企業の責任(2009330日)

  1. 経済学の教え

    企業は資本と労働力を調整し、利潤が最大になる様に行動すると経済学は説く。 不景気が来て製品やサービスが売れなくなると、経営者は皆、工場を一部閉鎖したり、社員の削減をし、再び利潤が生じる様に対策を打つ。 経営者は、企業の目的は利潤を拡大・保持して行く事であると信じ、その為には社員の解雇もやむを得ないと考えている。 

    産業革命以前、殆どの人々が農業に携わり、自作農や小作農として生計を立てていた時代には、自営労働者だったので失業など殆ど考えられなかった。 工業が発達し殆どの人達が雇用労働者として企業で働く様になって以来、不景気が来ると首切りにより失業者が生じ、失業による貧困が社会的問題となって来た。

  2. 企業の責任

    本来、企業は何の為に出来たか。 経営者と労働者が共同して生産に携わり、消費者にそれを売って金を稼ぎ、それぞれの家族を養って行く事が本来の目的であった。 生計の手段が農業から工業に変わっても、生計を立てる為に働くことには変りはなく、その為に企業組織が出来た。  しかし、近代資本主義の下では、利潤の追求が最大の目的と見なされ、その為には労働者の生計を犠牲にしても良いと言う経営第一主義が蔓延し、金儲けのうまい経営者が尊敬されるようになった。 グローバリゼーションが世界を席巻する時代に入ると、競争の激化と共にその傾向は一層強くなり、どの国も派遣社員制度を導入して、労働コストの削減と不況時の首切りの調整弁として活用する様になった。 企業本来の目的であった社員全体の生計を立てると言う企業の社会的な存在責任など何処かに置き忘れられてしまった。 確かに赤字経営までして社員を雇い続けた為、ある日会社が倒産してしまっては元も子もない。

    しかし、一時休暇やワーク・シェアリング、関連企業への転職斡旋などの方法をとり、本来の責任を出来るだけ果たす姿勢が、今こそ経営者に求められている。 企業が打てる対策には限りがあるので、政府も転職の為の職業訓練や新規企業の創出、企業への融資など景気対策を強力に勧めなければならない。 今回襲った未曾有の景気後退に対処するのは大変難しい。 しかし、経営者は、経営のスリム化ばかり考えないで、企業本来の社会的責任を再確認し、労働者を犠牲にしてこの難関を切り抜けると言った安易な方法にばかり頼らない配慮と知恵を発揮してもらいたいものである。

    資本主義は格差社会を生む宿命を内蔵している。 資本主義に徹したのでは我々一般市民の幸福な生活は実現出来ない。実力一点張りではなく、セーフティネットの張られた福祉国家を築いていくのがこれからの政治家や企業経営者に課された最大の課題である。