2. 凸版書体の改刻と電子化時代の文字 (講演要旨)

田原 恭二 (凸版印刷)


最近、スマートフォンやタブレットなど、紙の印刷物ではなくスクリーンで文章を読む機会が増えていると思います。電子デバイスによる文字の表現は、これまでの印刷物とは原理的に異なるため、人間感覚として、電子デバイスで文章を読んで「読みやすい」と感じたり、「息づかいや、テンポよく読める」と思える文字は、いままでの書体開発とは少し違った工夫が必要なのではないでしょうか。このような問題意識をもとに電子化時代の文字について、あらためて考える必要があると思います。

凸版印刷のオリジナル書体(凸版書体)は1956年(昭和31年)に金属活字として誕生し、以来、本文の組版に適した平明単純で親しみやすい書体として、出版分野などで使われています。これまでに、組版作業のコンピュータ化やDTPの普及によるフォント形式の汎用化など、時代の要請に応じて更新を行ってきました。そして2013年、電子デバイスで文章を読むということに代表されるような、電子化時代のくらしにふさわしい文字のありかたを追求し、よりよい読書環境をご提供するために、約半世紀ぶりに新たに字母からつくる「改刻」をスタートさせました。

この新しい凸版書体は「凸版文久体」と名づけました。この名前には〈文芸をはじめ、文字による情報表現に永久に関わっていきたい〉という願いが込められています。

本講演では、凸版書体の歴史的な経緯をご紹介したうえで、今回の凸版書体改刻のポリシーやデザイン的な特徴などの解説を行います。さらに、今回の改刻を通じて見えてきた日本語書体のこれからの方向性やフォントファミリーとしての考え方などについても提言を行います。凸版文久体は、「また新しいフォントが発売されたね」ということではなくて、日本語の書体開発のターニングポイントとなり得る、ちょっと事件的な、他に類を見ない新しい考え方に基づいた設計になっています。その魅力を余すところなくお伝えしたいと思います。