モノクロフィルムの現像(上級編) 

[現像のお話し Vol.08, 2004年06月06日UP]

 書き始めてから何年もかかった更新になりましたが、ようやくモノクロ現像(フィルム)の完結になります。 今回、これを書くまでずーっと悩んでいたことがあります。それは、一体何を持って「上級」としたらいいのかと..(^_^;)。 というのも、コンテンツを考えた5年前と比べると、今のネット上に解説の充実したサイトが他にも沢山あります。 それに「実技編」に詳細や補足を付け足しても、それで「上級」にするのは気が引けます。

 ということで、「おやじの写真屋さん」で語る「上級」ですから、解説書なんかとは違った観点で書きたいと思いました。 そこで考えたのが、今回の「季節」によるモノクロ現像のお話です。(^_^)


・モノクロ写真を決める要素

 モノクロ写真を決める「要素」って何でしょう?。「フィルム」でしょうか?、「印画紙」でしょうか?。 はたまた「現像液」や「レンズ」、「光」、「露出」、「引伸し機」「テクニック」..etc。まあ、挙げればキリがないですね(^_^;)。 1つだけ言えるのは「カメラ」ではないことで、実は「全て」の要素がモノクロ写真の出来あがりに影響してきます。
 つまり、全てコントロールして写真に仕上げるのが「究極のモノクロ」で、これこそまさに「上級編」と言えるでしょう。 でも、そんな事が出来る人は限られているし、いきなりやれといって身に付くものではないですね。(^_^;)

 では具体的にどうすればいいのか?。
 まずモノクロ写真において、最も大事なことは「撮影の時の露出だけではない」ことを理解しましょう。 こう書くと「えっ!」と驚くかも知れませんが、もちろん露出は大事ですよ。 でも、その「露出」は、「現像」のことを考えて決める露出でなければいけません。

[ 目的 ]
 
[ フィルム選び ]
 
[ 現像方法 ]
 
[ 露出 ]
風景なので階調豊かで微粒子に仕上げたい 35mmで四つ切に焼くから、感度は100のフィルムだ 微粒子現像液を使うから、感度低下も起こるだろう ここはシャドウの多い撮影だから、露光はオーバーめだ

 ある程度数をこなしていれば、どんな撮影をするにも「全く予想がつかない」ことはないと思います。 そこで事前に想像したイメージ(作品にしたい画像)を元に、フィルムや現像方法のプランを立てます。 つまり、このようなプランを元に撮影したフィルムを、当初の予定通りに処理する。もし天候が変わったり違う状況になっても、 撮影の時の変更を現像で対応する。これが出来れば、究極のモノクロ現像ですね。(^_^)

 おやじもそうですが、「特定のフィルムを常用している人」はどうすればいいのか?という疑問も湧きます。 でも、常用するくらい使ってるフィルムなら、「露出の取り方」や「現像液」、「希釈の有無」での出来あがりは予想できます。 つまり、上のチャートの[ フィルム選び ]がないだけで、後の現像のことを考えた「露出」で撮るのは同じことになります。
 最初は難しいと思いますが、慣れてくると意識しないでも出来るようになるから不思議ですけどね。(^_^)

 それでは、具体的な説明に入って行きたいと思います。
 一応、書いておきますが、これは「おやじのやり方」で、これをマネしても「基本」とは違いますよ。念のため。(^_^;)


・「春」のモノクロ現像 …春は、あけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは..

[光の傾向]
 まず「光」のことから説明しますが、春の陽射しは軟らかいです。初夏に近づくとやや光線も強くなりますが、 それでも夏に比べれば光が良く回って、影もそれ程きつくないです。程よいコントラストを活かして撮るには、 1番いいシーズンと言えるでしょう。なお、この時期には「梅雨」もあるんですが、梅雨時の空は意外と光が明るいです。 紫陽花などを撮る時は、梅雨空の方がしっとりした写真になりますし、雨の日も撮影できるのが春の良さですね。

[フィルム]
 別に変わったフィルムを使う必要はないですが、おやじなら普通に100か400でしょうね。 常用しているトライXやプレストで普通に撮ってもいいし、100できれいな微粒子を狙って見てもいいですね。 ただし、太陽の出てる時間は夏ほど長くはないので、三脚を使いたくない時は400を選択する方がいいかもしれません。

[現像・露出]
 この季節が1番いいのは、液温をあまり気にしなくていいことですね。液温を調整しなくても20度前後の温度になるので、 多少の温度差は現像時間で調整できます。また光線状態もいいので、ノーマルな標準現像で十分に再現性のいい階調が期待できます。 今は多階調印画紙もありますので、もっとも現像の楽な季節でしょう。
 ということで、露出に関しても普通にやるのが1番いいでしょう。フィルムの感度通りでノーマルに撮るだけです。 特に増感や減感の必要もありませんが、微粒子現像液の「感度低下」に関してだけは撮影で補正しておきましょう。


・「夏」のモノクロ現像 …春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ..

[光の傾向]
 夏は日照時間が長くなるので、撮影には向いているような気がします。でも朝方ならいいんですが、 昼間は太陽の角度が高く、コントラストがきつくなりますね。もし何の工夫もなしにポートレイトを撮れば、 顔に出る影やまぶしそうな表情に困ることになるでしょう。(^_^;)
 また陽が傾く夕方も、影が長く伸びて作画には面白いんですが、色温度の低い(赤い)光なので見た目以上にコントラストがつきます。 このシーズンは、朝以外はコントラストが高くなると考えて、その対策をとらないとうまく焼けないネガになりますね。
 なお、雨の日は夕立や激しい降りが多いので、撮影には向かないでしょうね。おやじは撮ったことありますけど..。(^_^;)

[フィルム]
 普通に考えれば100でいい季節ですが、暗くなってからも撮ることが多いなら400も使うでしょう。 そういう意味で、トライXやプレストは万能に使えて便利なフィルムですね。特に夏向きのフィルムはないですが、 コントラストが高いフィルムは避けた方がいいかも知れません。

[現像・露出]
 まず、夏はコントラスト対策の露出や現像になりますね。1番大きな点は「希釈現像」をどうするかでしょう。 この季節は液温がすぐに30度を超すので、冷水で薄めれば23度に調整できる希釈は便利です。 ただ希釈は、露出によってシャドウ描写が不足気味になったりします。 ハイライトは飛びにくくなる現像法なので、やや多めの露出が効果的かも知れません。

 もし「希釈」をしないのなら、思いきって減感するのも方法のひとつです。100でやると撮影感度が低くなるので、 400を1段か2段下げるのがいいでしょう。ただ、減感は現像時間が短くなります。夏の高い液温でやると時間調整が難しくなるので、 液温を下げてきちんと管理するようにしましょう。

希釈現像
 これは現像の本などにも説明が載っていますが、現像液を水で薄めて使う方法です。薄めて使うので現像液は使い捨てになるんですが、 新液で行う分、安定した現像をすることにもなります。メリットとデメリットを挙げると、下のようになります。
 ・画像がシャープになる(エッジ効果) ←→ 粒状が粗くなる
 ・コントラストが下がる、階調が豊かになる ←→ 光線状態によっては軟調になる
 ・露光オーバーや現像オーバーに強くなる ←→ 露光アンダーや現像不足に弱い

 おやじは夏場に良くやっていましたが、希釈については皆さんの好みもありますので選択はご自由に..。(^_^)


・「秋」のモノクロ現像 …奥山に 紅葉ふみわけ 鳴く鹿の 声きくときぞ..

[光の傾向]
 秋は夏の気分を残しつつ、日暮れには冬の光線が入ってくる季節ですね。天気のいい昼間は夏のようにも感じますが、 空が高くて澄んだ空気感は一味違いますね。1番驚くのは光の変化で、日照時間が短い割に朝昼晩で光が大きく変わります。 その点では撮影が面白いんですが、春とは違い安定した条件は得られないです。
 夏ほどコントラストに気をつけなくてもいいですが、角度が低くなる太陽の影とすぐに暮れる夕日の色温度には注意が必要ですね。

[フィルム]
 100でも十分撮れるいい季節ですが、夕方の光を狙うなら400もいいです。 おやじはしませんが、100をメインで撮影して、暗くなったら200に増感する方法もあります。 +1の増感なら標準現像液でも、現像時間を少し延ばすだけですからね。 芸術の秋らしく、いろんなフィルムを試してみるのが面白いかもしれません。(^_^)

[現像・露出]
 春よりコントラストが高くなりやすいですが、夏ほど極端にはなりません。 そういう意味では、光線や影、被写体の様子をコロコロ変える秋の気まぐれを楽しめます。 ただ1本のフィルムに違う条件が沢山入ってると、現像にはちょっと苦労しますね。  春とは違った意味で、「標準露光」と「標準現像」をきっちりとする季節かもしれません。 温度管理がしやすいのは春と同じなので、モノクロを練習するにはいい季節と言えるかな..。(^_^;)

秋の空とフィルター
 秋は澄んだ青空になります。その分、カラーでは空の青さが増しますが、偏光やYフィルターの効果が増しますね。 フィルターワークはやり過ぎると不自然な写真になりますが、効果が季節や太陽の角度で違うことを知っておくのも勉強になります。 こうやって考えると、四季がある国に生まれたのは、大変恵まれたことなのかなぁ..と思います。 モノクロで季節感を出すには「腕」が要りますが、出来るようになったらとても嬉しいですからね。(^_^)

 食べ物もうまい季節なので、昼間は撮影、夜は一杯。そんな「おやじ」の季節です。(^_^;)


・「冬」のモノクロ現像 …朝ぼらけ ありあけの月と 見るまでに 吉野の里に..

[光の傾向]
 おやじは意外と好きなんですが、実は難しい光線状態が冬ですね。日照時間は1番短いし、光の強さも1番弱いです。 角度が上がらない太陽のせいで影は長く伸び、逆光はレンズテストになる程きつくなります。 まあ、これを利用した作品も面白いんですが、多少コントラストを抑える処理は必要でしょう。 雨の日だとコントラストは下がりますが、暗い(寒い?)曇り日になりやすいので撮影したくないです。(^_^;)

[フィルム]
 冬の場合は、やはり400がお奨めですね。三脚を使えば100でも使えますが、金属の脚は手が冷たい季節です(^_^;)。 外で撮るのもしんどくなるので、屋内で撮るケースも増えますね。場合によっては800以上の高感度も必要になるかもしれません。 もし最初から三脚を使う覚悟があるなら、100を減感するのがいいと思います。 おやじは学生時代に、プラスXを64で使ってました。

[現像・露出]
 光が弱いものの、コントラストはつきやすい。この冬場の現像は、とても大変です。 しかも、現像中の液温低下が起きやすいので、処理時間の長くなる希釈現像はあまり向かないです。 標準現像液を原液で使うことと、感度100クラスのフィルムを減感するのが1番いいシーズンと思います。 あと念のため書きますが、定着や水洗の温度管理も慎重にして下さいね。水洗のお奨めは、 もちろん「置換水洗」です。

冬の光とサイドライティング
 冬の日に縁側などで日向ぼっこをすると、ポカポカとして暖かいですね。これは太陽の角度が低いので、縁側や部屋の中に入って来やすいからですね。 このことを利用すると、部屋の中で擬似スタジオ的な「サイドライティング」が使えます。 窓の大きな部屋で椅子などを使うと、ちょっと違ったポートレイトが撮れると思います。

 これ以外にも「冬の朝もやでソフトフォーカス」や、雪を使った自然の「レフ板」なども楽しめます。 おやじは学生時代に一通り試しましたが、寒さに耐える「根性」と芸術への飽くなき「探求心」があれば、冬の撮影はステキな季節です。 残念ながら、今のおやじには根性がありませんが..。(^_^;)

なお、影がきつくてシャドウが出にくい上に、ハイライトは飛びやすい季節なので、露出決定は慎重に..。


・上級編を終えて..

 と言うわけで、おやじの考えていた「上級編」がやっと出来ました。でも、書いてみて感じたのは、 「モノクロはこれだけじゃないよなぁ」ということです。でも、今回のおやじの話を参考にしてもらえれば、 皆さんオリジナルの「モノクロ」を作り出すことは出来ると思います。

 しかし、今回の「四季の違い編」以外にも、「朝昼晩」や「場所・地域」、 「国別」「夜景」「海」「山」「ライブ」「スタジオ」...書いていてキリがありません。 もし、おやじが生きてる内に経験出来るなら、「宇宙編」や「深海編」も書けるだろうと信じております。(^_^;)

 おやじにとってきっと終わることのない「モノクロ写真」ですが、だからこそ20年以上も楽しんでいるんでしょう。 デジタル時代で感材がなくなる可能性も出てきましたが、この世に残っている限りおやじは楽しんでいるはずです。 なお、今回の内容でわかりにくい点、コンテンツに無かった質問・疑問などは、 今まで通り「写真相談室」で受けますのでご心配なく。(^_^;)

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