モノクロフィルムの現像(薬品編) 

[現像のお話し Vol.06, 2000年10月03日UP]

 これをご覧になる方は「モノクロ」に興味をお持ちの方と思いますが、薬品なんて市販品を買ってきて使えば何の手間もいりません。 書こうと思えば簡単に書けるんですが、おやじはへそ曲がりなので思いっきり難しくしてみました。 ひょっとすると、化学が苦手な人や興味がない人には「なんのこっちゃ」かもしれませんね。(^_^;)  でも、これを理解しなければ現像できないわけじゃありませんので、気楽にやりたい人は覚える必要ないと思います。


・薬品取り扱いの基本

 一応、How To らしいことも押さえないと「写真屋さん」に載せる意味ないんで基本的な話しを書きます。

1.決められた条件で溶かす
 まず薬品を溶かして指定された「液体」にするわけですが、容器や箱には決められた「容量」とか「温度」が載っています。 つい慣れてくると手を抜く人も多いですが、やっぱり基本は守りましょう。 特に「容量」についてですが、容器が小さいからと半分の水に薬品を半分だけ入れて溶かすのはやめましょう。微妙な成分が狂ってしまいます。

容量を守ることは問題ないと思いますが、「温度」には注意を払ってください。 現像液は約40度くらいのお湯にときますが、冷えるまですぐに使えないからと水で溶くのは止めましょう。 また、定着液は30度以下の水に溶くのですが、29度くらいだと溶解中の発熱で30度を超えてダメになっちゃいます。 夏場は面倒ですが、やはり決められた温度条件は守りましょう。(^_^;)

2.薬品を混ぜない
 溶かす時はメスカップや攪拌棒、温度計などの道具を使いますが、続けて次の薬品を入れると前の液が残っていて混ざってしまいます。 面倒でも良く洗ってから使いましょう。(当然、貯蔵するポリビンも古い薬品が残らないようにきれいに洗っておきます)

3.溶かすのは前日までに
 粉末の薬品は水中で消えるのでいかにも溶けたように見えますが、沢山の種類が混ざり合ってるので安定するまでに時間がかかります。 より良い結果を得るには、少なくとも使う前日に溶かして準備しましょう。

溶いたばかりの薬品で現像すると、粒子が荒れたり処理結果が安定しなかったりします。 もし、すぐ使いたいのであれば、粉末でなく「液体」の薬品を買ってきましょう。 これは調合された薬品が濃縮されたもので、決められた濃度に薄めて使うものですが、最近ではすべての薬品にこの液体タイプのものが用意されています。

4.保管は冷暗所で
 溶いた薬品は出来るだけ空気の入らない密閉ビン(ポリビン)で保存しますが、もうひとつ重要なのは「暗い」ところに置くことです。 薬品の中には光にあたったり、温度が上がったりすると劣化するものがあります。

具体的な薬品の保存については、説明書についてる期間を確認してください。おやじの経験だと3ヵ月くらいと思いますが、 これはあくまでも「未使用」の場合で、何回か使った状態で保存するなら1ヶ月が限界と思います。 まあ薬品ですから多少古くなっても使えますが、処理能力が劣化してきますので「いい結果」にはつながらないでしょう..。

・薬品の種類と目的

 現像に使う薬品は沢山ありますが、基本的には「現像液」「停止液」「定着液」の3種類です。

現像液
この薬品は読んで字のごとく、現像する液です。アルカリ性の薬品で、感光したフィルムのハロゲン化銀(イオン化した銀)を「酸化還元反応」 で金属銀(黒色の画像)に変えるものです。この薬品は目的や性能の違いで数多くの種類があるんですが、 「見えない画像」を「見える」ようにするという役目は同じです。
停止液
現像液がついたままのフィルムは放っておくと、どんどん画像が濃くなっていきます。そこでアルカリ性を中和する 酸性液で現像を「停止」するのがこの薬品です。通常1.5%の酢酸溶液ですが、ただの水を使う人もいます。 この停止は省いても問題ないんですが、定着液に負担がかかるので処理本数が多い場合は使った方がいいでしょう。
定着液
現像処理されたフィルムの画像は、余計な銀(乳剤)が残っていて不透明です。 このままではまだネガにならないんで、画像以外を取り除く薬品がこの「定着液」です。 もとはハイポ(チオ硫酸ナトリウム溶液)という単純な薬品なんですが、今は改良を加えた「酸性硬膜定着液」が一般的です。 「硬膜」というのは水で柔らかくなったフィルム面を硬くすることです。
水洗促進剤
定着液の成分が残っていると、ネガを保管してるうちに黄変したりしてきます。 それで定着の後のフィルムは薬品を洗い流す「水洗」をするんですが、ハイポはなかなか落ちにくいんです。 いくら硬膜してあっても、水に長時間つけているとフィルムがふやけて画像が荒れる場合がありますので、 この促進剤で水洗を助けるわけです。でも、必ず使うとは限りません。
ドライウェル
ドライウェルは富士フイルムの商品名です。水洗が終わったフィルムは乾かせばいいんですが、 水滴が付いたまま乾かすと斑点のムラになってしまいます。普通は専用のスポンジで拭きとるんですが、 濡れたフィルムは傷つきやすいので触るのが嫌な人はこの薬品を使います。中身は薄い中性洗剤みたいなものです。

・薬品について

 薬品はいろんなメーカーからいろいろな名前で「商品」が販売されているんですが、これはあらかじめ調合されていて水に溶かすだけのものですね。 これ以外に、単体の薬品を買ってきて自分で調合する人たちもいます。(世の中には、調合は知られているけど市販されていない薬品が山ほどあります。) というわけで、すべてをここに紹介することも出来ませんので、おやじが使ってるものを中心に一般的な話しをしたいと思います。

・現像液「以外」の薬品

 なぜ「以外」なのかというと、現像液は山ほど種類があるからです(^_^;)。 言いかえれば、他の薬品にはあまり種類はありませんし、メーカーが違ってもほとんど同じようなもんです。 たとえば、停止は水に「酢酸(純度70%)」か「氷酢酸(純度100%)」を入れるだけですし、水洗促進剤やドライウェルは使わなくとも現像できます。 唯一、定着液には「普通」のものと「迅速タイプ」の2種類ありますが、処理時間に違いがあるだけです。 (ただ、迅速タイプはハイポ以外の薬品で出来ているものが多く、処理時間を守らないと画像に影響することがあります)


・現像液の種類

1.目的別の種類(ごく一般的な分類)

〔標準現像液〕

一般フィルム用
名前の通り標準的な現像液です。一般的な感度のフィルムと組合わせますが、ISO32から800くらいまで使用できる幅広さも持っています。 粒状性は標準的ですが、1番の特徴はトーン(階調)の豊富さと美しさでしょう。 現像するちからは強い方で、400の感度を800にするくらいの増感も可能です。あらゆる意味で基本的な現像液で、 有名なものとして「D−76」があります。他の現像液はD−76を手本や基準にしているものがほとんどです。
D−76

フジドール
SPDなど
〔微粒子現像液〕

低感度フィルム用
こちらは現像時の粒子の生成を抑制することで、きめこまかい粒状性を出すために使う現像液です。 美しい粒状感が得られる反面、銀粒子の抑制作用から「感度低下」を起こします。したがって、粒子を大きくすることで感度を上げている高感度フィルムには向きません。 100以下の低感度フィルムに使いましょう。現像力自体は弱い方で増感は出来ない上に、露出不足のコマはまったく濃度が上がりません。 撮影時の露出に注意を必要とする現像液です。
マイクロドールX

ミクロファイン
など
〔増感現像液〕

高感度フィルム用
モノクロフィルムは、400までの感度がありますがこれを「増感」することが出来ます。 増感は現像時間を決められた時間より長くすることで、見かけ上の感度を2倍や4倍にすることですが、粒状性はどんどん悪化してしまいます。 標準現像液でも増感できるんですが、より強い現像力を持った専用の薬品がこの増感現像液です。 SPDのように標準と増感のどちらにも使えるものもありますが、基本的には増感専用と思ってください。
マイクロフェン

SPDなど
〔特殊現像液〕

特殊フィルム用
これは、特殊な目的のフィルムの専用現像液です。一般的に使われることはほとんどありませんが、 いろいろな理由から通常の写真に使う人たちもいます。(具体的には、複写用のハイコントラスト処理や、極微粒子の処理、 逆に粗粒子の表現や超軟調仕上げなどがあります。)もちろん組合わせるフィルムは特殊なものになりますので、 普通のモノクロフィルムにこの現像液だけを組合わせてもあまり効果は期待できないでしょう。
POTA

リス現像液
など


2.成分的な種類

 いよいよマニアックな話しですが、現像液の成分で種類わけしてみます。 現像液はそれ自体が現像を担当する「現像主薬」と、それ以外の成分(現像促進剤、保恒剤、かぶり防止剤、酸化防止剤など)で出来ています。 それぞれの薬品も理由があって使われていますが、現像液の性格を決めるのは「現像主薬」の種類が重要になってきます。 そして、通常の現像液では下の3つの現像主薬を組合わせることで作られています。

通称
薬品名
略号
特徴
メトール
メチルパラアミノフェノール硫酸塩
昔から使われている優秀な現像主薬。微粒子でシャドウ部分の描写にすぐれ、軟調ながら階調豊かな現像結果がえられる。 現像する力が弱いため、画像の立ち上がりは速いが濃度の上がり方は遅い特徴がある。増感処理や大量な本数を現像するのには向かない。
フェニドン
モノフェニルトリピラゾリドン
メトールより後で使われるようになった現像主薬。メトール同様に軟調微粒子でかつ階調再現性に優れている。 メトールよりも酸化や疲労に強いため、同じ現像時間で使用できる本数はフェニドンの方が多い。 濃度の上がり方が遅くて増感には向かないこともメトールと同じ。
ハイドロキノン
1・4ベンゼンジオール
1電荷のメトールやフェニドンと違い、2個の電荷でパワフルな現像ができる主薬。かなり硬調で濃度の上がり方が速い特徴を持つが、 現像の立ちあがりが極めて悪く、一気に画像が濃くなるため単体では現像液としては使えない。通常、メトールやフェニドンと組合わせて使用する。

 上の3つの薬品は、通常MQ(メトール+ハイドロキノン)とPQ(フェニドン+ハイドロキノン)に組み合わされます。 他にM単(メトール単体:D−23やD−25など)やP単(フェニドン単体:POTAなど)の現像液もありますが、市販品は少ないです。 そして、PQとMQには以下のような特徴があります。

MQ現像液
昔から使われている現像液のスタンダード。現像の立ちあがりとシャドウの再現をメトールが行い、濃度の向上をハイドロキノンがサポートする。 非常に扱いやすい処方だが現像本数によって能力が低下していくため、3本目からは現像時間を2〜3割、5本目からは5割以上延長する必要がある。 希釈して現像液を使い捨てていけば時間の問題はなくなるが、PQに比べると粒状性がやや荒れやすい印象がある。 原液で使ってあまり本数を処理しない場合に向いていて、個人的には階調表現がPQより優れていると思う。 なお、比較的新しいモノクロフィルムの中にはPQを前提に開発されたフィルムがあり、MQだと良い結果にならないものがあるので注意。
D−76

マイクロドールX
など
PQ現像液
新しく発売された現像液に多いタイプ。MQよりも酸化に強く、現像能力も落ちにくい特徴を持つ。よって、5本くらいなら現像時間は変える必要がなく、 10本近く処理しても2〜3割の時間延長で使用できる。希釈にも適正が良く、1:1を越えなければ粒状性もそれなりに抑えられる。 保存性もいいので少量から大量処理の現像にも使えるが、保証された処理本数は守る必要がある。 個人的にはMQと比べると硬調な印象で、ネガの肉乗りが良いせいで硬く仕上げたときのハイライトは白飛びしてプリントしづらい。 新しいモノクロフィルムに対する適正はいいが、組合わせの好き嫌いはMQよりあるように思われる。
フジドール

ミクロファイン
など

※希釈現像・・・現像液を薄めて使うやり方。フィルムや現像液の種類で使用できない組合わせもある。 薄まった現像液はシャープさを増す「エッジ効果」と、階調を柔らかくする効果がある。 また、足す水の温度を設定すれば、現像液の温度をコントロールできるメリットもある。 欠点としては、粒状性が荒れてしまうことと、コントラストのない被写体は軟調になりすぎることがあげられる。


・まとめ

 今回は薬品だけで書いたので銘柄による違いとか、細かい使用方法はまったく書いていません。今後の「実技編」や「上級編」 で説明していくつもりです。ただ、最初にも言いましたが、モノクロフィルムの現像に「これが正しい」といったものはありません。(^_^;) 皆さんの研究心で是非面白いやり方を見つけてください。 なお、「写真相談室」で質問していただければ、 時間延長の比率や希釈の現像時間、調合する薬品の配合などの細かいこともお答えします。では、今回はこの辺で..。

今回の本文は出来るだけ偏らないように書きましたので、おやじのやり方も書いておきます。

 ・トライX (ありきたりですがD−76か、フジドール)
 ・プラスX (感度80で撮影してマイクロドールXか、100で撮影してフジドールの水2:原液3の希釈)
 ・ネオパンSS (D−76かD−23)
 ・プレスト400 (トライXのコピーなのでトライXに準拠)
 ・ネオパンF (めったに使いませんが、やるならマイクロドールXかD−23)

なお、現像液を自分で調合する人は下のデータをご参考ください。(たしかD−23は市販されていないです。)

 ・D−76 (メトール2g、無水亜硫酸ナトリウム100g、ハイドロキノン5g、ホウ砂2g /1000ml)
 ・D−23 (メトール7.5g、無水亜硫酸ナトリウム100g /1000ml)

※D−23は「M単」で、軟調な微粒子現像液です。現像温度が20度だとちょっとつらいので、23度以上で使います。 (2002/10/04追記:BBSで「かい」さんから情報があり、D−23はNNCから市販されてるそうです)

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