これからの職業選択(2007821

  1. 情報化時代に生きる

    私ごとになるが、昭和26年大学進学に当たり、電気工学科を専攻したのは結果的に良い選択だったと思う。 当時は、私が住んでいた広島県にも電電公社のマイクロウエーブのテレビ中継線が伸び、全国にテレビが普及し始めた時代だった。 何となくこれからは通信の時代が来ると予感していたのだろう。 昭和31年、電電公社に就職した時も、迷う事なく「無線」部門を選んだ。 今では長距離通信網は全て光通信網になってしまったが、私達がNTTにいた時代にはマイクロウエーブ長距離通信網が全盛時代を迎え、海外の幹線通信網にも殆どマイクロウエーブ方式が採用された。 NTTの民営化を契機に誕生した第2電電も工期が短く経済性に優れたマイクロウエーブ方式を採用した。

    最近の無線技術は移動通信や衛星通信に限定されているが、無線技術の特質を生かした携帯電話は万人の必需品にまで成長した。 デジタル化時代に突入し、パソコンやインターネットが日常生活の隅々まで浸透し、情報化時代は今や爛熟期を迎えている。 私が専門分野に無線通信を選んだ事は、情報化時代の一翼を担うに相応しい職業の選択であったと自負している。

  2. これから成長する部門

    日進月歩の躍進を続けて来たコンピュータ技術も成長期を終え、これからはナノ・テクノロジーやバイオ・テクノロジーの時代に入っていく予感がする。 地球温暖化(省エネ化)や資源浪費の解消、再生医療や癌の治療などにはこれらの新技術によるブレークスルーが必要不可欠になるからである。

    私達の孫がいよいよ大学進学の時を迎え、何部門に進むべきか、周りの関係者も頭を悩ませている。 

    私は21世紀に大きな進展が期待される部門に彼らが進むべきだと思う。 その方が仕事として遣り甲斐があり、社会の第一線で誇りを持って働く事が出来る。 上手く行けばノーベル賞が取れるかもしれない。

    21世紀の人類は大きな問題を突き付けられている。 それは地球温暖化の防止と資源の有効利用である。 これらの技術開発に大きく貢献すると思われるのが、ナノテクやバイオの技術である。 したがって、理科系に進学する若者は是非これらの分野で活躍して貰いたいと考える。

  3. ナノ・テクノロジーの将来展望

    今話題になっている「カーボン・ナノ・チューブ」は新しい半導体の本命になろうとしている。 非常に微細な材料である(直径数ナノ・メートル、ナノ=10マイナス9乗(m))から、これを使った素子でパソコンを作れば桁違いに小さく、省電力化出来る。

    以下、詳しくは、本ホームページに掲載の「ナノテクの将来性」を参照されたい。

  4. バイオ・テクノロジーの将来

    既に人間のゲノムの完全解読は完了し、これからはそれらのデータを分析して遺伝子の発現メカニズムを解明して行かねばならない。 遺伝子相互の連携、遺伝子が持つ複雑な制御アルゴリズムを解明すると共に、遺伝子と疾病との関係を明らかにし、遺伝子治療法を確立する必要がある。 病気を発病させる遺伝子を特定し、その遺伝子によって作られる蛋白質の構造・機能を解析し、その機能を制御する物質の分子設計をすれば、発症する病気に対する医薬品を作成できる。 この様なアプローチをゲノム創薬と言う。

    これまでの医薬品開発は、その病気に有効であると思われる薬効成分を持つ物質を多く集め、臨床実験を重ねて、その中から最も効用のある物質を選択すると言う方法で行われてきた。 この方法は膨大な資金と時間を必要とする。 これに対し、ゲノム創薬では、病気に関係する遺伝子と蛋白質を直接観察できるので効率の良い医薬品、個人個人に合ったテーラーメイドの医薬品の開発が出来る利点がある。

    糖尿病の診断を例に取ると、ガラス基板上に糖尿病の数千から数万の

    DNAの断片をぎっしりと並べる。このDNAは相補的DNAであり、これに患者のDNAを流し込み、相補的DNAと結びつけば糖尿病に罹っていると判定できる。これがバイオチップである。

    癌の治療には「ドラッグ・デリバリ−・システム」が開発されている。 抗がん剤の副作用が強いのは、がん細胞だけでなく正常細胞も破壊するからである。 そこで、がん細胞の患部にだけ薬品を投与する方法が研究された。 これが「ドラッグ・デリバリー・システム」である。 実用化は一部で始まっているが、抗癌剤をリボソームと言う2つの脂質で形成されたカプセルに閉じ込め、癌細胞に直接送り届ける。これはリボソームが発熱部分に集合し易い性質を利用したものである。

    人の体は、血液中を流れる物質が3nmより小さいと栄養と見なして吸収し、400nmより大きいと異物と見なして排泄する。 その中間の大きさの物質は吸収も分解も排泄されず循環し続ける。 癌細胞は周りに巨大な血管を多数はびこらせており、その血管には正常な血管と比べ大きな穴が開いている。 このためマイクロカプセルがここを通過する時に血管から放出され癌細胞に直接効くわけである。 カプセルの大きさは20100nmである。

    その他、ナノテクの技術は人工器官で人間の欠損した部分を補うサイボーグ技術としても多方面で活用されている。

  5. むすび

    ここでは主としてナノテクとバイオ・テクノロジーを取り上げたが、いずれも分子レベルでの加工、制御によって、数兆個の細胞から構成された人体に細胞レベルでアプローチしようとするものであり、微小を制するに微小をもってすると言う新しいパラダイムに基づいている。 これらの技術が

    21世紀の花形産業に成長し、理科系を志望する若者の挑戦し甲斐のある分野となる事は確実である、と私は信じる。