雌性淘汰(03/9/15)

  1. 孔雀の羽

    雄の孔雀の尾羽は実に美しい。 鳥類の雄は雌に比べ一般に美形が多い。鳥類は長時間卵を温める為、雌雄が協力しないと孵化が成功しないので、雌が相手の雄を選ぶ時、慎重にならざるを得ない。  相手の雄が孵化に協力的かどうか、見極める必要がある。 雄の方も色々と求愛ジェスチャーを繰り返し、雌に気に入られ様と必死に努力する。

    大昔、孔雀の尾羽はもっと機能的だった。  敵から逃げる時、あんな長い尾羽は邪魔になり、自然淘汰上不利なはずである。  しかし、何故か、孔雀の雌は尾羽の綺麗な雄を好む。  こうして、雌の嗜好に合う様に突然変異が方向付けされる現象を「雌性淘汰」と言う。  孔雀の羽は長い時間を掛けてなされた「雌性淘汰」の結果、自然が作り上げた芸術品である。  雄の方が美しい鳥類には、大なり小なりこの「雌性淘汰」が作用している。  

  2. 人類の場合

    知能の発達した人類の場合はどうか。 女性が結婚相手や子供の父親を選ぶ時、ある程度共通した嗜好の傾向がある。 健康的な男性、生活力のある男性、優しい男性、男性的な男性などが一般に好まれる。  男性側にも女性に対する好みがある。  美しい女性、優しい女性、エロチックな女性、知性的な女性がもてる。

    しかし、「蓼喰う虫も好き好き」との諺通り、男女間の好みのバラつきは大きい。 これは育てられた両親から受けた影響が千差万別である事の結果と考えられる。

    「痘痕もえくぼ」で、ホルモンの影響で相手を美化して結婚し、失敗して離婚するケースも多々ある。 「成田離婚」はその際たるものである。

    いずれにしろ、人間の場合は鳥類ほど単純ではなく、「雌性淘汰」と「雄性淘汰」が複雑に絡み合って進行する。  最近は外人と結婚する人が増え、選択の幅は国際的になって来た。 人類のルーツはアフリカの一種族で、彼らが地球上に広く伝播し、それぞれの地方で独自の進化を遂げ、現在の多民族が構成された。 地理的な隔離、言語的な壁により、各民族の遺伝的特徴はある程度保持されたが、食料を求めて放浪し、他民族を征服している間に混血が進み、太古の遺伝子を今も純粋に保持している民族はいない。

    割合、純血を保って来た日本人も昔アジアに存在した色々な民族の混血により形成されている。  民族の形成には「有性淘汰」よりも「混血」による影響の方が大きい。国際交流が盛んになった現在、日本人の純血はますます「混血」の度を早め、人種的に大きく変貌する可能性を秘めている。  

  3. 民族紛争の将来

    将来、国際交流はますます盛んになり、混血によって民族の独自性が次第に失われ、人類が均一民族になる究極の形が予想される。  熱力学には「エントロピー増大の法則」があり、自然界の現象は全てこの法則に従う。 「覆水盆に返らず」で、自然界は可逆的にはなかなか進行しない。 人間も年を取り、若返る事は無い。また、水に垂らした一滴のインクは、均一濃度になるまで(エントロピー最大になるまで)拡散する。

    しかし、これは一般的なマクロに見た傾向であり、例外は多数存在する。 生物はすべて子孫を残して「若返り」を繰り返し、宇宙では超新星爆発などで死んだ星の残骸が集結して新しい星が絶えず誕生している。 生物の個体も外部からエネルギー(食糧)を取り入れ、細胞を常にリフレッシュしている。  人間の腸壁の細胞は3日で新品に置き換えられていると言う。  「若返る」事はエントロピーを減らす事であり、その為にはエネルギーを必要とする。

    混血が進行し、「エントロピー増大の法則」により何時の時代か人類が単一民族になると言う予測は当たるか。

    私は現状の混血率程度ではそうはならないと予測する。 例えば、「ハーフ」とその子孫が常に「日本人」と結婚すれば50%あった外人の遺伝子は一世代毎に半分に減り、10世代経つと個人あたりしか残らない。 混ざった血は次第に薄められる傾向がある。(これも、結婚相手に同じ民族を選ぶ傾向・・一種の有性淘汰・・がある為である。 正確に言うと、一人当たりの外人遺伝子含有率は0.1%になるが、10世代目の人数が1024人に増えておれば、子孫集団が持つ遺伝子総量は第一世代が持った量をそのまま維持している。 従って、その国の混血率が5%なら国内全体での外人遺伝子含有率は2.5%になる。 しかし、個人個人では10世代で0.1%まで薄められる。)  アメリカの様な多民族国家でもなかなか均一な人種にならないのは同一民族同士が結婚する傾向が強い為である。

    「言葉の壁」も混血率を抑制し、民族の純血を維持する方向に作用する。 「言葉の起源」(「私の意見」2.「進化論」参照)で書いた様に、言葉はコミュニケーションの道具である為短時間で標準化され、排他的な傾向が強い。 言葉の通じる相手と結婚する人が殆どなので、これが混血率を抑制する大きな障壁となる。

    その点、ヨーロッパ圏では語源を同じくする言葉が多くあり、「言葉の壁」は低い。しかし、「欧州連合」圏内で各民族の移動が自由になっても「ヨーロッパ人」と言える均一民族になる事は多分無いだろう。

    地球上の独立国の数より民族言語の数の方が今は多いが、言葉の国内標準化が進めば両者の数は次第に等しくなるだろう。 しかし、言葉の数だけの民族が遠い将来も地球上に存続し、民族の伝統を守って行く傾向は今後も連綿と続くだろう。

    人類の歴史は民族紛争の歴史であり、色々な民族が共存する限り紛争が治まる事は無い。 これは人類の宿命である。

    その原因は、各民族が「雌性淘汰」、「雄性淘汰」、「言葉の壁」(さらに「宗教の壁」「伝統文化の壁」)によって守られ、均一化しないからである。 また、地球が持つ有限な資源を公平に分配するには、人類はあまりに増殖し過ぎた事も、民族紛争の絶えない大きな要因の一つである。

    民族紛争を抑制する方法は、1)お互いに相手の存在を認め、武力を用いないで共存の道を探る。 2)分離独立したい民族の要望を認める。 3)大規模な混血による両民族の融合を促進する。 などであるが、「自己中」の人類にはいずれも難しい課題である。