上の画像は両名の研究者が「ヤリ」状の道具を使って狩猟を行うチンパンジーの姿を撮影したビデオクリップの一部。チンパンジーの右手に「ヤリ」状のものが握られている。この後、このチンパンジーはこの「ヤリ」状のものと使って木の空洞部分を突き刺すなどの行動を行った。
(以上、関連ホームページより引用)動物の知恵(2007/3/30)
道具を使う動物たち
動物は色々な知恵を持っている。
遺伝子に組み込まれた本能的な知恵や機械的な条件反射ではなく、親や生活を共にする同類などから後天的に学習した知恵を持っている。
高等動物のチンパンジーは石を使って硬い木の実を割ったり、細い小枝を使って穴の中にひそむ虫を誘き出して食べたりする。 小枝を使ってこれと同じ事をする小鳥もいる。
カラスも頭脳が発達しており、固い殻を被った貝を舗装した道路の上に落として割ったり、車に轢かせて割って食べたりする。 車に轢かれ易い様に置き場所を調整する知恵も持っている。
発達した類人猿の知恵
京都大学霊長類研究所には天才チンパンジー「アイ」の親子がいる。 数字の大小関係を理解し、また絵文字の意味を理解する。 自動販売機にコインを入れて好きな食べ物を買う事も出来る。 「アイ」の子供は6歳になるが、親の真似をして学習し2代目の天才チンパンジーに成長している。
詳しくはhttp://www.pri.kyoto-u.ac.jp/ai/ を参照されたい。
最近、アフリカのサバンナに生息するチンパンジーが木の枝を折って作った「ヤリ」を使って狩猟を行っているという興味深い事実を記した論文が生物学専門誌「カレント・バイオリジー(Current Biology, February 22, 2007)に掲載された。
武器を使って狩猟を行うチンパンジーに関する論文を掲載したのは米アイオワ州立大学のジル・プルーツ氏と英ケンブリッジ大学のパコ・ベルトラーニ氏の2名。
両名の研究者は2005年3月から2006年7月にかけてセネガルのフォンゴーリでチンパンジーの集団の生態を観察。その結果、観察を行ったチンパンジーが木の枝を折った上で、先端を尖らせた「ヤリ」状の道具を使って木の空洞部分を突き刺すなど、道具を使って他の動物を狩猟する姿が観察された。
これまでの研究結果では道具を使って狩猟を行うチンパンジーが観察されたことはなかった。
その他いろいろな実例
熱帯のジャングルには、木の葉を小さく切って巣に運び、それらを発酵させてキノコを栽培して食料にする「葉切り蟻」がいる。 植物に付くアブラムシを外敵から守ってやる代償にアブラムシが分泌する甘い汁を頂いている蟻は世界中に広く分布している。 異なる生物が共生して相互に助け合って生きているケースは他にも沢山ある。 例えば、大きな魚は体に付く寄生虫を小さな魚や海老などに食べてもらう為にわざわざ彼らがいる浅瀬にやって来る。 親切な子魚を決して食べたりはしない。
他にも、その動物特有の知恵を後天的に学習し、次世代に継承しながら賢明に生きているケースで、未発見のものは沢山あると考えられる。
特に集団で生活するものには、集団特有のルールがあり、集団内で自然に学習され、継承されて、集団としての秩序を保っているものが多く観察される。 働き蟻が集めてきた蜜を自分の腹一杯に溜め込んで貯蔵タンクの働きをする蟻がいる。
蟻や蜜蜂はまた、自分の見つけたご馳走の在り処を身振りで他のものに教える知恵も持っている。 ハイエナや狼からライオンの集団狩猟戦術も彼等の知恵の継承から生まれたものである。
何処だったか忘れたが、怪我した猿の後を人間が賢明に追跡して行き、猿が知っている薬草の在り処を教えて貰う話を聞いた事がある。 この地方では、猿の方が人間より薬草の知識が上であるらしい。 また、象や近くに住む動物が、山の崖下にある粘土や泥をわざわざなめに行く行動はあちこちで観察されている。 これはミネラルを補給する為であり、彼らはミネラルが健康維持に必要である事を知っていると考えられる。 象は長老のメス像をリーダーとする女系集団で生活しているが、仲間内の誰かが死ぬと白骨化した頭蓋骨を鼻で触れて悼みの仕草をすると言う。
人間の様に文字や言葉を持たない動物も、親や集団が培った知恵や伝統の伝承によって賢明に生きる術を身に付けていると言う事実は、猿から人間に進化し、文字を使って祖先の知恵を累積し急速に文明を発達させている人類の黎明期を見る様で、非常に興味をそそられる。