知らしむべからず(2009年5月6日)

拠らしむべし、知らしむべからず、とは封建社会の政治の鉄則であった。
現代は情報化時代で、情報公開を迫る世論の風当たりが強く、官庁も企業も苦労している。 しかし、一方では情報は高く売れるので、個人情報の漏洩とか、書き物やソフトの著作権保護などが大きな社会問題となっている。 只で「知らしむべからず」の世界である。
最近経験した事例を紹介しよう。

私のパソコンにはWINDOWS-XPWINDOWS-VISTAの両OSがインストールしてあり、好きな方を選択して起動できる。 しかし、VISTAで起動すると、キーボードからの文字入力がキーの表示通りに入らず文字化けし、不便を感じていた。 近くのPCデポと言うパソコン店に電話して直し方を聞いたが、再インストールするしかないとの返事だった。 しかし、再インストールするとメール、メールアドレス、インターネットお好みサイト、各種個人設定の情報が継承されず、これらのデータ転送と言う面倒な処置を取らねばならない。そこで、データ転送しなくてもよい再インストールのやり方があるはずだから教えてくれと頼むと、それは有料でないと教えられないとの返事。 要するに、パソコンを店まで運び、再インストールすると5000円徴収するとの返事があった。

5000円も払うのなら自分でやって見ようと思い、再インストールをしたら、キーボードの誤字入力は直ったが、指示通りにやっても必要な情報の転送は完全には出来なかった。私の歪んだ見方かも知れないが、データ転送の仕方を完全には「知らしむべからず」とし、ユーザーを専門店の修理に導いて、有料サポートで利益を上げる様に、OSのソフトが仕組まれているのだと私は思う。
上の話はVISTA再インストール時のメールアドレスなどのデータ転送の話で、同じパソコン内での転送であり、そう難しいはずはない。

次に経験したのは、長女から頼まれて、新しく買ったWINDOWS-VISTA付きパソコン(DELL製)に旧パソコン(WINDOWS-XP付き)の色々な個人データを転送してくれと頼まれた時の話である。 新しいパソコンを立ち上げると、旧パソコンからデータ転送して下さいと言うコメントが画面に出る。 転送用のケーブルは準備しましたかと聞いて来る。これが、最初の罠である。
CDDVDディスクを使って必要なデータを一旦ディスクに記録し、それを新しいパソコンにインポートするものだと思っていたら、転送ケーブルさえあれば簡単に転送できると示唆してくれる。 しかし、転送ケーブルとはどんなものかは教えない。 仕方なく、DELLの技術サポートに電話し聞いてみると、LAN端子付きの「クロスケーブル」を買えば良いとの返事。 それを使ってどの様に転送するのか聞くと、それは有料サポートに加入しないと教えられないと言う。 パソコンだけ安く売りつけておいて、その初期設定は素人には出来ない様にし、「知らしむべからず」の状態にして有料技術サポートで稼ぐと言う魂胆が丸見えである。

けちな根性から有料サポートになど入れないと思い、仕方なくDVDディスクを仲介する転送を試みたが、肝心な方法は「ヘルプ」を検索しても情報提供されない。 要するに、如何にも親切に設定法を教えている振りをして、肝心な情報は隠していて教えない。この狡猾な「知らしむべからず」のカラクリが今回の体験で良く分かった。

四苦八苦してDVDによるデータ転送を実施した後、本屋に行って、「VISTA困った時に役立つ660の極意」と言う本を買って来て読んでみたら、転送用「クロスケーブル」を買っただけでは転送は出来ないと書いてあった。 正解は、データ転送ソフト付きの転送ケーブルを買うと言う事で、そのソフトを古いパソコン側にインストールしないと転送は出来ない様になっているのだ。 この情報を得るのに、本代2000円が掛かった。 ケーブルを買った量販店に電話で聞いてみると、CDソフト付きのケーブルも3000円で売っていると言う。 しかし、300円のケーブル単体も売っており、店員はこのケーブルだけでは転送が出来ない事は知らなかったと謝っていた。

以上がパソコン業界における「知らしむべからず」式の有料サポートへの勧誘作戦の全貌の一部である。 パソコンメーカは大抵何処も、パソコンを買った時必要となる旧パソコンからのデータ転送などは有料サポートでやっているのだと思う。 私がパソコンを自作しWINDOWS-98からXPOSを変えた時は、XPの「330の裏技集」と言う本を買って来て何とかデータ転送を成功させたが、同じ事がVISTAでも発生するとは予想していなかった。 世の中は情報化時代で、些細な情報も有料だと観念しなければいけないと言う事を、今回の経験で身を持って思い知らされた。
我々消費者は、業界が「知らしむべからず」の方針を貫き、すべてをその方針の下に構築している事を承知して、事に当たらなければならないのである。

自力でやりたい人用に、関係する情報を本などで事前に取得できる様、色々な解説本が売られている。 しかし、本当に必要な情報を本で探すのも実際には大変困難であり、必ずしも有料サポートより割安な方法であるとは言えない。 情報提供側は、あの手この手を使って消費者から金をむしり取っているのが、今の世の中の実態である。