子育てしない鳥(200916)

  

卵を海中などに大量に放出する動物では、孵化した子供は自分で餌を取って自力で成長するが、少量の卵を産み、親が子供を育てる動物もいる。

最近、卵を抱いたまま化石となったオスの恐竜が見付かったが、恐竜から進化した鳥類はオスメス1番で巣を作り卵を温め、雛の巣立ちまでせっせと餌を与える。

この鳥類の中に卵を他の鳥の巣に産み落とし、子育てをしない不届き者がいる。 カッコーの仲間にこの「托卵」の習性を持つものが多いが、その中でも最も巧妙な知能犯は「ジュウイチ」と言う渡り鳥の一種である。

托卵する普通のカッコーは卵の大きさから色や模様まで相手の玉に似せており、抱卵中の親が食事に行った隙を狙って数秒で1個の卵を産み、元からあった卵を一つ咥えて捨て数合わせをする。 これに対し、オールリの巣に托卵する「ジュウイチ」の卵は色が青くて2倍の大きさがあり、一目見ると直ぐ分かる。 しかし、悲しいかな色の識別が出来ない親鳥はそれを見抜けず自分の卵と一緒に温める。
孵ったばかりの雛は大きさや形も似ているが、「ジュウイチ」の雛は食欲旺盛で餌を独り占めにし、一週間もすると2倍の大きさになる。 そうすると、他の小さな雛を背中に乗せて巣の外に投げ捨て自分だけで巣を占拠するが、育ての親はその雛のためにせっせと餌を運び続ける。
この際、巣を占拠した雛は黄色い嘴をしているが、両翼の真ん中に嘴に似せた黄色い皮膚をむき出しにして上下に振り、餌をねだる時あたかも3匹の雛が嘴を開けているいる様に偽装する。 
この偽装効果を調べる為雛の黄色い翼の部分を黒く塗ってみた所一時間に運ぶ餌の回数が20回から15回に減少した。 その差は一日に換算すると60回分に相当する。 雛の数によって親鳥の運ぶ餌の量は変わる。  ジュウイチの雛は親鳥の雛の5倍の大きさを持つので、分身の術を使って育て親を騙していた。
その内、雛の方が親鳥より大きくなるが、馬鹿な親鳥は旺盛な食欲を満たす為必死になって餌を運ぶ。 本当の親鳥は他の巣にも托卵して優雅に暮らしている。

この様な不届き者の存在を自然は許している。 自然の掟には人間が考える道徳律はない。 有るのは、子孫を残せればどんな手段を採っても良いと言う掟だけである。 もっとはっきり言えば、自然には掟など無い。 どんな方法であれ、子孫を残し繁殖するものは、結果として生存競争に勝ち生き残る。 繁殖の方法は自由である。 大事な事は、生存を継続する事であり、その為に手段を選ばない。 強いて言えば、これが自然の掟である。 托卵は動物の社会では珍しい「労働搾取」の典型である。