日本書紀「壬申の乱」に
『天皇到伊賀積殖村山口　高市皇子目鹿深□(甲賀山)以過之』の文がある。

六七二年(白鳳元年)七月三日に始まった壬申の乱は美濃から近江にまたがり、この地一帯も戦乱の舞台となった。また源平盛衰記に
「九郎義径は伊勢より伊賀路に攻上けるが鈴鹿山の麓を過ぎ八十瀬の白波分け加太山にぞ罷りける。この山の体たらく峯高く峙(そばだ)て上る、岩険しく谷深くして漲(みなぎ)り落ちる、水早ければ足を危なくして渡る。かくて山路を出ぬれば柘殖里に至る」とあり。

　○限りなく思う心をつげの山　山口をこそたのむへらなれ(松葉集)

　○都にもゆかぬ先より鴬の　枕につげの宿のあけぼの(永閑名所記)

沿革

柘植郷は昔 上柘植、中柘植、下柘植に分かれいてたが明治廿二年 東柘植、西柘植、壬生野の三村となり、 同廿九年 山田郡と合併して阿山郡とし、東柘植村は昭和十七年町制を布き、西柘植村と壬生野村は合併して昭和三十年一月 春日村を作ったが、昭和三十四年三月には柘植町と春日村を合して人口一万一千百余 戸数二千二百六十の伊賀町が誕生した。柘植の町名が消えたのは淋しいが、駅名や郵便局名は未だ 旧のままである。『柘植』の名を残している。

交通

　四日市から大阪に至る二級国道が東西に通じ、県道は四方に延びている。国有鉄道は関西本線と草津線の分岐点に当り柘植駅(明治廿三年二月十九日 開業)が上柘植にあり、下柘植には新堂駅(大正十年七月十五日 開業)がある。更に柘植新堂両駅間と上野市に至る三重交通のバス路線がある。

産業

主要産物は米 麦 木材等、広大な農地は所謂伊賀米の産地で森林資源もまた豊富である。
最近 柘植駅付近には東亜ペイントの工場が新設され、塗料の生産が開始された。

観光

観光資源としては芭蕉公園の「生誕地記念碑」、万寿寺の「国宝地蔵」、余野遊園地の つつじ等 見るべきものがあり、観光協会では霊山を中心に これらを結ぶハイキングコース を作り宣伝につとめている。これに関して私は町当局に提唱したい。┃上柘植の「福地城址」は芭蕉さんの関係で大いに宣伝しているが「下柘植の城址」は全く顧みられていない。茲は宗清一族の本拠とした処で、しかも付近一帯は景色勝れているのでこれに手を加えて公園化すれば日置神社も含めて申し分のない観光地となるであろう。由緒ある「梅ケ枝の手水鉢」も田の隅に放置されて知る人も少ない。此処にはぜひ宗清一族の事蹟を記した案内標でも設置して城祉であることを一般旅行者に周知せしめるよう配慮して頂きたい。公園化の問題も個人の所有地とすれば困難もあることと思うが、何とか実現を期待したい。