ストロボの使い道 

[撮影機材のお話し Vol.08, 2000年08月28日UP]

 前回の‘機材のお話し’で書いた「三脚」とともに売れない写真アクセサリーのもう1つが「外付けストロボ」だそうです。 でも三脚とは違って「これも必要だから買いましょう!」とは言えないですね。最近のカメラはほとんど「内蔵」してますし、しょせん「小型」じゃ外付けで買ってもねぇ..。 というわけで、今回は小型ストロボの使い道について書いてみます。かなり上級者向きの話しになりますが、まずストロボの構造と欠点を説明します。 その上でどういった使い方が可能か考えてみたいと思います。(今回は難しい話ばかりでごめんなさい)


・ストロボの構造

 ストロボの光を出す元は「放電管」というものになります。これは、雷が落ちる現象とほぼ同じにです。 まず電気を(コンデンサに)溜めてから高電圧に変換し、向き合った電極の片方からもう一方へ放電することで「光」が発生します。 ストロボの中を除いてみると、ガラスの管があるのが見えると思います。これが「放電管」です。

[ストロボ光の特徴]
 ストロボの光は「雷」に近いと書いたように、2つの特徴を持ってます。1つは、「閃光」であることです。 これは一瞬の光という意味で、光っている時間がかなり短いことです(具体的には大型ストロボで‘数百分の1秒’、 小型ストロボは‘数千分の1秒’から‘数万分の1秒’になります)。 また、もう1つは「稲光」のような「青白い光」です。これは専門的にいうと「色温度が高い」といいます。

・ストロボの同調
この「閃光」というのは、カメラのシャッタースピードより速いので、シャッターが「全開」したときに光らせないと写りません。 このタイミングをとることを「同調(シンクロ)」といい、ストロボの場合は「X(エックス)」の記号を使います。 また、一眼レフの高速シャッターは「スリット式」なので全開しません。そこで、全開できる「最高速度」をシンクロとして表示します。(X1/250秒など..)

・色温度
色温度というのは「光の色」を「数字」であらわしたものです。単位はケルビンといって「K」を使います。 これは、曇天や早朝の光で「9000K」くらい、晴れの日の昼間で「6000K」、夕焼けが「3000K」と高いほど青白く、低いほど赤っぽい光になります。 そして、カラーフィルムはある色温度で最適な色になるように設計されてます(箱を見ると書いてあります)。ちなみにデーライトタイプは5500Kです。

[ストロボの光量]
 ストロボも照明器ですから、光の強さを表示しなければなりません。一般的な電球では「何W(ワット)」というのが普通でしょう。 もちろん大型ストロボも、電源(ジェネ)が何ワットかで話します。ところが、小型ストロボだけは「ガイドナンバー」というものを使います。

・ガイドナンバー(G.N.)
この数字は「被写体までの距離」と「レンズの絞り値」をかけたものです。たとえば、ガイドナンバー20のストロボを付けて、 撮影距離が5mだったとすると、「20÷5=4」となり、「絞りF4」が適正な露出になります。 また、カメラ内蔵のストロボのガイドナンバーが12で、使ってるレンズの開放がF4だと「12÷4=3」で「3m」がストロボの届く最大距離です。

普通ガイドナンバーは「フィルム感度100」の時の数字です。これが「感度400」になると「2倍」になります。 なぜ4倍にならないか?。これは光が拡散するためで、距離が倍になると光の広がる面積は「4倍」になります(右図参照)。 ですから、2倍の距離で同じ光量を得るには、フィルム感度が4倍必要になるわけです。

ちなみに、最近のカメラでこういった計算をしなくて良くなったのは「オートストロボ」になって自動化されたからです。 オートストロボとはストロボが自分で光を測りながら発光し、フィルムとレンズの絞り値に合う光量になると発光を止める仕組みです。 便利な反面、「白いシャツのせいで露光不足」になったり「距離が遠すぎて光が足りなかった」などの失敗が起きることがあります。

・光源の違い

 今度は写真を撮る色々な光で「光の質」がどう違うのか書いてみたいと思います。
・光源 … 太陽
・色温度 … 3000K〜9000K(昼の標準光:5500K)
・発光時間 … 無限(カメラのシャッター速度の時間)

・特徴
 当然ですが、天から降り注ぐ「平行光線」です。つまり光は「面光源」として、平行に入ってきます。 そのおかげで被写体の後ろにも光が周り込みますので、それほど「硬質」な光ではありません。 曇天になると柔らかい光になりますし、晴天でも窓からの光では「拡散光」として入ってきます。 色温度も夕焼けの3000Kを除けば、ほとんど5000から6000Kで安定しています。 1番の特徴は、「定常光」と呼ばれる「常に光っている光」ということです。 おかげで「数秒」のスローから「1/1000以上」まで自由にシャッタースピードを選べます。 いうまでもなく、皆さんが1番見慣れた「光」ですよね。(^_^)
・光源 … 放電管(リング状)
・色温度 … 5000K〜9500K(標準的アンブレラ:5800K)
・発光時間 … 1/125〜1/3000秒

・特徴
 ほとんどの皆さんにはなじみが無いんでしょうが、写真屋さんにスタジオで撮ってもらうとお目にかかるストロボです。 大型というだけあってかなりの光量がありますが、通常はそのまま発光させずに拡散した光を使います。 これを「ディフューザー」というのですが、一般的な「傘」(アンブレラ)や、箱状の「バンク」などがあります。 ディフューザーを使うため「発光面積」が広く、拡散した「平行光線」を当てることが出来ます。 ストロボなので閃光ですが、1/1000秒くらいで発光できるため「太陽光」に近い光質が得られます。 光の色は6500K以上あるのですが、ディフューザーで反射させると5800Kくらいになります。
・光源 … 放電管
・色温度 … 7500K〜15000K(コンパクトカメラ内蔵:約9000K)
・発光時間 … 1/1000〜1/20000秒以上

・特徴
 おやじは仕事で小型ストロボの測定をしたことがありますが、その結果に驚きました。 ほとんどの光が10000Kを越える青白さで、閃光時間は1/9000秒以上でした。 その上、オートストロボで制御させると、発光のたびに光量が1〜2割ばらつきます。
 小型ストロボは、もともと持っている「光量」が小さいため、光を無駄にしないように「反射鏡」がついてます。 さらに、光を遠くへ飛ばすために「集光レンズ」を通して光を放ちます(懐中電灯に似たような構造です)。 そのため、光の質は方向性の強い「集光」になり、発光面積も小さいため「点光源」になります。

・小型ストロボの欠点

 さて、さらに難しい話しが続くので恐縮なんですが、続いては小型ストロボの具体的な欠点をあげてみます。

1.光が青い
 数字を見てもらえば分かりますが、とにかく青いです。なぜカメラメーカーはこんな色のストロボつけてるかというと、 ストロボのガイドナンバーを、少しでも大きな「数字」に見せたいからだと思います。 昔の一部のカメラにはカラーバランスを補正してる機種(アラーキー氏が使ってました)があり、ストロボでもけっこう「自然な色」で写ってました。 でも補正を入れると余分な色のエネルギーをカットするので、光量が減る上に電池を消耗するのでカタログ上はマイナスに見えるんですよ。 (カタログにストロボの色温度が載ってないのはなぜだ?)

2.発光時間が短すぎる
 これは、シャッターとの同調に問題がなければ、別に「欠点じゃないだろう」と反論する人がいると思います。 それどころか「何万分の1秒」なんて光を使えば、「昆虫の羽ばたき」や「麻原の空中浮遊」だって可能な「静止写真」が撮れちゃいます。(^_^;) でも、あまり閃光時間が短すぎると、実はフィルムのカラーバランスや感度が崩れてきます。 これはスローシャッター過ぎると起きる「相反則不軌」と同じで、閃光などの高速側にもこの現象があることが分かりました。 特にリバーサルではこの影響を受けやすく、色が青味に寄ってコントラストが硬くなる傾向があります。

3.点光源の硬い光
 上の図をもう一度見てもらえれば分かりますが、カメラ内蔵のストロボ光は「点光源」になります。 これでは光が背景には周らないため、「バックが暗く」なります。 また、顔の真正面から「集光」を当てるので、懐中電灯で照らしたような「お化けライティング」になっちゃいます。
 写真に慣れた人には「ストロボに白い布をかぶせて光を拡散させればいいんだよ」と言う人がいますが、 実はそうやっても変わるのは「色温度」だけで、「拡散光」や「柔らかい光」にはならないんです。 結果的に光量が減って絞りが開くことで背景が明るく写ることもありますが、「発光面積」を大きくしなければ「点光源」の硬い光のままです。

・フラッシュバルブ
 皆さんは「フラッシュバルブ」という言葉を聞いたことがありますか?。ある年代より上の人は知ってると思いますが、 昔、ストロボの代わりに使われたものです。大雑把に言うと、一回発光するたびに「タマ(電球)」をとりかえるストロボみたいなものです (タマ自体は年賀状を家庭で印刷する「プリントごっこ」の電球に似てますね)。これは電球の中のマグネシウム線を一気に燃焼させることで光を出す仕組みです。 もう市場にないと思ってるかもしれませんが、ストロボが普及した今でも一部で使用されています。理由は、上のストロボの3つの欠点が無いからです。 光の色が自然で、発光時間が長く、バウンス(反射傘)付きの光が背景にもまわる優れものなんですよ。 プロでも大型ストロボが持ちこめない状況で使うケースがあります。もちろん「オート」ではないので使うにはテクニックが必要ですが..。 (もっとも、今のカメラじゃ使用できる機種は少ないですね。お持ちのカメラにストロボのX(接点)以外に「FP」とか「M」と書いてあれば、それがフラッシュバルブのことです)

・小型ストロボの使い道

 大変長くなりましたが、いよいよ本題です。今まで書いたことでストロボ「欠点」がわかったと思いますが、一言でまとめると 「小型ストロボの光だけで写真は撮れない」ということです。もちろん撮れば写るでしょうけど、いい写真は出来ないですね。 じゃあ、なんに使うのか?。そうです「補助光」として使うのです。もちろん、このためには「明るいレンズ」と「感度の高いフィルム」が必要ですが、 それさえあればこれほど便利な「内蔵された補助光」は無いんじゃないでしょうか。

 小型ストロボを「補助光」として使う方法
1.フィルインライト これは、人物の顔に影がきつく出過ぎるときなどに使います。メイン光源を太陽光にし、影を弱めるように弱めにストロボを使います。 注意点は、同調(X)以下のシャッタースピードを選ぶことと、メインに対してストロボを効かせすぎないことです。 リバーサル、モノクロで1アンダー、ネガカラーで1.5から2アンダーぐらいが目安でしょうか。 明るい部屋のポートレートなどが1番向いてますが、X以下のシャッターを使える状況であれば晴天の屋外でも使えるテクニックです。 (でも、屋外は無理せずレフ板使ったほうがいいかも..)
2.逆光補正 屋外で太陽を背にした人物を撮る場合などに顔が黒くつぶれるのを防ぐ方法です。 撮り方は「人物以外の背景の露出の絞り値」と「ストロボのガイドナンバーを人物までの距離で割った絞り値」を同じかややアンダーにし、 X以下のシャッターで撮れば写ります。 Xが1/250の一眼レフと、ガイドナンバー20以上のストロボ、感度64から100のリバーサルがあれば使えるテクニックです。 具体的には、背景がF8で1/250の時、ストロボのGN20÷F8=2.5mとなり、2.5〜3mの距離から撮影すればいいことになります。
3.キャッチライト キャッチライトとは、眼の瞳にきらりと光る「光の点」を入れることです(少女漫画はいれ過ぎですが..)。 日本人は「黒い瞳」なので、キャッチを入れないと目が死んだように写ることがあります(女性をエキゾチックに写す場合は除く)。 写し方はフィルインと同じかやや弱めでいいと思いますが、暗い室内で強く効かせると「赤目(瞳孔反射で目が赤く光って写ること)」がでますので注意してください。 目は濡れているので結構うまく光ってくれますが、昼間の屋外でストロボ焚いてると周囲に怪訝そうな顔をされます。(^_^;)
4.デイライトシンクロ 日中シンクロと書いてある場合もありますが、昼間や夕方にストロボを補助光線として使うテクニックです。撮り方は逆光補正と同じです。 普通に写す露出条件(絞りとシャッター)とストロボで写す条件(絞りと被写体までの距離)をバランスさせるテクニックです。 ストロボの方の条件をアンダーにすれば自然光のほうがメインになりますが、あまり極端にやるとほとんどストロボが効いてない写真になります。 なかなか難しいテクニックですが、うまく決まれば結構気分がいいです。 (作例

・まとめ..

 ちなみに、上の使い道は全部同じテクニックの応用になりますが、初心者がやるには難易度的にかなり厳しいですね。(^_^;) また、少なくとも一眼レフならXが1/250以上の物が必要ですし、ストロボもガイドナンバーが20のものがいります。 実は、カメラ内蔵のストロボってガイドナンバー8〜12くらいのがほとんどなんです。 他にも、オートストロボは手動に切り替えられないと昼間の明るさじゃ発光してくれないし、かなりのテクニックがいります。

 じゃあ、初心者はどうするか?。それは「デイライトシンクロ」モードのついたカメラを買うんです。(^_^;) コンパクトカメラにもついてる場合がありますし、一眼レフにもついてる機種があります。 そうじゃなくても、強制発光のモードがあるなら、いつも無理やり光らせると偶然きれいに写ることもあります。 おやじは「シャッター押してください」と人から頼まれたとき、カメラが「使い捨て」だったりすると屋外でもストロボを「ON」にします。 効かない場合もありますが、逆光防止やキャッチライトに効くこともありますので..。(^_^;)

・公共の場でのストロボ

 余談ですが、公共の場でのストロボの使い方に注意しましょう。最近見かけなくなりましたが、昔は映画のワンシーンを撮ろうとカメラを持ちこみ、 ストロボを焚くお客がいました。今ほど情報誌やビデオが普及する前だったんで、自分で記録に残したかったのでしょうが、 ストロボ使っても映画は写りません(-_-;)。多分写ってるのは「ただの白いスクリーン」です。映画館のスクリーン自体のマニアでない限り、 無駄なことです。(撮りたければ三脚立ててスローシャッター使いましょう)

 それと、BWのイチローがバッターボックスに入ると、スタンドからストロボの嵐が起こります。 イチローはまぶしくてたびたびバッターボックスをはずすので、見ていてかわいそうです。 そもそも、野球場のスタンドはバッターボックスから100m以上あります。お持ちのカメラに感度1600のフィルムと、 絞りF2.8の明るいレンズをつけても、「ガイドナンバーは70」も必要になります。 なぜ、スポーツのプロカメラマンが野球場でストロボつけてないか、よく考えてほしいですね..。(^_^;)

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