『ダイヤモンドの犬』発表時のボウイというのは、肉体的にも精神的にも疲弊 し薬浸りになり……と、かなり危ない時期だったと思うのだが、人間の心の弱 さをまざまざと思い知らせるようなこの恐ろしい小説を、どのように捉えてい たのだろう……。 とにかく恐ろしい小説である。この小説で描かれている「1+1を2と言えな い世界」というのが恐ろしいのは勿論なのだが、どんな知的な人間であっても 「1+1を2ではない」と信じる事が出来てしまうという事の方が更に恐ろし かった。 以前別の作家の小説で「『絶対に正しい』という事も『絶対に間違っている』 という事も存在しない」というような件を読んで衝撃を受けた事がある。「間 違っている」と思われる事も別の観点から見れば必ずしも間違っているとは言 い切れないという話だった。つまり肝心なのはどれだけ自分がそれが正しい事 だと信じ切れるかという事だというのだ。 似たような概念はこの小説の中にも見られるし、ボウイの新譜中の"LAW"の"I don't want knowledge/I want certainty"という叫びにも通じているように感 じられる。ボウイは常に「自分が信じる事の出来る真実」を求め続けているの ではないか(それはボウイに限った事ではないと思うが)、そしてそれが"BIG BROTHER"のような存在でも良いと思った瞬間があったのかも知れない……。 しかし、アルバムにも登場し、この小説の核となっている"BIG BROTHER"、これ をどう解釈するかは非常に難しい。
類まれなる美貌がもたらすものとは何か……。 この小説の主人公のドリアンの最大の武器は若さと美貌であった。が、彼の迎 えるおぞましい最期は、もって生まれたその美しさ故によるものだった……。 ボウイがこの小説を何歳の時に読んだのかはわからない。しかし、若いうちに 読んでいた可能性が極めて高い。そして彼が「容貌によって得する事があった としても、それに頼り過ぎると恐ろしい事になる」という危惧を持った事は充 分に考えられる。「自分はドリアンになってはいけない」と思ったのではない だろうか。 ボウイのルックスの良さは多くの人が認める所だろう。学生時代の写真等を見 ると、「ドリアン・グレイもかくあらん」といった風情である。が、ボウイと いえば、「二枚目」というよりも「奇妙な人」というイメージの方が一般的に は強いのではないだろうか。たとえば、女装で物議をかもした『THE MAN WHO SOLD THE WORLD』から、『YOUNG AMERICANS』までのアルバム・ジャケットを 街で通行人に見せて印象を訊ねたとしても、「二枚目」と称する人はほとんど いないだろう。 ボウイの中には「奇妙な格好が好きだった」、「特殊なキャラクターを演じた かった」……etcという側面も勿論あっただろう。が、この小説も「正統派美青 年アイドル路線」を避けた原因の1つであると考えるのはこじつけだろうか? "LOOK BACK IN ANGER"のビデオ・クリップは、この小説をモチーフにして作ら れたものと言われているが、この曲の収められているアルバム『ロジャー』に 「少年賛歌」といえる"BOYS KEEP SWINGING"が収録されているのも偶然ではな いように思える。つまりこの頃には「自分はドリアンにはならない」という自 信を得て幾分余裕をもって若かりし頃を振り返る事が出来たのではないかとい うような印象を受けるのである。その後の『レッツ・ダンス』で突然アイドル ・スター的な色合いを感じさせたのも、吹っ切れた為であると考えるといくら か納得が行く。 ……ちょっと妄想入ってるかなぁ(^^;;)
……にも関わらず途中で挫折しましたので、コメントはなしです(^^;)。影の獄にて
数々の映画に出演しているボウイだが、『戦場のメリークリスマス』のセリア ズ役が最も印象に残っているという人も多いのではないだろうか。私がボウイ の映画で一番好きな作品もこれである。とはいえ、最初見た時は意味がさっぱ りわからなかった。原作を手にしたのも、これを読めば少しは理解出来るだろ うかと思ったからだ。ちなみに映画のクレジットではボウイの名前が最初に登 場し主役扱いだったのだが、原作の方ではセリアズのシーンは予想していたよ りは少なく落胆したのをおぼえている。 『戦場のメリークリスマス』といえば、ボウイと坂本龍一のキスシーンが話題 になったが、私にとって一番印象に残っているのはセリアズが弟の事を回想す るシーンである。セリアズとボウイ、セリアズの弟とボウイの義兄・テリーが 頭の中でダブってしまって仕方がない。セリアズの弟は大好きだった歌を歌わ なくなり、テリーにいたっては自殺してしまった。どちらもセリアズあるいは ボウイが直接の原因というわけではないだろう。しかしどちらも救える立場に いたのかも知れないと思うと、他人事ながら胸がかきむしられる思いがする。 それにつけてもセリアズの弟役の少年が歌う"RIDE,RIDE,RIDE"は本当に美しか った! 涙無しには聴けません。