時計


 私には愛用の腕時計がある。嫁に買ってもらったL○NCELの腕時計である。

 薄型でとても使い心地が良く、付けていない感じまでしてしまうのだ。そのせ

いでよく会社に時計をつけていくのを忘れるくらいであるのだ。

 その時計を買ってもらうまでは安物のデジタル時計をしていた。

 よくなくしてしまうので、あえて安物の時計を買っていたのだ。

 しかし、嫁に時計を買ってもらってからは、なくしたときにメチャメチャ怒られる

であろう事が容易に想像がつくので、いつも緊張して使わせてもらっている。

 また、この時計は月に1秒と狂わないので、秒刻みで出勤している私にはもっ

てこいの時計とも言えるのだ。

 その時計が6年を経た今、急に止まってしまった。1年半前、嫁にもう1個時計

を買ってもらっていたので、慌てず騒がず愛用の時計を修理に出して、S○IKO

の時計を会社にしていったのである。

 しかし・・・しかしである。次の日の朝、その代用の時計まで止まってしまったの

である。どうやら電池が切れたらしい。

ず〜〜〜っと一人で動き続けて、ご主人様につけてもらった途端力つき

てしまったのだ。なんと役立たずの時計であることか・・・・

 2本の時計をいっぺんに失った私は、息子(中学1年)の時計を借りることに

した。しかし、息子の時計はいかにも安物のミッキーマウスをあしらったデジ

タル時計であったのだ。

こ・・・こ・・・こんな時計しか持ってへんのかいっ

 背に腹は変えられず、仕方なくその時計を借りていくことにした。まあ・・・この

冬の時期、吊革でも持たない限り見えもしないのだ。

 朝の電車はとっても眠い。左手にミッキーマウスの時計をしている事なんて、

頭の中から消え去るほど眠いのだ。女子高生のクスクスと言う笑い声で、ふと

我に返ると、左手はしっかりと吊革を持っていた。

 

 余談ではあるが、先日電車でうとうとしていると、ドアの所で女子大生風の

二人が大きな声で話していた。

「なあなあ・・・・痴漢に遭ったことある?」

「ううん・・・・なんでかしらんけど今まで一度もおうた事ないねん」

 バリバリの関西弁である。

「ほんまに痴漢におうたら、怖くてなんにも言えへんやろなぁ」

「うんうん・・・・ほんまになぁ」

 チラッとその子達を見たが、今まで痴漢に遭遇しなかったのは、なんとなく

すぐに理解できた。そして、これからもそんな心配はせんでもいいのではな

いか・・・・とも思ってしまった。