超新星爆発直前! 赤い巨星ベテルギウス


NHKBSプレミアムで2011年6月28日に「Cosmic Front」シリーズとして放送されたものです。 10万年に1回しかないと言われる超新星爆発がもしかしたら来年見られるかも知れないと言うショッキングな話題です。

オリオン座の一角をなす赤い巨星ベテルギウスがあと数年の内に超新星爆発を起こすのではないかと、世界中の天文学者たちが熱い視線を送っている。

3つ星で有名なオリオン座の左上のコーナーに、肉眼でも赤味がかった明るい星ベテルギウスが見える。
19世紀に入ってこの星を観測した天文学者は、この星が毎月明るさを変える奇妙な星である事を見付け、観測を続けた。
今世紀に入って、アメリカのウイルソン山天文台で、干渉計を用いた精密な観測がおこなわれた。
ある間隔に置かれた2つのミラーで同じ星の光を受け、これらを重畳すると左図の様な干渉縞を生じる。
間隔を調整し拡げて行くと、干渉縞が消える所があり、すでに分かっている星までの距離と測定した間隔から仰角が求められ、それを使って星の直径が計算できる。
この測定結果、ベテルギウスの直径は14億kmで、太陽の200倍、太陽系の木星軌道位の円周を持つ事が判明した。 しかも、直径は1億km位のスケールで変動を繰り返していた。
これは太陽の8倍以上ある大きな恒星がその寿命を迎える時になる超赤色巨星に属し、もうすぐ超新星爆発を起こして星の一生を終えると予測される。
ドイツ、マックスプランク研究所の大仲圭一さんはドイツに渡って11年、ずっと死の迫った星の研究をしてきた。 2009年彼は、誰も想像すらしなかったベテルギウスの姿を発見した。
大仲さんが研究をしたのは南米チリにあるパラナル天文台である。標高2600m、1年の内350日は晴れると言う天文観測の理想郷である。
これはVLT干渉計で丸いドームにある口径1.8mの望遠鏡を同時に3台組み合わせて観測する。
望遠鏡は最大130m離して設置できる。 離して設置することでこれまでに無い高い解像度が得られる。 3台で捉えたベテルギウスの像を重ね合わせると、干渉縞が現れる。 この干渉縞から星の大きさとか形の情報が読み取れる。
分析結果、普通に球形の星では、グラフは左右対称になるが、ベテルギウスではグラフの左の部分が大きく盛り上がっていた。 大仲さんは半年を費やしてその原因を追究し、大きな瘤のある形をしている事を突き止めた。
これが、観測結果から導かれた星の姿である。 差し渡し7億km、太陽4000万個分もの巨大な瘤が飛び出した異常な星であった。
何故この星には巨大な瘤が出来たのだろうか。 ブリュッセル自由大学のアンドリア・キアバタさんは、スーパーコンピュータを使った計算で瘤の謎を解き明かそうとした。 星の中心から外へ向けて熱がどう伝わり、どう動くのかを時間を追って計算した。
表面には直径8億kmもある巨大な模様が現れ、所々で中からガスが沸上がったり、沈み込んだりしている。 
計算によると星の中で発生した熱により、直径が太陽数百個分と言う巨大な対流が作られている。太陽の対流はベテルギウスの80万分の1しかなかった。こうした違いが現れる理由は、内部の構造が異なる為です。 太陽で対流が起きているのは表層近くだけですが、この星の対流は星の中心近くにまで及んでいる。対流の速度も秒速30kmの猛スピードで上昇している事が分かった。 表面が中心から遠く離れている為重力がとても弱くなり、そこに猛スピードで上昇する対流に乗ったガスが湧きあがり、瘤を作っている。
2006年に打ち上げられた日本の赤外線衛星「あかり」で、周辺のガスの分布を観測した結果、目では見えないガスや塵がベテルギウスを中心に丸く取り囲んでいる事が分かった。 その大きさは3光年、ベテルギウスの直径の2万倍にも及ぶ。
恒星の初期段階では水素原子核融合で星は光り始める。 次はヘリウム原子の核融合へと進み、その高エネルギーでさらに酸素、炭素などの核融合がおこなわれる。 こうして中心部の温度が上がり、星は膨張を始める。 そうしてベテルギウスの様な赤い星へと変貌を遂げる。最後に鉄が出来ると核融合は止まります。 すると自らの重力を支え切れなくなり、急速に潰れて行く。星の中心は超高圧の状態になり、大爆発を引き起こす。
星の中心から出た衝撃波が星の表面に達し、眼を見張るほど明るく輝く。これが超新星爆発です。 さらにこの爆発の瞬間、凄まじいエネルギーで鉄より重い様々な元素が合成され、周りに撒き散らされます。 星が生み出した元素は宇宙空間を漂い、長い時間をかけて再び集まって行く。 この様なプロセスで、地球のような惑星が生まれ、生命も誕生した。巨大な星の死の爆発があったからこそ、今私達は存在しているのです。
これはカシオペアAと言う天体です。巨大な星が超新星爆発を起こした跡です。赤は鉄、緑は水素など、星によって生み出された様々な元素を見る事が出来る。
こちらも超新星爆発を起こした後の残骸、かに星雲です。ガスや塵が毎秒1,300kmの猛スピードで拡がっています。
有史以来、肉眼で目撃された超新星爆発は7回ほどしか確認されていません。 もっとも遠いのは1987年、大マゼラン雲で見つかった超新星1987A、距離は16万光年です。 最も近いかに星雲でも、6500光年離れています。 ベテリギウスまでの距離は640光年とわずかです。
この爆発はこれまでにない近さの大爆発となる。至近距離で起こる超新星爆発、地球に影響する事はないのでしょうか。 
その影響を探る手がかりが南米アルゼンチンに有ります。 北部の町サンファンから車で2時間、渓谷の先にその現場があります。右側は4億4000年前の地層、左側は4億5000年前の地層です。この間には歴史的に重要なイベントが刻まれています。当時陸上には殆ど生物はおらず、海には三葉虫が繁栄していました。深い海底に生息する種類と、海面近くに生息する種類が居ました。 この地層を境に、海面近くの三葉虫が絶滅しています。
その原因は超新星爆発に有ると考えられています。
アメリカ・ウッシュバン大学の宇宙物理学者ブライアン・トーマスさんは、超新星爆発による放射線が生物に与える致命的な影響を理論的に推定しました。 超新星爆発時、ガンマ線と言う強烈な放射線が放たれます。 「これは当時のオゾン層の変化を計算したものです。 強烈なガンマ線によって最大で35%のオゾン層が減少しました。 元通りに回復するまで10年近く掛ったはずです。地球はもともとオゾン層によって太陽の紫外線から守られています。
ガンマ線が地球を直撃すると、オゾン層が破壊され、有害な紫外線が地表や海面近くに降り注ぎます。その結果、海面近くにいた三葉虫だけが絶滅し、紫外線が届かない深い海にいる三葉虫は生き延びた。」
間もなく起きると言うベテリギウスの大爆発、私達は大丈夫なのでしょうか。
ガンマ線の放射は自転軸から2度以内であることが分かっています。
ハッブル望遠鏡で観測した結果ベテルギウスの自転軸は地球に対し20度の角度差がある事が分かりました。 我々は幸運にも生き延びられそうです。
ベテルギウスが爆発した時、地球からはどの様に見えるのでしょうか。 東京大学の野本健一さんのグループはその爆発を理論に基ずいて計算し、色や温度、その形がどの様に変化していくのかシミュレーションしました。
色は赤から青に変わります。温度が急上昇している為です。1時間後ベテルギウスはどの星よりも明るく輝き、爆発から3時間後明るさはさらに増し、満月の300倍の眩しさで輝きます。
例え昼間であっても、青空の中に明るく煌めきます。この明るさはおよそ3カ月続くと考えられます。
ベテルギウスの周りでは、周囲に放出されたガスが超新星爆発の強烈な光を受けて輝きます。
4か月経つと星の色が変わり始めます。 温度が下がり、色が青からオレンジになります。
幾重にも取り巻くガスが大輪の花の様です。
やがて温度はさらに下がり、色は赤くそして暗くなっていきます。
4年後、ベテリギウスは肉眼では見えなくなります。
爆発から数100年後には、散りじりになったベテリギウスの残骸とはるか彼方で光を反射するガスの拡がりを見れるでしょう。
2011年1月ある記事がインターネットで話題となりました。 2012年ベテリギウスの大爆発が起きると言うのです。
ベテリギウスの爆発を事前にキャッチできる装置が日本に有ります。
スーパーカミオカンデです。宇宙から飛んでくるニュートリノを検出する為の数千の光センサーに取り囲まれた地下の水タンクです。
爆発が起きる直前に大量のニュウトリノが放出される事が分かっています。
早ければその数時間後に超新星爆発が起きると予想されています。
スーパーカミオカンデでは超新星爆発を逃さず見つけ出す為に訓練が行われています。
ニュウトリノが大量に検出された時、世界各国の研究者とのTV会議が開かれ、データ分析が行われます。 そして、超新星爆発だと分かれば、すぐさま世界中の天文台に連絡が取られます。
その為、爆発の観測に間に合う様に早く情報を流さないといけないと、東京大学宇宙研究所の鈴木洋一郎教授は言っています。
「十万年年に一度と言われる宇宙ショーを観てから死にたいと私は思う。」
果たしてこの爆発は何時起きるのだろう。 数年以内である事は間違いない。

               (終わり)