画像電子学会 第22回VMA研究会    
2009-01-16        


マルチメディア文書プレゼンテーションのための
動くフォントの記述

Time-variant Font Description for Presenting Multimedia Documents

関部 清人

    

鳥原 司貴

    

小町 祐史

Kiyoto SEKIBE

    

Kazuki TORIHARA

    

Yushi KOMACHI


大阪工業大学 情報科学部
Faculty of Information Science and Technology, Osaka Institute of Technology


1. まえがき

文書のプレゼンテーションは,主として紙(特にカットシート)メディア上に文字列を主体とする意味内容(論理コンテンツ)を可視化して,論理コンテンツ作成者の意図を正確にかつ容易(高い可読性,一覧性,アクセス容易性をもって)に読者に伝えることを目的として,印刷・出版文化の長年にわたる発達の歴史の中で開発され合意され,組版製本における文書体裁(document style)とその表示(presentation)の技術要素として確立している。発達の経緯により,その技術には,言語,地域,文化への依存性がある。

しかしWebの普及,文書作成ツールの国際的普及により,言語,地域,文化への依存性は少なくなりつつあり,多言語混植のようなフォーマティング/プレゼンテーション技法と混植用フォントセットの検討が必要になっている。Webの背景には電子的表示メディアの普及があり,電子メディア上に可視化し表示する文書に関しては,これまでのフォーマティングオブジェクトに対する見直しと新たなフォーマティングオブジェクト(たとえばハイパリンク端の表示)の開発とが求められている[1]。

Webの普及を担った記述言語は,文書の論理構造とスタイルセマンティクスとの分離の概念を文書処理に導入し,ISO/IEC JTC1/SC18およびその後継としてのSC34において,SC34文書処理モデルに基づいて論理構造を記述する言語,スタイルセマンティクスを記述する言語,およびそれらの処理系にAPI(応用プログラムインタフェース)を介してそれらにフォント情報を提供するフォント資源の交換様式が規定されることになった。

論理構造を記述する言語に関するマルチメディア対応はHyTime[2]からSMILへと拡張されたが,フォントおよびそのプレゼンテーションのマルチメディア対応(注1)は必ずしも十分ではない。

注1: SMIL2.0[3]のフォントに関する記載は次のようなもの(10.3.1)にすぎない。 <form ...> ... <label for="select_red" begin="focus" dur="5s" timeAction="style" style="color:red; font-weight:bold" > Make things RED. </label> <input id="select_red" .../> <label for="select_green" begin="focus" dur="5s" timeAction="style" style="color:green; font-weight:bold" > Make things GREEN. </label> <input id="select_green" .../> ... </form>

文書記述言語とともに開発されたフォント情報交換規格は,その後何度も見直しと修正とを繰り返しているが, 一部地域を使われてきた文字の一部のカラー表現(注2)と,時間とともに属性を変化させるフォントとの交換を可能にする交換規格については,ほとんど検討・報告されることなく,今日に至っている。

注2: 例えばトンパ(Dongba)文字は墨で書かれるだけでなく,文字(の一部)が彩色されることがあり,特定の色によってその文字に特殊な意味を与える。"人"を青く彩色すると厚着,黄色では"着衣",赤では裸体を意味する[4]。

日本規格協会の文字フォント開発・普及センターは,1993〜1995年度にマルチメディア対応フォント調査研究委員会を組織し,マルチメディア環境でフォント表示を行うデバイスの特徴:

に着目して,その特徴を積極的に活用すると共に,視覚特性をも考慮して, を求めるためには,どのようにフォント情報を構成し,どのようにそれを扱えばよいのかとのフォント利用者およびフォント供給者の要望への回答を検討した。その成果は1995年度の報告書[5]において次のような項目にまとめられている。
2.基礎検討
2.1 見易さ
2.2 ディスプレイに関する検討
2.3 画像情報伝送・表示
2.4 色
2.5 OCR
2.6 倫理上の課題
                     
3.ディスプレイ対応フォントの属性
3.1 既存の属性の拡張
3.2 ディスプレイ固有の属性
3.3 階調付け
3.4 関連するフォーマティング属性
  
4.評価法
4.1 適用範囲
4.2 評価パラメタ
4.3 評価方法
4.4 基準フォント
4.5 評価用テキスト
4.6 評価用アンケート用紙

つまりマルチメディア対応の表示メディアを前提としたフォントに関する検討が中心的課題であり,動くフォント(Time-variant Font)については,1994年度の報告書[6]に次の記載があるにすぎない。

動くフォントとは,時間の経過に伴って表示位置を移動する文字と定義できる。文字列が表示装置の画面上を移動し消えていく一方で,それに続く文字列があらたに表示される機能をスクロールと呼ぶ。スクロールの目的は,小さな表示領域に多量の情報を表示するものである。読むタイミングとしては,移動中の文字列を直接読む場合と,停止後に読む場合がある。マルチメディア対応フォントを調査する立場から,移動中のフォントの可読性や視認性について検討していく。

(1) 動くフォントの見易さ
ある程度の余裕をもてる速度の場合,我々はスクロールするフォントをごく自然に読むことができる。なかでもテロップのように文書の組みと同じ方向にフォントが流れていく場合の方が,組み方向と直角な方向にフォントが流れる場合より,読み易いと感じる。ではスクロール速度の限界はどの当たりにあるのか。当然,読み取り速度に制約されるから,移動による視認性や可読性の低下を勘案すると,日本人の平均速度である毎分500字を越えることはできないはずである。また移動による可読性や視認性の劣化の少ないフォントは存在するのか。これらの疑問を来年度の活動テーマとしたい。

(2) 動くフォントのサンプル
今回の報告書添付のVHSビデオでは,まず1行22文字で12行表示のディスプレイ上で横組み文書をスクロールアップさせ,縦組みの文書を左から右へスクロールさせている。さらにスクロールアップと左右スクロールにおいて,1回の変移量に違いを持たせ,連続(1ドット単位)と行(1行単位)とページ(約1ページ単位)スクロールを提示している。その際の連続スクロール速度を3段階に変化させている。このような様々な条件下における読み易さに順位付けを行い,動くフォントでの読み易さの要因の抽出を今後のテーマとしたい。

次のビデオサンプルは,動画プレゼンテーションにおけるフォントの使用例である。マルチメディアではより積極的にフォントにパフォーマンスをさせた作品も作られており,従来にはなかった表現形式が可能となっている。

最近のマルチメディア文書においては,上述のような単純なスクロールまたは走行文字列[7]に止まらす,マルチメディア文書ならではの特殊効果を狙った複雑に動くフォントが使われ始めている[8]。このような文書については現状では,可視化処理を終えたnon-revisavle formでの動画像としての交換しか行われていないが,普及とともにrevisable formでの交換が求められることは必定であり,フォント情報交換としての対応が望まれる。

2. フォント情報交換規格

フォント情報交換規格ISO/IEC 9541は,国際標準化機構の中で記述言語のSGML, DSSSL, SPDLなどを開発していたISO/IEC JTC1/SC18の作業グループ(WG)8によって開発され,1991年から1994年にかけて次の3部構成の規格として発行された。
 ISO/IEC 9541-1, Font information interchange
  - Part 1: Architecture
  - Part 2: In terchange Format
  - Part 3: Glyph shape representation

この規格の概要,記述言語との関係については,文献[9],[10]などに解説されている。国内では,ISO/IEC 9541の各Partにそれぞれ一致する日本工業規格
  - JIS X 4161,フォント情報交換−第1部: 体系
  - JIS X 4162,フォント情報交換−第2部: 交換様式
  - JIS X 4163,フォント情報交換−第3部: グリフ形状表現
が制定されている。

その後,JTC1/SC18 WG8の活動がJTC1/SC34に引き継がれ,そこのWG2によってISO/IEC 9541の各Partに対するAmendmentが作られて,関連技術の変化と関連分野からの要求に応じた規定内容の更新が続けられてきた。発行済みのAmendmentを次に示す。
 ISO/IEC 9541-1/Amd.1:2001, Typeface design grouping
 ISO/IEC 9541-1/Amd.2:1998, Minor enhancements to the architecture to address font technology advances
 ISO/IEC 9541-1/Amd.3:2000, Multilingual extensions to font resource architecture
 ISO/IEC 9541-2/Amd.1:2000, Support for font technology advances
 ISO/IEC 9541-3/Amd.1:2005, Additional shape representation technology

SC18/WG8およびSC34/WG2のフォントエキスパートによって開発されたフォント関連規定として,次の規格/TRがある。
 ISO/IEC TR 15413, Font Services - Abstract Service Definition
 ISO/IEC 10036, Font Information Interchange - Procedure for Registration of Font-Related Identifiers

国内では,次のTRおよびJISが公表・制定された。
 TR X 0042:2001, フォントサービス - 抽象サービス規定
 JIS X 4165:2002, フォント関連識別子の登録手続き

2005年になって,JTC1/SC29がISO/IEC 14496のプロジェクトのsubdivisionによってそのPart 22のプロジェクトを作り,Open Font Format(OFF)の規格原案を提出してきた。そこでSC34は,JTC1 Secretariatの提案に従って,ISO/IEC 9541との不整合を避けるため,SC34にISO/IEC 9541-4のプロジェクトを作って,ISO/IEC 14496-22とのdual-numbered publicationの開発を推進した。しかしその作業の途中でISO/IEC 14496-22が発行されることになり,SC34は方針を変えて両規格の整合を図るために,既に開発作業中であるISO/IEC 9541-1/Amd.4, ISO/IEC 9541-2/Amd.2に加えて,ISO/IEC 9541-3/Amd2, ISO/IEC 9541-4の開発に着手している。

ここではこれらのフォント情報交換規格の体系を維持したまま,動くフォントをrevisable formの文書の中で記述する方式,つまりISO/IEC 9541フォント属性(注3)の拡張について検討を行う。

3: フォントリソースのアーキテクチャは各種の表記モード(Writing Mode)に対応可能である。ここで表記モードとは,グリフ座標系における送り(Escapement)の方向,つまり位置決め点(Position point)から送り点(Escapement point)への方向である。

多くのフォント属性は表記モードと関連がある。そこで,フォントリソースの構造の中では,表記モード依存のモード依存属性と,不依存の属性(記述属性,グリフ形状表現属性)とに分類し,モード依存属性の内容をモード毎の集合にまとめている。字下げによって入れ子構造を表現して,このフォントリソース構造を示すと次のようになる。

- フォントリソース名属性(Font Resource Name Property)
ある1つのフォントリソースに含まれるすべての情報を参照するための識別子。

- 記述属性(Description Property)
1つのフォントリソースを,リソース全体として,表記モードとは無関係に特徴付ける属性。例えば, TYPEFACE(書体),FONTFAMILY(フォントファミリ),POSTURE(姿勢),WEIGHT(太さ)等がこれに分類される。

- モード依存属性(Modal Property)
フォントリソースがサポートする各表記モードとそれに関する属性が,リストとして指定される。

- 表記モード属性(Writing Mode Property)
主としてフォーマティングに際して参照する,表記モード依存の属性がリストとして指定される。例えば,ESCCLASS(送りクラス),AVGESCX, AVGESCY (平均送り),SCORES(スコア),ALIGNMODES(並びモード)である。

- グリフメトリクス属性(Glyph Metrics Property)
1つの表記モードで定義される,グリフごとの記述情報とメトリクス(配置量)情報,例えばGNAME(グリフ名),PX, PY, EX, EY (グリフ位置決め点とグリフ送り点),EXT(グリフエクステント)等がリストとして指定される。

- 形状表現属性(Glyph Shape Representation Property)
各グリフにタイプフェースを適用して可視化した具体的な形状を記述し,さらにその形状を表示デバイスの画素制約の中で最も適切に表示するための属性がリストとして指定される。

3. 動くフォント

文献[8]では,これまでハードコピーでのプレゼンテーションを前提としてきたコミックに対して,マルチメディアプレゼンテーションを導入して,新たな効果を提案している。そこではフォントにも次の引用に示すように,time-variantなパラメタを含めている。

吹き出し中の文字列の文字を順次表示していくことによって,音声表現のないコミックにおいてキャラクタが喋っている状況を表現できる。順次表示のさせ方には,文字毎の順次表示,単語毎の順次表示などがある。文字サイズ,フォントなどの時間的変化を加えることによっても,さらに多彩な表現が可能になる。

文字サイズ,順次表示の間隔,フォントなどに時間的な制御を施した台詞の表示を下図に示す。@では台詞をまだ表示してなく,Aではフォントの不透明度を0から100%に変化させながら文字を順次表示する際の途中のテキスト表示を示し,BとCでは表示させたフォントに揺れを与えている。下図の表示例からは,台詞テキストの位置が変化していることがわかる。

    

文字の順次表示(行内への文字追加),スクロール(文字列の行構成を保存したままの移動),走行文字列(文字列の行内移動)[7]の記述においては,フォント情報そのものへの時間パラメタの導入は不要である。フォント情報への時間パラメタの導入が必要な動くフォントとしては,次のフォント属性の時間的変化が実用的である。

4. 動くフォントの記述

フォント属性の時間的変化の各ケースについて,ISO/IEC 9541のフォント属性[11]の拡張を考える。これらの動くフォントは,マルチメディア文書の中の特定文字(または文字列)に対してその周辺との関係において,何らかの強調を含む特殊効果を期待して利用されることが多い。したがって時間パラメタの導入は,グリフメトリクス属性に限定されると考えてよい。

しかし3.示す時間変化の対象となる幾つかの属性は,記述属性,モード依存属性に含まれるため,その属性を指定された対象グリフに関してグリフメトリクス属性として再定義し,その属性に時間パラメタを与える必要がある。そのように再定義された属性を区別するため,"GM-"というプレフィクスを付けることにする。

4.1 大きさ

各グリフの大きさはグリフメトリクス属性の属性EXTで与えられる。そこで,動くグリフに関する時変EXT属性(t-ext-property)は,次のように定義される。

t-ext-property ::= t-ext-name, t-ext-value-valie-list t-ext-name ::= STRUCTURED-NAME t-ext-value-valie-list ::= t-ext-minx, t-ext-miny, t-ext-maxx, t-ext-maxy t-ext-minx ::= TIME-VARIANT REL-RATIONAL t-ext-miny ::= TIME-VARIANT REL-RATIONAL t-ext-maxx ::= TIME-VARIANT REL-RATIONAL t-ext-maxy ::= TIME-VARIANT REL-RATIONAL フォントサイズの時間的変化に応じて行長までが変化すると,特に行末において可読性が悪化するので,位置決め点を与える属性PX, PYおよび送り点を与える属性EX, EYには,時間パラメタは与えない。

4.2 姿勢

フォントの時変姿勢は,記述属性POSTUREを対象グリフに関するグリフメトリクス属性として再定義し,そこに次のように時間パラメタを与えることで記述できる。

t-gm-postureangle-property ::= t-gm-postureangle-name, t-gm-postureangle-value t-gm-postureangle-name ::= STRUCTURED-NAME t-gm-postureangle-value ::= TIME-VARIANT ANGLE

4.3 太さ

フォントの時変の太さは,記述属性WEIGHTを対象グリフに関するグリフメトリクス属性として再定義し,そこに次のように時間パラメタを与えることで記述できる。

t-gm-weight-property ::= t-gm-weight-name, t-gm-weight-value t-gm-weight-name ::= STRUCTURED-NAME t-gm-weight-value ::= TIME-VARIANT RATIONAL

4.4 その他(色,回転など)

色はグリフ形状表現が規定する形状表現方式に依存する。これまでにType 1 Glyph Shapes, Type 2 Glyph Shapes, Open Type 3 Glyph Shapesが規定の対象となっているが,表示色に関する属性は新たに定義する必要がある。

回転については,姿勢と同様に回転の角度を既定するとともに,新たに回転の中心を定義する必要がある。

5. むすび

マルチメディア文書ならではの特殊効果を狙った複雑に動くフォントをrevisable formの文書の中で記述し,交換の対象とするために必要なフォント情報交換の属性を,既存のISO/IEC 9541(とくにPart 1)の拡張として検討し,そのフィージビリティを確認した。

フォント表示色の時間変化に対応する,Part 3が規定する形状表現方式に依存する属性への時間パラメタの導入については今後の課題として残している。とくに文字の一部だけを異なる色で表現するようなプレゼンテーションについては,その利用者要求の確認とそれが与える効果についても,さらに検討する必要がある。

文献

[1] 平成18年度ユビキタス社会を推進する情報基盤の標準化調査研究成果報告書,日本規格協会 情報技術標準化研究センター,2007-03

[2] ISO/IEC 10744:1997, Information technology - Hypermedia/Time-based Structuring Language (HyTime), 1997-08,または
JIS X 4155:19991,ハイパメディア及び時間依存情報の構造化言語(HyTime),1999-11

[3] Synchronized Multimedia Integration Language (SMIL 2.0), W3C Rec., 2001-08,または
標準情報 TR X 0093:2003,同期化マルチメディア統合言語 (SMIL 2.0),2003-09

[4] 王超鷹,トンパ文字,マール社,1996-04

[5] 平成7年度マルチメディア対応フォント調査研究報告書,日本規格協会 文字フォント開発・普及センター,1996-03

[6] 平成6年度マルチメディア対応フォント調査研究報告書,日本規格協会 文字フォント開発・普及センター,1995-03

[7] 能勢将秀,渡壁 聖貴,小形表示画面における構造化文字列表示の検討,画像電子学会 第20回VMA研究会,2008-01-18

[8] 鳥原司貴,小町 祐史,コミックのマルチメディアプレゼンテーション要素の提案と評価 画像電子学会 第240回研究会,2008-10-24

[9] 小町祐史, 文書記述言語とフォントの国際標準化概要, 情報処理, 32, 10, pp.1110-1117, 1991-10

[10] 小町祐史, フォント情報交換の国際規格, 画像電子学会誌, 20, 6, pp.602-611

[11] 小町祐史編著,フォント情報交換ユーザーズガイド,日本規格協会,1996-04