◆武蔵の柘植氏
武蔵国忍(おし 現埼玉県行田市)松平下総侯家臣に柘植善太夫なる者あり、幼名幸六 幕末の武術家、真影流の奥義を極め槍は大島流。後 松平右京太夫の臣加地市之丞の門に入り高弟となる。明治元年五月官軍に加わり奥羽之役に従軍、白河口にて戦死す。(大人名辞典より)この柘植氏の祖先は忍藩松平公が伊勢桑名より養子に入った際、桑名から供奉して来たもので、現在群馬県桐生市在住の柘植憲邦氏(碩之丞四男)は その末裔であるという。

◆遠州の柘植氏
浜名湖の畔 静岡県引佐郡細江町祝田 谷田という処に柘植姓を名乗る数戸の家がある。七百年前の年号を彫込んだ棟木の家があり、そこは相当古くからの柘植家と思われる。横浜の柘植賢次郎氏はここの出身で、三方ヶ原の古戦場から程近いというので、 やはり戦国時代の武士が、この辺りに住み付いたものであろう。家紋は『丸に花おもだか』

◆尾張の柘植氏
愛知県愛知郡の豪族で諸輪南城に拠る。『尾張志』によれば「庄屋真野勘右衛門が居屋敷これなり。勘右衛門の家は古代より此の地の郷士にして、先祖は柘植道昌という(道官？)これより世々絶えず村長となり来たれるが近世に真野と改めたりと。 天文の頃(1532-1555)山口九郎次郎の足軽大将に柘植宗十郎と言うは、この同族ならん。永録の頃(1688-1704)柘植玄蕃充は同郡丹下城に拠る。又佐久間盛政の時 柘植喜左衛門あり。天正八年 加賀国石川郡鷹巣城を守り飛騨の鎮とす」以上の記録により考察すれば、山口九郎次郎とは当時鳴海城主山口左馬之助の子息であった。丹子城は鳴海の北にあった。諸輪南城もまた この近くにある。天文廿二年織田信長は十九歳でこの鳴海城を攻撃している。この鳴海に隣接する豊明町には現在約五十戸の柘植姓部落があり、鳴海町にも柘植姓の家がある。又今は名古屋市になっているが、鳴海から近い瑞穂区の辺りにも昔から柘植氏が多い。之等は皆、 戦国時代この付近の城塞に拠って活躍した柘植一族の子孫であろう。

◆越前の柘植氏
徳川家康の二子秀康、結城家の養子となり、慶長五年越前の福井城へ封ぜられ、先の関ヶ原合戦の功により六十五万石の禄が与えられた。その時の家臣であった柘植小平次に四百石、柘植忠右衛門にも三百石ということが給帳に記録してある。その子孫は代々福井藩に仕え、幕末の頃 橋本左内らを指導した指南役であったということの彫り記した墓石が今も福井に残っている。しかしその系図などは消失し詳細は分からない。現在この柘植家の当主は東京在住の柘植一雄氏である。尚加賀藩にも柘植平作(三百三十石)の名が記されている。

◆伊勢の柘植氏
伊勢山田奉行に属し、代々役人を勤めた柘植氏という武士の家系がある。先祖の名は明らかではないが六代柘植傳左衛門重政は嘉永二年卒、七代七郎右衛門博文は文久二年卒、八代祐太郎光重は明治四年三重県少属(？)に任ぜられている。十代目に当たる柘植智重氏は現在三重県飯南町に居住、一方一志郡嬉野町にも柘植姓の家がある。また津市には藤堂家の家臣であった柘植氏の子孫 柘植隆一氏の家もある。

◆河内の柘植氏
安宿部落(��大阪府南河内郡国分町)の名族柘植常彰(竜州)は医学を浅井図南に、儒学を中村竹山に学び、詩文を良くす。彼は初めて「回虫研究書」なる本を著し高取侯に仕えた。その子柘植常熈卓馬は中山竹山に学び、京都に赴き頼山陽の門下で学んだ。文政十二年国分村に帰り 翌年 立教舘を創設し子弟を集めて経史 諸子百家(孔子老子孟子ら)の学を講ず。文久三年 更に学寮を拡げ 文武両道を授く。明治六年 卒。その子常肇 また経史に通じ 詩文を良くす。この柘植家は戦後後継者なく断絶した。

◆岸和田の柘植氏
柘植弥左衛門尉宗成は寛永年間大垣の岡部公に仕え、肥後の島原之乱 平定の功に賞せられた際 浪人武藤源左衛門は之を妬み宗成を斬る。 その子宗正、 十八年間苦難の末 明暦元年十二月二十八日江戸にて仇討を果たす。その後泉州岸和田に移り 岸和田藩に仕え、柘植家の仇敵 仇討の事情等を伝え「仇討百番」などの書を書き残している。その末裔である柘植宗俊氏は現在鎌倉に在住、その柘植家の系譜なども保存されている。

◆出雲の柘植氏
島根県出雲市に柘植姓の家 十戸あり。祖は伊賀から移住したもので、本家は既に絶家となり、同市今市町の柘植貞蔵氏は分家の十代目に当たり、嘗て国鉄駅長などを勤めた人である。尚 邑智郡石見町にも何戸かの柘植家がある

◆四国の柘植氏
四国 高松藩に仕えた柘植氏は、寛永十九年 松平頼常が十二万石の禄高で高松藩主に封ぜらた際、伊勢方面から移ってきたものであるという。その子孫には同藩の指南役を勤めた人もあり、代々の墓が高松市の見性寺にある。十四代柘植宗孝氏は大蔵省官吏で四国各地の税務署長を歴任し 昭和十年十一月二十一日病を得て逝去す。当家の系図は戦災で焼失、宗孝氏には子女がなく甥の速生氏が家督を相続、現在大阪府池田市居住である。二人の子息は、東大法学部と京大工学部に夫々在学中。同じ松平家に仕えた柘植家の分家の子孫には柘植幸雄医博(茅ヶ崎市)　柘植敏雄盛岡市財務部長　柘植五郎医博(高松市) の三兄弟があり、本家 分家共に英才の家系である。

◆九州の柘植氏
筑後田主丸(��福岡県浮羽郡田主丸町)にて代々庄屋を勤めた柘植家がある。菩提寺には十五代に亙る先祖の墓があり、十六代目の柘植長平氏がここを去り、各地を転々とした後、三井郡小郡に定住した。その孫に当たる人達が 柘植陽太郎(藤沢市) 柘植参雄(芦屋市)柘植 格(東京都)の三氏であり(後記 日本紳士録参照)柘植乙彦氏(九大教授)、 柘植 光氏 柘植俊吾氏(共に福岡市)もこの一統である。この系統と九州柘植氏の先祖とは関係があるものと考えられるが、現在 長崎市在住の柘植喜代太氏の祖先は、寛永年間の島原之乱の後、筑後三池から長崎県高来郡北有馬村に移住し農業に従事、明治二十年頃 喜代太氏は材木商を営む。現在 この一族が夫々長崎市内に居住している。北有馬村は島原城祉から約一里(四粁)の近距離に在り、今も柘植姓を名乗る農家が三戸ある。これら柘植家の祖先は、いずれも伊賀からこの地に移住して来たものではないかと考えられるが、如何なる事情で、どのような経路を経て九州に渡ったものであろうか。 残念ながら今となっては知る術もない。

◆石川侯家臣の柘植氏
慶長年間の頃 大垣城主石川家成、同 康通公の家臣に柘植文太郎 柘植半三の名があり、慶長十九年 大坂冬之陣に柘植六兵衛は石川忠総の家臣として出陣し大功を挙げた。すなわち柘植六兵衛は敵首一つを、柘植作五左衛門は三首を挙げたと記録に残っている。又 慶安四年四月 石川昌勝が伊勢亀山城の城主になった時、その家臣に柘植左平治(後 佐五左衛門と改名 百五十石家禄)が居た。 宝永四年 卒。その子は又左五左衛門と名乗り石川侯に仕え、享和六年立退。