‘ヌード’と‘裸’の違い 

【 氾濫する「裸」写真集について... Vol.05, 2000年08月04日UP 】

 皆さんは「ヘアヌード」とか、「ヘアヌード写真集」なんて言葉を聞くことも多いですよね?。 おやじもスポーツ新聞に載ってる裸の写真に目が行ったりするので、女性の裸に興味がないわけじゃないですが、 「ヘア」なんて意味不明の言葉がついた「写真集」を買いたいなんて気にはなりません。 そもそもこういった「写真集」を買う人は、まともな写真集を手にしたこともないんじゃないでしょうか?。

 というわけで今回の「独り言」は、最近、おやじが本屋に行くたびに思うことを書いてみようと思います。


・「ヌード」と「裸」の定義

 「ヌード」って言葉を定義するのって難しいですよね。辞書引いても「裸」と書いてあるので、「裸のことだろう」と言われればその通りです。 でも、おやじはあえて「NUDE」は「裸像」という意味で、芸術の絵画や写真に対する言葉として使っています。 対する「裸」は単純に「裸」であって、本来は他意もあるかもしれませんが、いわゆる「エロチシズム」な表現の方に使っています。 英語では「裸」をあらわす言葉として「NAKED」とか「BARE」、「UNDRESS」、「STRIP」などいろいろあるんですが、 おやじは猥褻な「裸」に対して「ネイキッド」などと使い分けず、単に「裸」と呼ぶことが多いです。

 でも英語で言う「NUDE」は他の単語と区別できるんですが、カタカナで「ヌード」と書くとなんか全て「裸」の意味になるような気がしますね。 日本人は昔から道徳の意識が高かったせいか、どう言う意味でも「裸」に対してタブーのイメージが強いようです。 これは、民族のモラルとしては誉められるべき部分でもありますが、その裏返しとして「芸術的な作品」も、ただの「エロ写真」も区別してないようです。 そのせいで今でも「芸術か猥褻か」みたいな話しがたまに出てきますね。(^_^;) おやじの私見ですが、80年代までは「芸術」まで「猥褻」にされる風潮があり、今は「こりゃエロ写真だろう」と思うものまで芸術と言い張ってるケースが多いと思います。

昔、 マン・レイの写真集が日本で発売された時、たまたま写ってる陰毛にクレームがついて墨塗りで発売されましたが、かえって「いやらしく」見えました。 やっと版権を手に入れた美術書の出版社もあまりの措置に怒り、本の購入者には後日差し替え用の無修正のページを送ったそうですが..。 (でも同じマン・レイの作品でも、「ウッドマン夫妻」 は・・・彼一流のウィットですが・・・「猥褻」かもね.. 笑)

ところで、日本よりはずっと早く芸術写真に目覚めた外国でも、100年以上前には各国で同じことがありました。 たとえば、イギリスではオスカー・グスタフ・レイランダーの写真「人生2つの道」 の左側に「裸」が写ってるので、布で隠して右側だけで展示したそうです。 でも、この写真は宗教的な作品で、神が快楽の世界で堕落した人々と勤勉に働く人たちを二人の青年に見せてる写真なんですが、 古い時代とはいえ、これが「猥褻」ならいったい何が芸術なんだろうと思いますね。(この写真はその後女王陛下が買い求めたことで「芸術作品」となりました。)


・「ヌード」と「ヌード写真集」の違い

 おやじもカメラマンやってましたから、いつかは写真集でも出してみたいなんて「夢」を描いてます。(金さえ払えばかなうなんて言わないでね(^_^;)。  ただ、おやじが出したとしても「ヌード」の写真集にはならないでしょう..(なぜなら、あんまり「人」をオブジェにして撮るのは好きじゃないもんで..)。  でも、もし「ヌードを撮った写真」を出版したとして、それを「ヌード写真集」なんて言われたらきっと怒ると思います。 それが何のジャンルで撮ったにしろ「おやじの写真」集であって、表現の「素材」がヌードに過ぎないからです。

たとえばロバート・メイプルソープの作品には、 有名な「ヌード」の他に習作の時代に「静物」や、晩年期の「花」などがありますが、そこに感じとれる独特の「世界観」やエロチックな「美」は共通しています。 多分それは「メイプルソープの表現」であり、彼の作品だから感じるもので、「ヌード」という「素材」だけで感じているわけじゃないと思います。 もし、そんな彼の作品を「ヌード写真家」などのジャンルで括ったとしたら、おそらく世界中の芸術家から笑われるんじゃないでしょうか..。

 つまり、「ヌード」はあくまでも「表現」のための方法のひとつであり、 その「手段」が自分の伝えたい表現に一番適してるからカメラマンが選択しているわけです。 「ヌード写真」などの呼び方で、「裸」そのものを目的とし、そのために作られたようなものは「エロ本」以外の何ものでもないでしょう。 (※「エロ本として作ってんだよっ!」と開き直られると、何も言い返せませんが..(^_^;)


・写真集の分類

 というわけで、おやじの言う「ヌード」の意味が理解していただけたでしょうか?。 こういう考え方のおやじですから、「裸」が写ってるからといって「ヌード写真集」とひとくくりにしたくありません。 そこで「裸」の写ってる写真集についてジャンルわけをしてみたいと思います。

写真家の写真集 これは、カメラマンが自分の作品として撮影した写真集です。当然モデルを使いますが、イメージに合わなければ有名人でも使わないでしょう。 (顔が写らないどころか、フィリップ・ハルスマンの「ドクロ」ように部品として使われる場合もあります) ただ、表現によっては「エロ写真」に近いものもあるので、混同されるケースも多いです。 (荒木経惟(アラーキー)氏が「エロ」を表現してるような場合は「エロ写真」と言っていいのかな?..) まあ、どちらにしても「‘カメラマン名’の写真集」となってるわけで、題材がヌードでも「裸自体」が「目的ではない」です。
アイドルの写真集 これは「誰が写ってるか」が重要な写真集です。たまに有名なカメラマンが撮って話題になりますが、所詮写ってる「モデル」のおまけ程度でしかなく、 自分の作風を押しつけて、そのアイドルがそれ「らしく」写ってないとかえってファンに不評なようです。 形式としてヌードじゃない場合も多いでしょうが、それに近い状態(水着など)で限りなく「裸」に近づくのが目的です。 そのため、やたら変なポーズ(胸を強調するため腕ではさむとか、四つん這いになるなど)や撮り方が多く、写真の内容はとてもレベルが低いものです。
ヘアヌード写真集 これがわけのわからない写真集です。おそらくアイドルの水着写真集の延長にあるんでしょうが、 モデルが「有名人」で、かつ「陰毛」が写ってることに「目的」が限定されているものです。 この目的には「話題性」しか価値基準がありませんので、モデルがフォトジェニックであることや有名カメラマンが撮って作品にする必要はないようです。 何故かわからないのは、モデル自身がこれを「芸術作品」と言い張り、アイドル写真以上に下卑た目的であることを理解していないことです。 (聞いた話しでは、カメラマンにジャン=ルー・シーフを起用した女優が、彼の作品を知らず馬鹿にされたとか..。 人に仕事を頼む時は、その人がどんな仕事をしてるかくらい確認しましょうね。)
「裸」の写真集 ヌードの写真集と間違えられやすいですが、「裸」が目的の写真集です。エロ本のグラビアの延長にあるんでしょうが、 性的に写ってればいるほど評価が高いようです。五味彬氏が初のデジタル出版物「Yellows」を出したあたりから、芸術に対する表現規制がゆるくなりましたが、 それに便乗する形でエロ写真としての内容がハードになって来ているようです。 この写真の「目的」は芸術ではありませんが、ヘアヌードのように「芸術」と言わない分、マシかも知れません。 しかし、顔がぼけているのに下半身にピントが合ってる写真集なんか、一般の本屋には置かない方がいいでしょう。 (ましてや「まっとう」な写真集のそばに置かないでください)。 ただし「芸術」や「作品」としてみなければ、喜ぶ男性が多いのはしょうがないです。(^_^;)

−驚きの事実−
 今回の話しを書くためにメイプルソープの写真集をネット上で探していたら、なんと個人が輸入しようとした彼の写真集が検閲で引っかかって、 たびたび裁判になってることがわかりました。十年以上前ならいざ知らず、去年まで6年も裁判を行ってた事例もあるようです。 これにはメイプルソープ財団も怒っているようですが、世界的に認められた「芸術作品」を「ポルノ写真」扱いすれば当然ですね。
 下司な「ヘアヌード」という、「芸術」をいいわけにした「エロ写真」を一般書店で堂々と販売しときながら、 よその国の芸術家を「わいせつ物」呼ばわりでは非難されてもしょうがないっすね..。(T_T)

[ 2008年2月追記 ]
 上記の裁判ですが、ようやく「芸術」との判決が出ました。晴れて無罪の判決と共に、故人メイプルソープの名誉も保たれたように思います。この記事を書いたのが8年前の2000年、裁判からは実に14年も経っての判決でした。世界的にこんな裁判やってるの日本だけなのに、なぜ、こんなに時間がかかったのでしょう..。おやじの疑問は晴れないままかも..。


・おやじの結論

 冒頭に書いた通り、おやじも女性の裸を見たくないわけじゃありません。(聖人でも、悟りを開てもいないですから..(^_^;)。  それどころか、電車の中で‘おっさん’が、スポーツ新聞の「H」なページ読みふけったり、週刊誌のグラビアに食い入ってても別に気にしないです。 でも、「芸術写真」や「(裸像としての)ヌード」を一般に誤解されたりするのは腹が立ちます。 普段はロクに写真集も見ない奴が、「エロ写真」を売る口実として「芸術」を引張りだし、何の罪もない「芸術写真」を汚すのはやめて欲しいです。

 ということで、「裸」と「ヌード」の違いは分かっていただけたでしょうか?。 これが「デッサン」とかだとすぐに「内容」の話しに入っていけるんですが、メディアが「写真」だと生々しいのか、 一般の方に冷静に説明してもなかなか理解できないようです..。(でも、「エロ本」と「写真集」を一緒にしないでね..(^_^;)


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