第4話

怖〜い話

今回は先日私の身近で起こった怖い話をしましょう。怖い話と言っても季節柄よくある「あっち」の話ではありませんよ。
ある木管の学生が私のところへ来て「肺が痛いんですけど?」と訴えてきました。詳しく聞いてみると楽器を吹くと鎖骨の少し下の辺りが痛いということです。前にも同じようなことは無かったのと聞くと1年生の時は(今は2年生)今より沢山さらっていて8時間ぐらい吹いた後はよく痛くなっていたそうです。しかしその頃は一晩寝ると治るので、あまり気にはしていなかったそうですが、最近は寝ても治らなくなってきたそうです。
私はすぐにスタジオミュージシャンのあるクラリネット奏者を思い出しました。その方は大変有名な日本映画のテーマ曲を吹いていらっしゃる方ですが、長年強制深呼吸で楽器を吹き続けたせいで、自然気胸になってしまったのです。そこでその学生に音をひとつ吹いてもらいました。そうしたら案の状です。第1話に書いた強制深呼吸をやっていたのです。では何故強制深呼吸が気胸につながるのでしょうか。第1話でも書いた通り下腹部が膨らむと胸郭はしぼんで開かなくなり、横隔膜も段々たるんでいくので、どうしてもいきまざるを得ません。この状態で長時間楽器を吹けば肺に負担がかかってやがて肺胞が破れ穴が開いてしまいます。この状態では楽器を吹いているというより長時間いきんでいるわけですから、お産でもないかぎりそんなことをすれば体をこわしてしまいます。その学生にはとりあえず医者に行ってレントゲンを撮ってもらって穴が開いていないかを確認してもらいました。幸いにも穴は開いておらず気胸にはなっていませんでしたが、1歩手前でした。気管支炎を起こしているという診断だったそうです。しかしそのお医者さんは気管支炎の原因を「この季節カビなどが発生しやすいし、空気の悪いところで楽器を吹いたからでしょう」と診断したそうです。私は医者ではありませんので、詳しいことは分かりませんが、そんなことがあるのでしょうか。もしそうだとすればこの季節全国の学校の吹奏楽部などではこの病気が大流行していることでしょう。部活って空気の悪そうなところで練習してますもんね。お医者さんは自分の知っている範囲で答えを出そうとするので、時に奇妙な診断をすることがありますよね。いずれにしてもその学生の肺は穴が開いていなかったので、とりあえずホッとしました。その後いきむ強制深呼吸をやめてベルカントモードの呼吸で吹いてもらったら、痛みもなくなり前よりもずっと良い音で吹けるようになりました。
また別の学生の話によると、中学生の時サックスやオ−ボエをやっていてが肺に穴があいてしまった友達もいたそうです。その時は手術して治ったそうですが、高校生になってまたあいてしまったそうです。手術をしても同じ吹き方をしていればまたあいてしまいます。アマチュアのトランペット吹きでも楽器が原因で、気胸になった方が結構いて、ネット上で情報交換していました。第1話では強制深呼吸の弊害として腰痛、ぎっくり腰や痔になることを書きましたが、もっと怖いのが気胸です。
しかし何故これほどまでに強制深呼吸がはびこっているのでしょうか。強制深呼吸をやっている学生に聞くとよく帰ってくる答えは中学生や楽器をはじめた頃から、先生や先輩に胸に息を入れないで、お腹に入れなさいとか、ひどいのになると空気は肺に入れるなお腹に入れろとまで言われてきたそうです。お腹に入れるような感じ位ならまだ話はわかりますが、肺に空気を入れるなというのはもうなんかの新興宗教みたいですね。お腹に空気が入ってもおならかゲップが出るだけで楽器は吹けません。また腹式呼吸だから腹筋を鍛える=だから腹筋運動を一生懸命やっている中学高校の吹奏楽部も少なくないでしょう。楽器を吹くのに効果がないばかりかスポーツの世界でもやり方を間違えるとかえって腰を痛めたりすることが常識の世の中で全くナンセンスなことまで一生懸命やっている生徒さんを見るといたたまれません。今では小学校でも吹奏楽や金管バンド等で管楽器を吹くことは珍しくありません。成長途中の子供たちに中途半端な理解や誤った知識で指導することは子供が上達しないばかりか健康な体まで壊しかねない重大な責任を負っているということを自覚して欲しいのです。これも全て腹式呼吸という言葉を勝手に解釈したことが悲劇の始まりではないかと思います。

気胸とは・・・肺胞の1つが破れ、肺の中の空気が胸膜と肺の間に漏れ出し、肺がその空気によって押されてしぼんでしまう病気です。