賢明な災害復興への道(2011年6月20日)

先人の誤りを繰り返すな

今から1200年近く昔、平安時代の869年東北地方の沿岸を今回と同じような巨大な津波が襲った。「貞観地震」の痕跡は、東北地方の古い地層の堆積物などに今なお残っている。
しかし当時の人達は災害後、大津波の届かない高台に住居を移すことなく、津波で流された自分達の土地に新しい村や町を作った。この先人たちの誤った災害復旧により、彼らの遠い子孫たちはまた同じ災害を蒙むる結果となった。 今回の災害復興では、二度と先人たちの過ちを繰り返してはならない。被災した住民たちの中には、自分の土地に家を再建し、早く昔の生活に帰りたいと願っている人たちが沢山いる。そうはやる気持ちはわかるが、そうすれは1000年先の子孫に対して、また同じ過ちを繰り返すことになる。この際、土地に対する未練をきっぱりと断ち切り、いたずらに復旧を焦ることなく、津波の来ない高台に新しい町を建設し、後顧の憂いを完全に立ち切らねばならない。今回津波に襲われた低い土地には、大津波に襲われても壊されることのない強固な鉄筋の建物を建て、漁業関係者等の事務所として利用し、また大津波襲来時の避難場所として活用することを考えればよい。漁業関係者は高台の家から海岸の事務所に通勤して漁業をするように、生活スタイルを変えねばならない。大津波を阻止できる大堤防を海岸線に築き、旧市街に町を復旧する方法も考えられるが、これはリスクを伴った危険な方法である。

一方、西日本の太平洋側では、1707年、東海、東南海、南海地震が連動した宝永地震の津波が最大規模とされていたが、最近の調査では、2000年前の地層から、宝永地震時に比べて2.5倍もの厚さの堆積物が見つかっている。 

2011年6月20日の読売新聞によると、国の中央防災会議の専門調査会は19日の会合で、科学的に想定し得る過去最大の津波にも対処できる防災対策を取るよう、国と自治体に求める中間報告の骨子をまとめた。 これまでの津波対策は、各地域で繰り返し発生した事が確認されている津波の中で、最大規模のものを前提に策定。 津波の高さなどを判断する根拠は文献などほぼ確実な証拠に限定し、学説の定まったものだけを対象にしていた。
今回まとめた骨子では、古い時代の地層に残る津波の痕跡の調査や分析などを更に重視し、あらゆる学術的な情報を検討するよう求めた。 そうした想定から導かれる最大級の津波を前提に対策を立案する事を基本的な方向性として示した。先人の過ちを繰り返さない為にも、今度こそは「さざれ石の巌となるまで」通用する災害対策の基本方針を示し、長期間を掛けて実行に移してもらいたいものである。

原子力発電所被災地の復興

原子力発電所の事故で避難させられた人々は、原子力発電所を廃止し、汚染された放射能を洗浄することによって町の再建が出来る。 ただし、大津波で被災した地域には、町を作ることを禁止する必要がある。また原子力産業に大きく依存してきた人たちを雇用するため、新しい産業の誘致が必要となる。 例えば、太陽エネルギー等の自然エネルギー関連の企業を誘致することが考えられる。これからの日本のエネルギー施策は原子力発電から自然エネルギーの活用へ大きく舵を切る必要がある。そのため新しい企業を育成する必要があると考えられる。今回の原子力発電所事故の最大の原因となった安全対策の不備を見直し、原子力発電所の機能を復活する案を主張する人もいるが、人間による制御が難しい現在の原子力発電システムに依存することは、絶対に避けたほうがいい。賢明なドイツ政府は、今回の日本での原子力事故を契機に、原子力発電推進から自然エネルギーの活用へ大きく政策転換した。日本政府もぜひこれを見習って欲しいものである。 原子力は未だ人間が制御できない危険な自然エネルギーである。 最近の科学は「暗黒物質」「暗黒エネルギー」など自然から新たな難題を突き付けられている。 原子力エネルギーを始めこれらの未知の領域が解明されるまで、人間は自然界を完全に理解したなどと云う傲慢な態度で物事を推し進めてはならない。