インクジェット用紙の種類 

[デジタル機器のお話し Vol.08, 2001年11月18日UP]

 最近のデジカメやパソコンの普及で、写真のプリントを「インクジェット」でやる人も多くなりました。 おやじも仕事がら周囲から良く相談されますが、決まって「どこのメーカーのプリンターがいいの?」と聞かれます(^_^;)。
 確かにプリンターの性能にも差はありますが、適当なコピー用紙なんかだと違いはあまりないですね。 特に、写真に使うような目的では、それなりに性能のいい用紙(最近は「プリントメディア」と呼んだりします)を選んだ方がいいと思います。

 ということで、フィルムや印画紙ほど気にしない人も多いですが、今回は用紙の種類と写真に使うための注意点を書いてみます。


・「インクジェット」って?

 インクジェットとは、インクを噴出して紙にドット(点)を打つ仕組みのことです。 右の図のように、細い管(ノズル)からインクを打ち出すわけですが、ストローでインクを紙に一滴落すようなイメージです。 この時、紙に落ちたインクが「点」になるんですが、横に並べて「線」にしたり、縦横に敷き詰めて「面」として画像を作ることも出来ます。 つまり印刷した線や文字や写真も、全てはこの「点(ドット)」で書いてあり、一般に「ドットプリンター」と呼ばれます。

 このノズルは通常何十個から何百個と付いており、この部品のことを「印字ヘッド(単にヘッドとも言う)」と呼びます。 プリンターには「Y」「M」「C」「K(BK)」の色ごとにヘッドが用意され、点の色を変えることでフルカラーを作り出すことが出来ます。

 最近のプリンターでは4つの基本色以外に薄いインク用ヘッドがあったり、ドットの大きさを変えて印字する技術などが実現しています。 そのため、本来ドットプリンターは「解像度(dpi)」で画質が決まるんですが、インクジェットについては一概に言えなくなりました。(^_^;)

・「ヘッド」の種類
 インクをノズルから飛ばすインクジェットですが、その方式には2つあります。 1つは、電気信号で変形する金属板がインクを押し出す「ピエゾ(エプソン)方式」と、 熱でインクに発生する「気泡」がはじけて押し出す「バブルジェット(キヤノン)、サーマルジェット(HP)」です。 昔のピエゾにはドットを速く打ち出せない欠点があり、バブルにはドットの大きさを変えられない欠点がありました。 今は技術の進歩で双方とも性能が向上し、方式の差がわからないほど肩を並べています。


・「インクの種類」

 別に説明しなくても良かったんですが、後の保存性にかかわるので一応触れておきます。
(いつものように「必要ない」と思った方は、先に進んでください。(^_^;) プリンターが使うインクにはいろんな種類があるんですが、大まかに「成分」と「素材」に分かれます。

 まず成分ですが、「水性(水ですね)」と「油性(溶剤です)」の2種類があります。これはボールペンやマジックなんかでもありますよね?。あれと同じです。 インクの乾き具合は油性の方が早いんですが、ちょっと薬品っぽい匂いがします。また他にもヘッド詰まりなどを起こしやすいので、 一部の業務用を除いて通常のインクジェットは「水性インク」になります。

 さて、次に「素材」の違いですが、これは「色材」といって色を出す成分のことです。 これにも2種類あって、1つは「染料」と呼ばれる水溶液です。 「染物」などにも使われてるような化学薬品に近いものですが、液中に分子サイズで成分が溶け込んでます。 イメージとしては、色が付いてる「透き通った液体」とお考え下さい。(右上の図を参照)

 一方の顔料はいわゆる「粉(正確には粒子)」を水に溶いたものです。水自体に色は付いておらず、色の粒子が水に漂っているのでこちらは不透明です(右下の図を参照)。

 何の粉かというと、金属の化合物や鉱物だったりするんですが、例えば黒インクには「カーボン(炭素)」が使われています(鉛筆の芯を粉にしたようなもんですね)。 イメージ的には「味噌汁」に近いんですが、沈殿しないように出来てますので底に固まったりはしません。(^_^;)

 顔料と染料の1番の違いは、色の劣化に対する耐久力(耐光性)です。色素が分子レベルの染料は、紫外線やガス酸化、温度や湿気によって徐々に分解されてしまいます。 これは顔料も同じなんですが、固形物で安定してるため染料よりかなり持つことが出来ます。その分発色がやや劣ると言われてましたが、 最近は技術の進歩でほとんど遜色ないですね。

 さて、インクの種類をまとめると、「水性染料インク」というのが最も一般的です。 安定性が良く、発色もきれい。水が染み込むものであれば、あまり用紙を選ばずに印字できます。 ただし、インクの性質上耐光性にはやや欠けるので、実は展示用のプリントや長期保管にはあまり向かないんです(^_^;)。

・「顔料インク」
 今じゃ業務用では当たり前になりましたが、家庭用の小型機にはまだほとんど採用されていません。 別に技術的に難しいわけじゃないはずですが、家庭用ではあまり要求がないんでしょうね..。(^_^;)
 一方の業務機は出力物を「商品」として販売し、主にディスプレイや屋外看板や掲示物などで使用されています。 こういった用途は短期間で色褪せても困るし、それが出来ないと出力物が「商品」になりません。 (だって、家庭でやるのと同じなら、わざわざお金払ってお店に頼まないですよね。) ということで、業務用のプリンターは「大型機」になり、ほとんどが「顔料インク」を採用してるんですね。(^_^)


・インクジェット用紙

 一口に「用紙」といっても、「紙」や「フィルム」、変わったところで「転写紙」や「布」なんかもありますね。 でも、1つだけ共通しているのは「インクを吸う」ように出来てることです。当たり前と思うかもしれませんが、 ただインクを吸えばいいわけじゃなく、「吸収量」や「吸収速度」、「乾燥性」や「ドット再現性」などいろんな性能を要求されます。 実は、プリンターを活かすも殺すも「用紙」次第なんですね。(^_^)

 さて、その最近のプリンターなんですが、今じゃ解像度も高く、色数も多くなってきました。 昔は遅かった速度も、かなり上がりました。 でも、そのことで「紙」がついて行けなくなり、今では「インクジェット専用紙」が主流になっています。 この専用紙は普通の紙とどう違うと思いますか?。実は表面に特殊な処理がしてあるんです。 この処理のことを「コーティング」と呼ぶんですが、下のような種類があります。

・膨潤タイプ
 インクを吸う仕組みには2種類あり、膨潤と多孔タイプに分かれます。「膨潤」は「ぼうじゅん」と読むんですが、 「寒天」のように水で溶ける樹脂を薄くコーティングしたもので、インクの水分で溶かされて染み込む仕組みです。

 割と昔からあるもので、比較的簡単に作れます。ですが、印字した後の乾きが遅く、水や湿気に弱いという欠点もあります。
・多孔タイプ
 こちらは「たこう」タイプと読み、他にも「空隙(くうげき)型」などと表記されています。 これは「スポンジ」のような構造で、小さなミクロの穴がたくさん表面に空いてるものです。 インクは穴の中に吸い込まれるわけですが、表面自体は水に強いので、印字した後の耐水性に優れます。

 コストがかかるので主に業務用に使われていたんですが、最近一般用にも見かけるようになりました。

・特徴

種 類
利 点
欠 点
・膨潤タイプ ・比較的安い(特に光沢の用紙が安く作れる)
・インク吸収量が大(打ち込めるインク量が多い)
・乾きが遅い(印字後にペタつき感がある)
・顔料インクには対応できない(画質が良くない)
・耐水性はない(水滴で画像が滲む)
・多孔タイプ ・乾燥が速い(ものによっては速乾性)
・耐水性がいい(ただしインクにもよる)
・染料、顔料を選ばない(兼用できる)
・価格が高い(高級グレードの用紙が多い)
・光沢の用紙は作りにくい(マットは多い)

 これに当てはまらない特殊なものもありますが、大別するとこの2つに分類できます。 続いて、紙別に説明していきます。

[タイプ:紙] [価格:かなり安い] [インク:染料のみ] [画質:それなり] [保存性:短期]

 さて、もっともシンプルな紙ですが、意外と「わかりにくい紙」でもあります。 というのも、「普通」と書くと「ただの紙」と思いがちですが、実はただの紙ではありません(^_^;)。 これは普通の紙と同じように繊維で出来ていますが、各種プリンターでも使えるように作られてます。

 他にも、コピー機適性や、水性ペンで滲まないような薬品処理もされています。 このため「万能紙」として使える上に、最近ではインクジェットにもある程度対応してます。 とは言っても、高画質や耐水性、保存性などは期待できません。写真よりワープロ文書や線画向きの紙です。

 構造としては、紙の繊維が水を吸うのでインクを吸収しますが、水分で紙の平面性が悪くなります。 特に、塗りつぶしなどの部分では「コックリング」という波打ち現象が発生します。 白地には「蛍光増白剤」が入ってるため、ガスの酸化で黄ばむものも多いようです。

[タイプ:光沢紙/マット紙] [価格:安い] [インク:染料向き] [画質:まあまあ] [保存性:短期]

 普通紙では限界があるので、さらに表面をコートをしたものです。厚さや種類も多く、最も一般的なインクジェット用紙ですね。 基本的に「紙」ですが、コート層と紙の両方でインクを吸収し、ドットサイズを細かくコントロールできるので発色も良く、 細線もきれいに再現することが出来ます。

 薄手のコート紙だとやはり波打ちしますが、普通紙に比べれば平面性はいい方です。 用紙としては安い方でも、光沢は膨潤タイプなどが多いため、耐水性はあまり期待できません。 最近は業務用もありますが染料インク用が多く、保存性はあまり良くないようです。

 最後にこのタイプの用紙の注意点ですが、メーカーや銘柄によって非常に「差」が激しいことです。 一概に「こうですね」と言えない程グレードがあります。普通紙に毛の生えたようなものから、 この後に出てくる「フォト紙モドキ」まであって、なかなか用紙選びも苦労します。(^_^;)

[タイプ:フィルム] [価格:やや高い] [インク:染/顔兼用] [画質:良い] [保存性:中期]

 これは紙の部分を樹脂フィルムに置き代えたものです。フィルムは平面性に優れたポリエステル(PET)が多く、 水も吸わないのでコート層も厚くなってきます。コート層の性能でスペックが決まり、より膨潤と多孔タイプの差がはっきりしきます。

 用途としてはラベルやシール用に開発されたんですが、用紙自体が耐水性に優れるので業務用として普及しています。 しかし、コストが高いせいか、一般用にはあまり普及していません。あったとしても、膨潤タイプの光沢フィルムや透明フィルムがあるくらいです。 そのため耐水性や保存性もそれ程期待できず、シール(糊付き)以外にメリットは感じませんね。

 写真用には高くても多孔タイプを使いたいところですが、※クトリコ以外には商品化されてません。 業務用には光沢やマット調の優れたフィルムがいっぱいあるんですけどね。(^_^;)

[タイプ:印画紙] [価格:高い] [インク:染/顔兼用] [画質:良い] [保存性:中長期]

 写真を印字しようと思ったら、ほとんどの人が使う用紙でしょうね。 構造はフィルムと同じで、紙(RCペーパー)自体には水分は染みこまないのでコート層が重要になります。 昔は膨潤タイプがほとんどでしたが、写真の出力用途から最近は多孔タイプも増えてきたようです。

 ただし、紙としては高価で、値段はフィルム並になります。そこで外見では見分けがつかないのをいいことに、 「フォトライク」や「フォトペーパー」などの表記でコート紙を販売してるメーカーが多いのも事実です。 いくら安くても、保存性や品質が大きく違いますので購入の際にはご注意を..。

 なお、種類は意外と少なく、マットの用紙はほとんどありません。製品としても、今までは「○ニカQP」くらいでした。 でも、デジカメの出力用に使うなら、このくらいの用紙を使用したいですね。 ただし、インクの耐光性までは上げられないので、出来れば顔料を使いたいですが..。(^_^;)

・まとめ

 簡単に書くつもりが、今回も長々と難しい話をしてしまいました。読んでいただいたのに「わけわからん」かった人には申しわけないです。 でも、デジカメやプリンターの評価は良く雑誌に載ってますが、消耗品にのことは何の解説もなかったりします。 今回の話が、少しでも皆さんの用紙選びの参考になれば幸いですね(^_^)。もし解らないことがあれば、 「相談室」で気軽に聞いてください。

− OEM −
 実は、日本で「紙」と「印画紙」を製造できる会社はほんの数社です。 つまり「銘柄」は多いですが、パッケージを変えただけの「中味が同じ用紙」がたくさん出回ってます。 あまり「ブランド」にはこだわらず、自分の目で信じて用紙を選びましょう..。 でないと、同じものを高い値段で買うことも多くなってきます。(^_^;)

 買う時のヒントとして、電気メーカーやカメラメーカーは「紙」を作れません。 逆に、用紙メーカーにはプリンターやデジカメは作れません。 これらを考慮して、賢い選択で「高品質」を安く手に入れてくださいね。(^_^)


※このコンテンツは全て2004年以前に書かれたもので、情報によっては現在と合わないこともあります。
※もし内容について確認したいことがあれば、「写真相談室」へご質問ください。

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