画像電子学会 第25回VMA研究会    
2009-12-04        


目立つフォントの書体属性

Face design properties for striking fonts

清水 康隆

       

小町 祐史

Yasutaka SHIMIZU

       

Yushi KOMACHI

大阪工業大学 情報科学部
Faculty of Information Science and Technology, Osaka Institute of Technology


1. まえがき

広告・宣伝では"目立つ"ことが必須である。Visibleな広告・宣伝が"目立つ"ために考慮すべき要素として,

等があるが,ここでは(1)に着目し,目立つ文字とはどのような書体属性をもつことが必要であるかを,漢字について定量的に調査し,広告・宣伝を行う際のフォント選択の指針を提供することを目的とする。

漢字の書体属性としては,目立つことに大きく影響すると考えられ,しかも定量的な属性値設定が容易な

を取り上げる。

"目立つ"とは何かについての認知心理での扱いには言及せず,どのフォントが目立つかの問いに対する複数評価者の相対評価結果に基づく"目立ち度"を用いて,いくつかの属性値設定されたフォントの比較を行う。


2. 黒み率に基づく目立ち度評価用フォント

2.1 黒み率の算出

ここではグリフ像(glyph image)の黒み率(blackness)[1]を次式によって算出する。

黒み率 = (仮想ボディ内の黒画素の数)/(仮想ボディを構成する画素の数)

この算出には図2.1に示すようなユーザインタフェースをもつ簡単なプログラムを用意し,2.2に示す方針に従ってフォント生成ツール(武蔵システム,TTEdit)を用いて生成したフォントのグリフ像の黒み率の算出を行った。



図2.1 黒み率を算出プログラムのユーザインタフェース

2.2 フォント

目立ち度の評価対象漢字には,情報処理学会試行標準(案)として検討されているフォントリソース参照方式[2]の中で,書体見本帳の指標文字[3]に採用されている"国","東","米"を用いる。それぞれの文字を書体"MSゴシック"および"MS明朝"とで表現したグリフ像に対して,処理(画線の中心線を基準として左右および上下に均等割合で画線幅の増減を行う)を施して,黒み率(%)が,20, 30, 40, 50, 60であるグリフ像を作成した。

作成したグリフ像を図2.2に示す。


(a) 左から,黒み率(%) = 20, 30, 40, 50, 60 の"国"(MSゴシック)


(b) 左から,黒み率(%) = 20, 30, 40, 50, 60 の"東"(MSゴシック)


(c) 左から,黒み率(%) = 20, 30, 40, 50, 60 の"米"(MSゴシック)


(d) 左から,黒み率(%) = 20, 30, 40, 50, 60 の"国"(MS明朝)


(e) 左から,黒み率(%) = 20, 30, 40, 50, 60 の"東"(MS明朝)


(f) 左から,黒み率(%) = 20, 30, 40, 50, 60 の"米"(MS明朝)

図2.2 黒み率に基づく目立ち度評価のためのグリフ像


3. 縦横画線幅比に基づく目立ち度評価用フォント

3.1 縦横画線幅比の変化によって書体を維持できるの変化

縦横画線幅比(縦画と横画の画線幅の比)に基づく目立ち度評価のために,黒み率をパラメタとし,縦横画線幅比を異にするグリフ像を比較する。斜めの画線については,縦画と同じ画線幅とする。

書体には,縦横画線幅比の変化によって書体を維持できるゴシックを用いる。

3.2 フォント

2.の場合と同様に目立ち度の評価対象漢字には,"国","東","米"を用いる。"MSゴシック"で表現したグリフ像に対して,処理(画線の中心線を基準として左右または上下に画線幅の増減を行って指定された縦横画線幅比にする)を施して,黒み率(%)が,20, 30, 40, 50, 60であるグリフ像を作成した。なお,40%以上の黒み率については,隣接する画線が接触して実現できないグリフがある。

縦横画線幅比 = 1:1, 2:1, 3:1, 4:1, 5:1, 1:2, 1:3, 1:4, 1:5 を実現したグリフ像を図3.1に示す。


(a) 左から,黒み率(%) = 20, 30, 40, 50, 60 の"国","東","米"。縦横画線幅比 = 1:1


(b) 左から,黒み率(%) = 20, 30, 40, 50, 60 の"国","東","米"。縦横画線幅比 = 2:1


(c) 左から,黒み率(%) = 20, 30, 40, 50, 60 の"国","東","米"。縦横画線幅比 = 3:1


(d) 左から,黒み率(%) = 20, 30, 40, 50, 60 の"国","東","米"。縦横画線幅比 = 4:1


(e) 左から,黒み率(%) = 20, 30, 40, 50 の"国","東","米"。縦横画線幅比 = 5:1


(f) 左から,黒み率(%) = 20, 30, 40, 50 の"国","東","米"。縦横画線幅比 = 1:2


(g) 左から,黒み率(%) = 20, 30, 40, 50 の"国","東","米"。縦横画線幅比 = 1:3


(h) 左から,黒み率(%) = 20, 30, 40 の"国","東","米"。縦横画線幅比 = 1:4


(i) 左から,黒み率(%) = 20, 30, 40 の"国","東","米"。縦横画線幅比 = 1:5

図3.1 縦横画線幅比に基づく目立ち度評価のためのグリフ像


4. 目立ち度の評価

"目立つ"とは何かについての認知心理での扱いには言及せず,15名の評価者(以降の表では,a,b,c...o)に対して図2.2と図3.1のグリフ像を並べて提示し,"どれが目立つか"の問いに対する5段階の相対評価を求めた。

4.1 黒み率に基づく目立ち度評価

図2.2の同じ黒み率の"国","東","米"をひとつにまとめて,黒み率ごとに提示し,各評価者にそれぞれの黒み率の目立つ程度を5段階に分けて回答してもらった。この操作をMSゴシックとMS明朝とについて行い,表4.1,表4.2の評価結果を得た。

表4.1 黒み率に基づく目立ち度評価結果(MSゴシック)

黒み率(%)

20

30

40

50

60

 

 

 

 

相対評価

 

評価者a

2

2

3

4

5

b

2

2

3

4

5

c

1

2

4

4

5

d

1

1

3

4

5

e

2

2

3

5

5

f

2

2

4

5

5

g

2

2

4

4

5

h

1

2

3

4

5

i

2

2

3

5

5

j

2

2

4

4

5

k

1

1

3

5

5

l

1

1

3

4

5

m

1

2

3

4

5

n

2

2

4

3

5

o

1

1

4

4

5

平均

1.5

1.7

3.4

4.2

5.0

表4.2 黒み率に基づく目立ち度評価結果(MS明朝)

黒み率(%)

20

30

40

50

60

 

 

 

 

相対評価

 

評価者a

2

2

3

4

4

b

1

1

3

4

5

c

1

1

3

4

5

d

1

1

3

4

5

e

1

2

3

3

4

f

1

2

4

3

5

g

2

2

3

4

5

h

1

1

3

4

5

i

2

1

3

3

5

j

1

2

3

4

5

k

1

1

3

4

4

l

1

1

3

4

4

m

1

2

3

4

5

n

1

2

3

4

4

o

1

1

4

4

5

平均

1.2

1.5

3.1

3.8

4.7

4.2 縦横画線幅比に基づく目立ち度評価

図3.1の同じ黒み率の"国","東","米"をひとつにまとめて提示し,各評価者にそれぞれの縦横画線幅比の目立つ程度を5段階に分けて回答してもらった。この操作を黒み率を変えて行い,表4.3〜表4.9の評価結果を得た。

表4.3 縦横画線幅比(1:1〜5:1)に基づく目立ち度評価結果(黒み率 20%)

縦横画線幅比

1:1

2:1

3:1

4:1

5:1

 

 

 

 

相対評価

 

評価者a

1

1

1

2

2

b

1

2

1

1

1

c

1

1

1

1

2

d

1

1

1

2

2

e

1

1

1

1

1

f

1

1

1

2

2

g

1

1

2

1

2

h

1

2

2

1

1

i

1

1

1

2

2

j

1

1

2

1

2

k

2

1

1

1

2

l

1

1

1

2

1

m

1

1

2

1

1

n

1

2

1

2

2

o

1

1

1

2

1

平均

1.1

1.2

1.3

1.5

1.6

表4.4 縦横画線幅比(1:1〜5:1)に基づく目立ち度評価結果(黒み率 30%)

縦横画線幅比

1:1

2:1

3:1

4:1

5:1

 

 

 

 

相対評価

 

評価者a

3

2

2

2

2

b

2

2

2

2

3

c

2

2

2

2

2

d

2

2

2

2

2

e

2

2

3

3

3

f

2

2

2

2

2

g

3

2

2

2

1

h

2

2

2

2

1

i

2

2

2

2

2

j

2

2

2

2

2

k

2

1

2

3

2

l

2

2

2

2

3

m

2

2

2

3

2

n

2

2

3

2

3

o

2

2

3

2

3

平均

2.1

1.9

2.2

2.2

2.2

表4.5 縦横画線幅比(1:1〜5:1)に基づく目立ち度評価結果(黒み率 40%)

縦横画線幅比

1:1

2:1

3:1

4:1

5:1

 

 

 

 

相対評価

 

評価者a

4

4

3

4

3

b

3

3

3

3

3

c

3

3

2

2

2

d

4

3

3

3

2

e

3

4

3

3

3

f

3

4

4

4

4

g

3

3

3

4

4

h

4

3

3

3

3

i

4

3

3

3

4

j

4

3

3

2

4

k

4

4

2

4

3

l

4

4

3

4

4

m

4

4

4

3

4

n

3

3

3

4

4

o

3

3

3

3

3

平均

3.5

3.4

3.0

3.3

3.3

表4.6 縦横画線幅比(1:1〜5:1)に基づく目立ち度評価結果(黒み率 50%)

縦横画線幅比

1:1

2:1

3:1

4:1

5:1

 

 

 

 

相対評価

 

評価者a

5

4

4

4

4

b

5

4

4

4

4

c

4

4

4

5

5

d

5

5

4

4

5

e

4

4

4

5

5

f

5

4

4

4

5

g

5

5

5

4

4

h

5

5

4

5

5

i

5

4

4

5

5

j

4

4

4

4

4

k

5

5

4

4

5

l

5

4

4

5

5

m

5

5

4

4

5

n

4

4

4

5

4

o

5

5

4

5

5

平均

4.7

4.4

4.1

4.5

4.7

表4.7 縦横画線幅比(1:1〜1:5)に基づく目立ち度評価結果(黒み率 20%)

縦横画線幅比

1:1

1:2

1:3

1:4

1:5

 

 

 

 

相対評価

 

評価者a

1

1

1

2

1

b

1

2

1

1

2

c

1

1

1

1

2

d

1

1

1

2

2

e

1

1

1

1

2

f

1

1

2

2

1

g

1

1

2

1

2

h

1

2

2

1

2

i

1

1

1

2

2

j

1

1

2

1

2

k

2

1

1

1

2

l

1

1

1

2

2

m

1

1

2

2

2

n

1

2

1

2

1

o

1

1

1

2

1

平均

1.1

1.2

1.3

1.5

1.7

表4.8 縦横画線幅比(1:1〜1:5)に基づく目立ち度評価結果(黒み率 30%)

縦横画線幅比

1:1

1:2

1:3

1:4

1:5

 

 

 

 

相対評価

 

評価者a

3

2

2

2

2

b

2

2

2

2

3

c

2

3

2

2

2

d

2

2

2

3

2

e

2

2

2

3

2

f

2

2

3

2

2

g

3

2

2

2

2

h

2

2

2

2

2

i

2

2

2

2

2

j

2

2

2

3

2

k

2

2

2

2

2

l

1

2

2

2

2

m

3

2

2

2

3

n

1

2

2

2

2

o

2

2

2

2

2

平均

2.1

2.1

2.1

2.2

2.1

表4.9 縦横画線幅比(1:1〜1:5)に基づく目立ち度評価結果(黒み率 40%)

縦横画線幅比

1:1

1:2

1:3

1:4

1:5

 

 

 

 

相対評価

 

評価者a

4

3

3

3

3

b

3

3

3

4

4

c

3

3

3

4

3

d

4

3

4

3

4

e

3

3

3

4

3

f

3

3

3

3

3

g

3

4

3

3

3

h

4

3

3

3

4

i

4

3

3

3

3

j

4

4

3

3

3

k

4

3

3

4

4

l

4

4

4

3

4

m

4

3

3

3

3

n

3

3

3

4

3

o

3

3

3

4

3

平均

3.5

3.2

3.1

3.4

3.3


5. 考察

黒み率については,その増加と共に目立ち度が高まる。その傾向は,ゴシックと明朝のいずれにおいても同様であるが,両者を比較すると明朝よりゴシックの方が目立ち度は高い。黒み率が極めて高いグリフ像においては,画線の隣接により,視認性が低下することがある。

縦横画線幅比の変化に関しては,次の傾向がある。


6. むすび

黒み率と縦横画線幅比とを段階的に変えたフォントを試作して,15名の評価者による目立ち度の評価を行った結果,黒み率の高さが目立ち度の高さに寄与することが確認され,明朝よりもゴシックの方が目立つことが確認された。

今回の調査では目立ち度だけに着目したが,50%を超える黒み率のフォントについては,視認性とのトレードオフを考慮する必要があり,その調査を今後の課題として残している。


文献

[1] ISO/IEC 9541-1/Amd.2, Information technology - Font information interchange - Part 1: Architecture, AMENDMENT 2: Minor enhancements to the architecture to address font technology advances, 1998-12-15

[2] 小町祐史,鈴木俊哉,長村玄: フォントリソース参照方式のTS素案,画像電子学会第23回VMA研究会,VNA23-2,2008-12-01

[3] 長村玄,鈴木俊哉,小町祐史: 書体見本帳の作成指針,画像電子学会第37回年次大会企画session (博物館情報検索と知識の利用), T1-4, 2009-06-25