著者は精神の形として「武士道精神」を復活すべきと考えます。 その中には、慈愛、誠実、忍耐、正義、勇気、惻隠などが盛り込まれています。 惻隠とは他人の不幸への敏感さです。

    それに加えて「名誉」と「恥」の意識もあります。 この武士道精神が、長年、日本の道徳の中核をなしてきました。


  5. 「情緒と形」の大切さ

    1. 普遍的価値

      美しい情緒や形が重要な最初の理由は、「美しい情緒や形は普遍的な価値」を持つという事です。

    2. 文化と学問の創造

      美しい情緒は文化や学問を作り上げていく上で最も大事である、と言う事です

    3. 国際人を育てる

      美しい情緒が重要な第3番目の理由は、情緒が真の国際人を育てると言う事です。

    4. 人間のスケールを大きくする

      情緒と形が大切な4番目の理由は、美しい情緒や形は「人間としてのスケールを大きくする」という事です。 欧米人のように「論理的にきちんとしていれば良い」と言う考えは誤りです。 論理を展開する為には自ら出発点を定めることが必要で、これを選ぶ能力はその人の情緒や形にかかっています。 これらは論理と同等、又はそれ以上に重要です。 出発点を適切に選ぶと言う事は、総合判断力が高まるという事です。 

    5. 「人間中心主義」を抑制する

      5番目は、欧米の世界支配とともに世界を覆った「人間中心主義」を、情緒や形が抑制してくれる事です。 現代人の感じるそこはかとない閉塞感、社会に漂う虚脱感には、人間中心主義により人間が自然と対立関係に陥ったと言う事実が深く影響している様な気がします。

    6. 「戦争をなくす手段」になる

      最後の六番目は、美しい情緒は「戦争をなくす手段」となるという事です。

      論理や合理だけでは戦争を止めることは出来ません。 これは歴史的に証明されています。

      卑怯を憎む心があれば、弱小国に侵攻する事をためらいます。惻隠の情があれば、女、子供、老人しかいない町に大空襲を加えたり、原爆を落としたりするのをためらいます。占領した敗戦国の文化、伝統、歴史を粉々にしてしまう事もためらいます。

      精神に「対立」が宿る限り、戦争をはじめとする争いは絶え間なく続きます。

      日本人の美しい情緒の源にある「自然との調和」も、戦争廃絶と言う人類の悲願への鍵となるものです。

       

  6. 国家の品格

    戦後の日本では、高い経済成長の代償に、失ったものが余りに大きかった。

    「国家の品格」が格段の失墜しました。 この品格を取り戻す為に何をしたら良いでしょうか。

    国の底力の指標は「天才をどれだけ輩出するか」に掛かっています。

    天才の輩出の条件は、

    1. 第一条件「美の存在」
    2. 第二条件「ひざまずく心」
    3. 第三条件「精神性を尊ぶ風土」

    日本はこれら三つの条件を見事に満たしています。

    まず日本には美しい自然がある。 第二に、神や仏や自然にひざまずく心がある。 それから、三番目に、役に立つものとか金銭を低く見る風土がある。 武士道がまさにそうです。

    江戸時代を見ても識字率は50%と言われています。 当時、最も近代的なロンドンでも識字率20%程度です。 識字率が高いと言う事は、読書文化が発達しているという事です。 このような「天才を生む土壌」を背景に、文化の花が咲き、元禄時代には数学や文学で大天才が輩出しました。 このすばらしい土壌こそが実は国の底力なのです。 明治維新後の日本の驚異的発展は、体制や政治が良かったというより、驚異的底力によるのです。

    現在、市場原理が猛威を振るっています。 各自が利己的に利潤を追求していれば、「神の見えざる手」に導かれ、社会は全体として調和し豊かになる、というものです。アダム・スミスが「国富論」で主張したこの理論は、あきれるほどの暴言です。

    ケインズはこの理論を批判しましたが、アメリカ経済が停滞し始めた1970年代から、再び古典派経済学が持ち出され、自由競争を再評価する新自由主義経済学がもてはやされ始めました。 自由、平等、民主主義は、教会に権威や絶対王政を倒す上で目覚しい力を発揮しました。 しかし、それらが打倒されたと同時に、その歴史的使命を終えるべきだったのです。 これらの理念は余りにも時代遅れなのです。

    国家の品位が高い国に対して、世界は敬意を払い、必ずや真似をしようとします。それは、文明国が等しく苦悩している荒廃に対する、ほとんど唯一の解決策だからです。

    品位ある国家の指標は四つあります。

    1. 独立不羈(フキ)

      自らの意思に従って行動の出来る独立国ということです。現代日本は、殆どアメリカの植民地状態にあり、全くこの条件を満たしていません。

    2. 高い道徳

      日本人古来の道徳心が、戦後少しづつ傷つけられ、最近では市場経済により蔓延った金銭至上主義に、徹底的に痛めつけられています。

    3. 美しい田園

      美しい田園が保たれていると言う事は、金銭至上主義に冒されていない、美しい情緒がその国に存在する証拠です。 イギリスを訪れた人は誰でも田園の美しさに打たれます。 それを見ただけで、イギリス人が金銭至上主義に染まっていない事が分かります。 かって彼らも染まっていましたが、一世紀前に卒業してしまったのです。 金銭が必ずしも幸せをもたらさない事を見てしまったのです。

      かってわが国の田園美は世界の感嘆の的でした。 その田園は市場原理により、ここ数十年ほどですっかり荒らされてしまいました。

    4. 天才の輩出

      天才を輩出するには、役に立たないものや精神性を尊ぶ土壌、美の存在、跪く心などが必要です。 日本は天才を生む土壌を着実に失いつつあります。 小学校から大学まで役に立つ事ばかりを追い求める風潮に汚染されています。


    日本は、金銭至上主義をなんとも思はない国々とは一線を画する必要があります。 国家の品位をひたすら守ることです。 経済的斜陽が一世紀ほど続こうと、孤高を保つべきです。 日本人一人一人が美しい情緒と形を身に付け、品格ある国家を保つことは、日本人として生まれた真の意味であり、人類への責務と思います。 ここ四世紀間ほど世界を支配した欧米の教義は、ようやく破綻を見せ始めました。 世界は途方に暮れています。の世界を本格的に救えるのは、日本人しかいないと著者は考えます。


    以上が、「国家の品格」で数学者、藤原雅彦氏が指摘し提案した事項の要約です。

    参考に、日本人である事を誇りに思っている人の割合は世界最低水準です。下記グラフ参照して下さい。


    図録▽自国民であることの誇り(日本人としての誇り)