画像電子学会 第28回VMA研究会
SSC28-2, 2010-12-03
森 将司安永 静人†小町 祐史‡
Masashi MORIShizuto YASUNAGA†Yushi KOMACHI‡ |
大阪工業大学情報科学部, 〒573-0196 枚方市北山 1-79-1
E-mail: e1n07027@info.oit.ac.jp, †e1c07107@info.oit.ac.jp, ‡komachi@y-adagio.com |
高齢者人口の増加とともに高齢者の生活環境向上への配慮が強く求められ,文書の閲覧用表示に関しても高齢者を配慮が求められている。フォントに関しては,UD(ユニバーサルデザイン)フォント[1][2][3][4]が開発されて,この社会的要求への充足が検討されているが,文書の閲覧は文字だけを読むことではななく,表示メディア上に配置された文字列を読むことになり,組版,レイアウト等の文書スタイルとしてユニバーサルデザインが求められる。
類似の社会的要求としてアクセシビリティがあり,W3Cはウェブ文書およびそれを扱うブラウザ等に関して規定[5][6]を設け,アクセシビリティの実現を図っている。このアクセシビリティは,障害を越えてより広範囲の人に対してアクセス可能にするという点では高齢者の生活環境向上への配慮を含むが,視覚的表示が受け入れられなければ,聴覚的表示等に変えて表示するという表示メディア変更までを含む広範囲なアクセス容易性を求める。
ここではまず,代替表示メディアを使わずに,視覚的表示メディアの範囲内で高齢化等による視力等の認知能力の低下に対して文書スタイルオブジェクトとして配慮すべき課題を検討する[19]。
次に代替表示メディアとして文書スタイルオブジェクトの聴覚的表示を検討する。Audio Book[7]の利用に代表されるように,聴覚的表示は視覚がbusyな場合の同時並行認知に有効である。文書に関しては,表(特に複雑な表)は人の視覚機能をある時間占有することが多く,聴覚的表示を併用することによって,内容理解を容易にできる可能性がある。
そこでWeb文書における表の音声レンダリングにおける構造表現を再考して,HTMLおよびCSSで規定される音声レンダリングの拡張と応用を検討する[20]。
文献[1]においては,年齢とともに混濁眼比率が高まり,
文献[2]においては,UDデザイン書体の必要性の主張に基づき,表示メディア上に展開される版面デザインの中で,書体だけでなく,
行内,行関連オブジェクトへの配慮を次に示す。
本文用フォントより小さいフォントを利用することが多い次のようなスタイルオブジェクトにおいては,小さいフォントを利用しない。
フォントサイズ,文字間,行間の大きさについては,読み易さに対する多様な要求レベル(以降,UDレベル)に応えられるように,読者が指定可能であることが望ましい。オリジナルにおいて3.1, 3.2に示す望ましくないスタイルオブジェクトが採用されている場合には,別のスタイルオブジェクトに変更して表示することが求められる。
その結果,版面固定の文書は基本的に高齢者対応が難しく,論理構造と設定可能なスタイル指定とをもつ文書データとして読者に提供され,読者の視力等の認知能力に合わせたスタイル再指定によって,画面表示の版面を構成することが望まれる。組み方向,段組数も,読者の慣れ,好みに合わせた設定対象となる。
3.1(2)の例では,ルビ,割注,縦中横などの要素は,基本的には論理構造の要素ではなく句アノテーションのような論理構造の要素にまとめられるが,UDレベルに応えるたるには,次のような要求レベル対応の構造変換を経てレンダリングされる(必ずしも中間段階での要素を使う必要はない。つまり,論理構造記述されたオリジナルに対して,XSLTのような構造変換を経てレンダリングしてもよいが,論理構造記述されたオリジナルに対して,レベルに応じたスタイルシートを用意してもよい。)ことが望まれる。
このような高齢者への配慮を施した文書ピュアの運用の前提として,版面への著者,編集者のこだわりの軽減が必要であり,印刷・出版文化の中で成立した基本組体裁(basic composition style)[9][10]は,読者のスタイル再指定における選択肢の一つに位置付けられよう。
画面表示の版面を設定可能とすることによって,論理構造の中で記述されるコンテンツ(文の内容)にも配慮が必要である。例えば,横組固有の記述"下記に示す",縦組固有の記述"左記に示す"は,組み方向非依存の記述である"後述の"とすることが望ましく,その逆は"前述の"とすることが望ましい。
ページ概念のある表示においては,ページ境界が版面の再設定によって変化するため,当然の結果としてコンテンツ内でのページ番号によるページ指定,および次ページ,前ページ等の記述は不適切であり,版面の再設定によって変化しない節,項の番号等による位置指定が望ましい。
ここでの検討は高齢者の生活環境向上への配慮を目的としたが,その成果は極めて小さい画面,例えばケータイ画面,への文書情報の表示にも適用できる。
つまりUDレベルは,利用者の認知能力だけで規定されるのではなく,表示デバイスの特性にも依存する。したがって多様な端末での閲覧を前提とする電子書籍のフォーマットは,generic formatとreders' formatに分けてモデル化[21]されることが望ましい。
文書の論理構造を読者に容易にかつ適切に読者に伝えるための文書スタイルオブジェクトは,有限な2次元空間への論理構造のマッピングであり,次のように分類される。
これらを聴覚的代替表示する場合,次の配慮が必要である。
以降に(2b)について検討する。
HTML 4.0[11][12]は"視覚的でない利用者エージェントによる表レンダリング"のclauseにおいて,主として次の音声レンダリング仕様を規定している。
CSS2[13][14]は"表の音声レンダリング"のclauseにおいて,'speak-header' propertyを規定し,表ヘッダをすべてのセルの前に読み上げるか,そのセルが前のセルと異なるヘッダをもつ場合だけ読み上げるか,を指定する。
視覚的レンダリングではデータセルとヘッダセルとの関係が2次元平面内に展開されるが,音声レンダリング用のスタイルシートはこのpropertyを用いて,ヘッダをどの位置で読み上げるかを指定する。
HTML5は文献[15]にForming a tableのclauseがあるだけで,tableの構造の拡張は行っていない。CSS3はCSS3 module: Tablesを参照しているが,そのモジュールはforthcomingとなっている[16]。したがってWeb文書の表の音声レンダリングに関しては,とりあえずHTML 4.0とCSS2の規定を参照すれば充分である。
axis属性が指定するヘッダセルの分類の中でaxisid属性(拡張提案)の値に対応付けられたヘッダセルの内容を,データセルのheaders属性の値にそのaxisid値を指定することによって,データセルの内容の見出しとして前置させることができる。
もともと表は論理構造としての多変数関数の2次元レンダリングにほかならず,多変数関数をどのように2次元に展開するかは,スタイル指定が行うべき課題である。しかし多変数関数を記述言語で表記することが煩雑であるため,HTMLではtr要素とtd要素(またはth要素)とによって,はじめからレンダリング結果を想定した2次元に構造を簡素化して,表を記述している。しかし音声レンダリングに際しては,2次元空間の概念がないため,そこで導入されたheaders属性によって多次元の構成要素を記述できる。
たとえば,3変数X, Y, Zをもつ関数
F = F(X, Y, Z), X = {X1, X2}, Y = {Y1, Y2}, Z = {Z1, Z2}を考える。この関数の2次元レンダリングの例を図1および図2に示す。
|
| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
図1 F(X, Y, Z)の値表示1 | 図2 F(X, Y, Z)の値表示2 |
例えば図1の3次元の表を音声レンダリングしようとすると,次のような属性指定を行うことができる。
これの音声レンダリングは次のようになる。
この3変数関数Fは図2のように表レンダリングされることもあるが,通常のHTML記述では構造そのものの書き換えが必要である。しかしここに提案したような音声レンダリング用の属性指定が施されると,その属性によって出力順序を変える(CSSの'speak-header' propertyに拡張が必要)ことによって,図2に対応する音声レンダリングも可能である。
視力等の認知能力の低下に対する文書の読み易さへの対応を,主として文書スタイルオブジェクトの視覚的配慮に関して検討した。ここでは既存の文書スタイルオブジェクトの選択,パラメータ変更によって対応したが,今後はさらに新たなスタイルオブジェクト(例えは電子的表示メディアにおいて可能になるスタイルオブジェクト)の導入も検討することが望まれる。
既存のHTMLにおける表の音声レンダリングの属性によって,本来の表としての多変数関数の論理構造が記述できることを確認し,CSS propertyを拡張することで,多様な音声レンダリングが可能になることを示した。そのためのCSS propertyの拡張について,さらに検討を加える予定である。
高齢者にも読み易いという目的を満たす文書スタイルオブジェクトを追及すると,それは,スタイルオブジェクトを変更可能,またはそのパラメータを設定可能なスタイル指定機能を備えたディジタル文書によって充足されることが示された。その設定内容は読者の視力等の認知能力,馴れ,好みに依存する。したがってその設定情報は,文献[17][18]等で検討されている個人化情報にほかならず,今後ここで検討したような自由度の高い読書端末が普及すれば,それの設定情報は個人化情報交換の対象として考える必要がある。
<table border="1">
<tr>
<th colspan="2">X<th colspan="2" axis="X" axisid="X1">X1
<th colspan="2" axis="X" axisid="X2">X2
<tr>
<th colspan="2">Y<th axis="Y" axisid="Y1">Y1<th axis="Y" axisid="Y2">Y2
<th axis="Y" axisid="Y1">Y1<th axis="Y" axisid="Y2">Y2
<tr>
<th rowspan="2">Z<th axis="Z" axisid="Z1">Z1
<td headers="X1 Y1 Z1">F(X1,Y1,Z1)
<td headers="X1 Y2 Z1">F(X1,Y2,Z1)
<td headers="X2 Y1 Z1">F(X2,Y1,Z1)
<td headers="X2 Y2 Z1">F(X2,Y2,Z1)
<tr>
<th axis="Z" axisid="Z2">Z2
<td headers="X1 Y1 Z2">F(X1,Y1,Z2)
<td headers="X1 Y2 Z2">F(X1,Y2,Z2)
<td headers="X2 Y1 Z2">F(X2,Y1,Z2)
<td headers="X2 Y2 Z2">F(X2,Y2,Z2)
</table>
X1 Y1 Z1: F(X1,Y1,Z1), X1 Y2 Z1: F(X1,Y2,Z1), ...
5. むすび
文献