耳も育てよう
発声学の世界的権威のフースラー教授は高名な著書「Singen」(日本語訳「うたうこと」)のはじめに、「まず聞く、それから知る」と書いています。どういう意味かと言いますと、「まず聞き分けることを覚え、それから正確な知識へ進むこと、決して逆をやってはならない」と自ら書いています。また「異なった音質をはっきりと聞き分けられるまでに、耳の感受性を高めなければならない」と続けています。楽器を上手くなろうとするときは当然身体的なトレーニングや試行錯誤をするわけですが、その過程でやっていることが良いか悪いかを判断するのは体の感覚、そして耳です。
音大で私の生徒ではない学生さんがレッスンをして欲しいと来ることがあります。レッスンをしているとどんどん音が変わって来て、皆さん「吹きやすくなった」とか「響きが出てきた」などと言うようになります。その場はそれで良いのですが次の週に来るとまた戻っていて、その繰り返しが続きます。
毎回のレッスンでは確かに筋肉バランスが変わるので音にも当然結果が表れますが、肝心の「耳」が変わっていないので時間とともにまた元へ戻ってしまうというということがあるように思います。
彼らはそれまで音が出れば○、出なかったら×というような非常に単純な耳の使い方しかしていませんでした。はじめはすぐに機能的なことが良くなって喜んでいるのですが、定着させるためには耳と共にさらわなければならないわけです。振動をただ拡大した音なのか、共鳴をともなった音なのか等、フースラー教授が言うように耳の感受性を高めなければわからないことが、たくさんあるわけです。しかも上手くなればなるほど微妙な違いを聞き分けられなければなりません。耳を育てるということはそう簡単なことではないですね。
今はインターネットのおかげで様々な情報を簡単に手に入れることが出来ます。しかしそれらは耳に入ってくるわけではありません。こうしてHPで書いている私も複雑な気持ちもありますが、文字の情報よりもはるかに沢山の生の音の情報が必要なのではないでしょうか・・・。