「メーカーの都合です」 

【 ユーザー無視のAPSカメラ考... Vol.04, 2000年06月01日UP 】

 皆さんはAPSって知ってます?。 これって「 dvanced hoto ystem 」の略号だそうですが、 どこがAdvance(先進的)なんでしょうね? (詳細はここを参照)。 発売当事は「新写真システム」とか「次世代写真方式」なんて言葉が良く飛び交い、前触れだけは立派な規格でした。 でも、「ハイビジョンサイズ」なんて「本家」も普及し損ねたフォーマットを持ってるあたり、古くから企画されたことがわかりますね。 最近ではフィルムが入手しづらいとか種類が少ないなどの不満が出始めていますが、いったいなぜこの規格は生まれたんでしょう?。

※あらかじめ言っておきますが、今回の話は「写真好き」の楽しむ「写真」の話ではなく、 それ程写真には興味がないけど「写真は撮る」ようなコンシューマー市場を題材に書いています。 APSはもとより、コンシューマ機材に興味のない方は、ゴメンなさい_(._.)_。 でも、知らずにAPS使っている人は案外多いんじゃないかな..。

・日本(ちょっと)昔話

【第1話】 カメラメーカーの都合
 この規格が各メーカーで模索され始めた十年くらい前のこと、市場ではカメラの需要が頭打ちになりつつありました。 海外から安い製品も入りだし、国内のメーカーも悩んでいました。「どうやったら新しいカメラに買い替えてくれるんだろう」と..。 そこでメーカーは「新規格フィルムのカメラ」を作りだし、海外のメーカーに真似されにくい電子技術を導入しようと考えました。 そのついでに、ユーザーが喜ぶ「便利さ」や「小型化」などが加われば「新しいカメラに買い替えてくれるだろう」と思いました。

【第2話】 感材メーカーの都合
 高感度のカラーネガを一般的に使えるフィルムにした国内の感材メーカーは「次に何を作るべきか」悩んでいました。 一見儲かってしょうがない感材メーカーは使い捨てカメラまで作ってフィルムの売上を確保してるものの、迫りくるデジタル化の波に恐々と過ごしていたのです。 そこでデジカメやデジタルプリントが普及しても、将来も販売できそうな「デジタル情報を持った銀塩フィルムを作ろう」と思いました。

 さて、昔話風に言うと「それからどーした?」ってところですが、こんな自己都合をぶら下げたメーカー同士が意気投合しないわけはありません。 「お前のためなら俺がやる」という建前のもと、自己中心的な企業が己の利権をかけて喧喧諤諤の「規格」争いが発生しました(あくまでも水面下で静かに..)。 (なんか、今の「DVD」の規格争いを見るようですね。でも、1つ違うのは「ユーザー」が存在していないことです。)
そして、各社の意思統合に時間がかかったのか、「それ」が発売されたのは開発がスタートして6年以上もたった96年のことでした..。

実はこの90年代って、前半はデジタル写真の黎明期で、イメージング業界は将来の電子化に乗り遅れないことに必死でした。 そんな中、コンシューマー用途の写真はデジタル写真がユーザーの要求を満たせば「あっ」という間に置き換わる要素を持っていたんです。

「1.フィルムを買いに行く」 → 「2.撮影する」 → 「3.現像に出しに行く」 → 「4.写真を受け取りに行く」

上の中で「2.」は楽しめると思いますが、「1.」「3.」「4.」が楽しいという人はいないんじゃないでしょうか?。 何と言ってもすごいのは、「1.」と「4.」で2回もユーザーから金とってるのに、「1.」「3.」「4.」はユーザー自身に「足を運ばせている」ことです。(^_^;)

・やっと出たものの..

 満を持して登場したAPSカメラを見ても、なんか「わざわざ買い換えるほどのものじゃないなぁ」と思いました。 売りの「小型・軽量」は35mmに比べてやや小さい程度。フィルムの入れやすさも、一部のコンパクトでワンタッチを実現してたし..。 なんか出すのに時間がかかりすぎて、新商品のくせにメリットが目立たない「初心者用カメラ」という印象でした。(それにしてはカメラが高すぎましたが..)

 それに、35mm同等といわれた画質も良く見るとやっぱり落ちるし、デザインだけで売れた一部の機種を除くと不人気カメラが多いですね。 今じゃ感材メーカーがフィルムの出荷数を稼ぐためにAPSの使い捨てカメラを一所懸命販売してますが、どう見ても失敗に終わったように思います。

最近気づいたんですが、某大手カメラ量販店の店頭の使い捨てカメラがAPSしか置いてないのはなぜでしょう?。 感材メーカーの頼みでやってるんでしょうかね?。おかげで普通の35mmタイプを買うのに探し回り、結局コンビニで買いました。 そもそもフィルムを出し入れすることもない「使い捨てカメラ」をAPSにするメリットって何?。

また、ある時目にした35mmコンパクトカメラのカタログに「普通のフィルムを使用できるため、旅先でも入手が簡単」などと書いてありました。 もちろん、このメーカーはAPSのコンパクトもを出しています。カメラメーカーも撤退に入っているのか?。いやはやなんとも..。

 ところでこのAPSですが、なぜこんな中途半端なものになってしまったんでしょう?。 もちろん、当時のメーカーはかなり力を入れて市場調査をして「規格」を作ったわけです。 仮に発売するタイミングが遅くてカメラに魅力がなかったとしても、フィルムやシステム自体の評価とはまた別だったはずです。 ここで、新しい写真システムでメーカーがどんな機能を実現しようとしてたのか書いてみたいと思います。

[ユーザーの不満]
[その原因・要因] → [解決方法]
1.フィルムの装填フィルムを入れるのが難しい → 装填が簡単で巻き戻しの要らないカートリッジ式にしよう
2.カメラが邪魔コンパクトでも邪魔な時がある → カートリッジを今より小型にして、カメラをより小さくしよう
3.フィルムの途中交換途中だとフィルムの入れ替えができない → いつでも取り出せるようにして残量表示をつけよう
4.プリントの失敗撮った時の色とぜんぜん違う → 撮影情報をコマごとに入れてプリントの精度をUPしよう
5.現像が面倒出しに行くのが面倒で待つのが嫌い → コンビニ等に10分で終わる専用現像機を設置しよう
6.同時プリントが高い要らない写真までプリントしてくる → 現像前にモニターで確認・選択できるようにしよう

 他にも細かいものがありましたが、大体こんな感じでした。こうやって見てみると、今からやってもよさそうなネタもありますね。 でもメーカーはこれらを実現できる優れた技術者を抱えていたのに、すべて採用されませんでした。いったいなぜでしょう?。


・ユーザーの都合

 そうなんです。上の問題点はユーザーの都合から出たもので、企業の「商売」と合わないものがあったんです。 たとえば「1.」「2.」「3.」はカメラ側の問題で、技術的になんとかなればカメラメーカーは商品化できます。 また、従来のカメラに対してアドバンテージが生まれれば「商売」にも都合がいいわけです。 → というわけでこれはAPSに採用されて世に出てきたわけです。(ちょっと遅かった気がしますが..)

 ところが、「4.」「5.」「6.」は感材メーカーとラボ(現像所:感材メーカーの系列や子会社であることが多い)の問題だったんですが、 同時に「商売」でもあったわけです。 つまり「6.」の同時プリント要らない写真をプリントしてもらうことが、感材メーカーとラボの売り上げに貢献してるわけです。 また「5.」なんかが実現してコンビニの店頭で短時間で処理されちゃったら、現像で飯を食っている「ラボ」の商売が成り立ちません(感材メーカーとラボは「持ちつ持たれつ」なのです)。 ということで、この2つは「メーカーの都合」により実現しませんでした。

 しかも、企業の利益ばかりを考えている方々は、「商売になるから」と「4.」は率先して組み込みました。 この機能を持たせると失敗プリントが減り、生産性が上がり、結果的にラボの利益が増えます。 また、「6.」をなくしただけでなく、フィルムが直接見れないことをいいことに「インデックスプリント(コマの一覧写真)」を必ずつけるようにしました。 これは表向きは「焼き増しのため」ですが、更に儲かるからという「メーカーの都合のため」なんです。


・結果的に..

 メーカーの都合ばかり押し付けられたAPSは、「どこがいいの?」と聞かなければわからないほど中途半端な物になりました。 この話で割を食ったのは、一見カメラメーカーのようにも見えなくもないです。(規格通りのカメラを出したのに、感材メーカーの都合で普及しなかったわけですから..) でも、カメラの新機種が出なくなり、フィルムの種類が減り、店頭でなかなか購入できなくなってくると、 最後のとばっちりはやっぱり「ユーザー」になるんですよね。 多分、その時も我々「ユーザー」はこう言われるんでしょうね..

 「メーカーの都合によりAPSカメラの修理・フィルムの供給は出来なくなりました。 このたび新しく発売された○○という商品がございますのでこの機会にぜひ、お買い替えいただくようお願い申し上げます。」


・最後に思うこと..

 皆さんは意外に思うかもしれませんが、感材メーカーとカメラメーカーが「思惑」で一致するのは大変珍しいことです。 過去に感材メーカーが主体となって新規格のフィルムを作ろうとしましたが、カメラメーカーが他に追従しなくて消えました(例えば、某社のディスクとか..)。 逆にフィルムの種類を増やしてくれず、消え去ったカメラサイズもありました(126判など..)。

 映画用35mmフィルムという「既にあったもの」を流用したライカ判(135判)は、オスカー・バルナックによって偶然生まれたのかもしれません。 でもライカが生まれて1世紀近く経つというのに、新しい規格はほとんど普及してないのが現実なんです。 おやじは思うんですが、「フィルム」の事情(画質や価格など)と「カメラ」の事情(操作性や価格など)は、 ユーザーの「ニーズ」に合って初めて「規格」として普及するもんなんだと..。

 ビデオが必要ないのにVHSかベータかを話しても意味がないし、VHSやベータの規格をみてビデオデッキが欲しくなった人なんて少ないと思います。 そこにあるのは「TVを留守録したり、レンタルビデオみたいから」デッキを買うという「ニーズ」しかないのです。 ただ、その「結果」がレンタルに強かったVHSという規格だった「だけ」のことなんですよね..。

 − 閑話休題 −
 もし、今回の話に「腹が立ってしょうがない!」とお思いの方がいらっしゃいましたら、メーカーに対する「ささやかな反撃方法」をお教えします。 それは、もしカメラにフィルムが残っていても「写す必要がないフィルムは現像に出す」ということです。 フィルムがもったいないように感じるかもしれませんが、余計なプリントは作らないようにしましょう..。

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