桂 戴作先生を偲ぶ     ●吾郷 晋浩(NPO法人日本心療内科学会理事長)

  去る6月29日、本学会名誉理事長桂戴作先生の突然の計報に接した時は、ほんとうに驚きました。なぜなら、その5日前、先生は、本学会がスタートさせた専門医の認定試験を、まわりの心配をよそに、ご自分から進んで受けられて、お元気にお帰りになられたばかりだったからです。
先生に初めてお目にかかったのは、40数年前日本アレルギー学会の会場で、拙い発表を終えて演壇を降りてきたばかりの私に声をかけて頂いた時であったと記憶しております。その後、先生とは、先生の恩師故萩原忠文先生と故池見酉次郎先生のご指示による呼吸器心身症研究会を立ち上げるために、世話人としてお会いするようになり、本研究会を発足させてからは年2回東京と大阪で開催されることになった研究会で毎回お会いし、お互いの臨床経験を語り合う機会が増えました。この研究会20回開催を記念して、「気管支喘息の実際的アプローチ」が出版されましたが、先生はこの本が気に入っておられ、このような本が他の代表的な心身症についても出版されることを望んでおられました。本研究会が20年を過ぎた頃、諸般の事情により運営方法について見直しが必要になった際、当時研究会の理事長を務めておられた先生は、先輩格の循環器、消化器の心身症研究会の代表と話し合われ、内科系の心身医学の臨床に重点をおいた日本心療内科学会の設立に踏み切られました。先生は、推されて初代理事長となられましたが、その年は,はからずも政令により「心療内科」の標榜が認められた年でした。先生とのお付き合いの中で感じたことの1つに、人を否定的に批判されるような発言をされたことがなく、若手をその気にさせ、その人なりの力を存分に発揮させることがとても上手な方であるという印象を受けたことがあげられます。そのようにして育てられた若手によって結成され、毎年開かれていた桂門会は、先生の楽しみの会であったことと思います。
最近先生が私どもにおっしゃったことを思い返してみますと、それは先生の私どもへの遺言であったように感じられます。私どもは、その1つでも達成して先生にご満足頂けるように努力してまいりますので、先生がかねがね敬愛しておられた恩師や同僚の先生方がおられる天国より、私どもをお見守り下さいますようお願い申し上げ、謹んで先生のご冥福をお祈り申し上げます。

(日本心療内科学会ニューズレターより)

 

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