退化の速さ(02/9/20)

1.始めに

進化の速度は遅く、退化の速度は早い。 そこに、人類の将来に対する不安が潜んでいる。

暗い洞窟に住む昆虫の目は退化していて機能しないものが多い。 必要ないものが比較的早く退化するのは何故か。 光のある世界に住む昆虫の目が今日の構造や機能を発揮するまでには、億単位の時間を必要としている。 退化はそれを一瞬にして水疱に帰す。

物を作る事は難しく、壊すのは容易である。  退化は出来たものを壊す行為であり、遺伝子レベルでも案外簡単に退化が進行するのだろう。 光のある世界でも、目の退化は、一種の病気として、洞窟内と同じ確率で発生すると考えられる。 洞窟内では、目が見えなくても別に支障がないので、盲目の個体と正常な個体間に繁殖率に差は生じない。 だから、盲目の遺伝子が集団を支配してもおかしくない。外の世界では、目が見えないのは決定的な欠陥であり、盲目の個体は、生きることも、子孫を残すことも不可能であろう。 だから、目の退化は起り得ない。

目が退化する確率は幾ら位になるのか。 目に何らかの障害を起こす遺伝子変化の確率をpとする。 N世代経過すると、洞窟内ではこの障害に対する自然淘汰が働かないので、確率は加算され(N−1)pとなる。 
洞窟外では自然淘汰がなされ、qを自然淘汰の強さとすると、次世代に引き継がれる確率は1/q(q>>1)に減少する。 2世代目には p/q、3世代目には(p/q+p)/q≒p/qとなり、N世代後にもp/qの確率となる。

両者の比を取ると、(N−1)p/p/q=(N−1)qとなり、Nが大きくなるとNqで近似される。これは、洞窟内で目が退化する確率は世代に比例して増大し、しかも自然淘汰率の逆数q(1より十分大きい)だけ倍加される事を意味している。pの値(次世代が障害を起こす確率)は小さいが、世代毎に確実に累積されて行くので、退化の確率は短時間で高くなり、退化の速度も大きいと言える。

2.現代生活と退化の傾向

現代生活はどんどん便利になっている。 分業が進み、機械化・自動化が進む。それらの影響は人間の体力、感覚、知能に現れ、使わないものは退化して行く。 それらは劣化遺伝子の存続を許し、遺伝子レベルで次世代に引き継がれて行く事になる。

予測される退化の方向は、体力の脆弱化、視力や臭覚など五感感度の低下、思考能力・計算・筆記・読書能力の低下、自然治癒力の低下、工作能力の低下等である。

これらは、分業や機械化、テレビやコンピュータの普及、医療・薬品の進歩等により誘発される。 最近、いわゆる「醤油顔」の人が増え、暗算に弱い人、汚い字を書く人が増えた。 これらの傾向はその内遺伝子にまで影響を与え、将来の人類は柔らかい食べ物しか食せず、コンピュータ無しでは生きて行けない頭でっかちな動物になっていくだろう。コンピュータのソフトを作る人は基本知能が発達し、それを使うだけの人はその機能が低下し2極化が進行する。 両者間の交流を確保しないと、コンピュータ管理社会の悪夢(管理階級と被管理者階級の分離)が現実となる危険性がある。