就職難時代(2006/12/6


  1. 生産性の向上

    競争の激しい現代社会において売り上げを伸ばし、企業を存続・拡張させて行くには、生産性を向上して製品やサービスのコストダウンを図り、売り上げのシェアを拡大するか、他社に無い差別化された商品を提供する他に道はない。

    生産性を向上させるには、部品のLSI化やコンピュータ制御による自動生産ラインの導入などにより工数や人手を減らし、コストに占める材料費や人件費を削減するのがもっとも効率的な方法である。 代わりに、制御ソフト作成の為の人件費や自動機械導入のコストは増えるが、自動化による人件費の削減がより大きければ、全体のコストは削減できる。

    いずれにしても、先進国において社会が必要とする生産量を保つ為の労働者の総数は、生産性向上とともに大きく減少しつつある。 どの企業も余剰人員のリストラに懸命である。  

    国内の失業率をゼロにすれば生産される商品やサービスが生産過剰になり、需要に見合う適正規模の生産をすれば失業者が増える。ハード部門からソフト部門への人の配置転換、製造部門からサービス部門・研究部門への人の移動がスムースに行かないと言う一時的な問題もあるが、最終的には、生産性を向上すると構造的に人が余るのである。

    一般に、発展途上国では一次産業主体で工業が未発達な為に失業者が街に溢れている。 先進国では、逆に、工業が発展し過ぎたために人間の労働が機械に置き換えられ、失業者が発生する。

  2. 供給過剰

    生産性向上により、物の値段は下がり、個人の所得は増大する。 消費意欲が旺盛になり、欲しいものをどんどん買い込む。 その中には家電製品などの耐久性商品が多く含まれている。 品質が良くなり使用寿命も伸びる。 しかし、ある普及率を越えると需要曲線は下降し始め、それらの商品は売れなくなる。 新型に買い換える事もあるが、押しなべて需要は減り、フル操業すると生産過剰に陥る。昔の様に、設備投資をして生産規模を拡大し、雇用を創出する手法は、高度工業化社会では次第に通用しなくなっている。

    もの余り社会は労働市場ではマイナスに作用し、人余りの原因になる。 爆発的に売れた携帯電話やデジカメも既に需要のピークを越え、薄形テレビもあと数年が勝負である。

    メーカは新規需要の掘り起こしに知恵を絞っているが、消費者の購買心をそそる様なヒット商品はなかなか出てこなくなる。

  3. 安い労働力の活用

    人件費削減の為、中国など人件費の安い国に生産ラインを移す事も盛んに行われている。 逆に、これらの国から「研修生」を受け入れ、日本国内で低賃金で労働させる施策も普及している。 これらも、生産性向上と同様、大きな人件費削減効果をもたらすと同時に、国内労働者の職場を奪いその賃金を抑制する。

    最近、ニートやパート、それに派遣労働者の救済問題が新聞を賑わしている。

    彼らの収入は月額10万円そこそこである。 正社員に採用されれば月収も2倍位になるが、企業側は、人件費の増大を避ける為、一定期間経過後正社員への雇用を義務付ける現行の法律を守らず、短期契約の繰返しでその義務を果たしていない。

    働けど楽にならない「ワーキング・プアー」階層の出現が大きな社会問題になっている。 
    しかし、彼等の働き先は生産性の低いサービス産業がその大半を占める。 接客サービスや今流行の介護サービスなど、特別な技術や知識を必要とせず、安い海外労働者でも簡単に代替できる。 サービス業の生産性を向上する事は非常に難しい問題である。サービス業の生産性が上がらず、安い海外労働力が流入する限り、この問題は解決困難である。

    4.考えられる対策

    この様な構造的な失業問題、低賃金問題を解決するにはどうすれば良いか。

    いろいろな対策が検討されているが、姑息な手段ではこれらの問題は解決できない。

    ベンチャー企業を立ち上げ、新しい雇用の創出に努力する方策もあるが、言うは易くして実行は難しい。 

    そこで考えられるのが、一昔前の海外移民政策の復活である。

    中国やタイなど日本からの工場誘致が盛んな国では、逆に人材不足で悩んでいる。 これらの国では生活費が安いので給料も安くて済む。 日本などの先進国では生産性の向上で給料が上がり、それにつれて生活費も上がっている。

    したがって、失業問題を根本的に解決するには、人材不足に悩んでいる海外の日系企業に就職するのが最も手っ取り早い。 収入は落ちるかも知れないが、生活費が安いので、低賃金でも日本にいるより快適な生活がエンジョイできる。 

    もう一つの解決法は、日本の人口を適正規模に制限し、全員国内で就職できる様にする事である。 現在、少子高齢化が大きな社会問題となっているが、これをそのまま放置すれば人口は減少し、高度な生産性に見合った適正規模の人口に落ち着くのではなかろうか。 

    GDPより一人当たりの所得を増やす事に主眼を置いた政策を取るべきである。 

    ただし、賃金の安い外国人労働者と同等の能力では彼等と同じレベルの低賃金しか稼げない。 高い賃金を稼ごうとすれば、それに見合うだけの質の高い能力を身に着けておく必要がある。高度な知識と見識を持った知識労働者でなければ、低賃金の国から来た労働者と同等に扱われる。 高度な教育を受け、高度な技術を持ったものだけが所得格差を解消する事が出来る。

    先進国の労働者は、その生産性に見合った能力を持たねば、低所得に甘んじるしかない。 国際的な自由競争に晒された労働環境では、能力に見合った所得しか貰えない。 国内護送船団方式の年功序列賃金体系の時代はとっくに終わったのである。