散髪


 バレンタインの日曜日、私の髪の毛はゲゲゲの鬼太郎状態に達していた。

 毎年首筋から風邪をひくので、散髪を躊躇した結果、このような状態に陥っ

てしまったのだ。息子も前々から散髪に行きたいと言っていたので、午前中

のバドミントンの練習後、いきつけの散髪屋に行くことになった。

(連れていった方が散髪代を払う損な役回りである)

 しかし、時間の過ぎるのは早い物で、2時に練習から帰ってきてウダウダ

していると、あっと言う間に時計は4時を指していたのだ。

「そろそろ散髪に行くで〜・・・・わしはバイクで行くから、あんた(息子)は自転

車でついておいでや!」

なんでやのん!車で行こうや!」

 たかだか散髪屋までは1キロくらいしか無いのであるが、すぐに車を使いたが

る息子であったのだ(そんなことやから土踏まずがないんとちゃうの?)。

「ほんじゃ・・・・二人乗りのバイクで行こか?・・・・・かあちゃんに車を移動して

もらったらそれで行けるで」

 二人乗り用のバイクは車の後ろに格納してあるので、車を移動させないと出

られないのだ。

いややで・・・・車動かすの!!」

 嫁からはあっさりとつれない返事が返ってきた。

 仕方がないので車で散髪屋に向かうことになったのだ。しかし、散髪屋の前に

車を路注するのは非常にひんしゅく物なので、近くの公園の駐車場にほうりこん

で散髪屋に向かうこととなったのだ。

散髪屋に入ると、待ち客が一人しか居なかったのですぐに済む物と思っていた

のに、遅々として順番が回ってこない。よく見ると、おじさんとおばさんの二人で

やっているのだ。以前はもうひとりお兄ちゃんがいたのだが、どこを見渡しても

お兄ちゃんの姿が見つからない。その上、おばちゃんはひげ剃りとシャンプー

だけなので、実質おじさん一人でやってるようなものなのだ。

 結局、私と息子のカットが終わったのは6時を過ぎていた。外はもう真っ暗

である。

「しかし・・・・時間かかったなぁ!」

「ほんまやで!2時間もじっとしてるんしんどかったわ」

 などと愚痴を言いながら、公園の駐車場に行ってみるとが閉められ

てあった。

おおおぉぉぉぉ・・・・門が閉まってる〜」

 そこの公園は、競技場と隣接していて、駐車場は競技場利用者に解放されて

いるのである。従って、グランドを使用していないこの時間は門の鍵が閉められ

ていて当然なのである。←先に気づけよ

「ど・ど・ど・どうしょ〜どっかから出られへんかなぁ?」

 うろうろと出口を探したが、他の出口も全部車止めがしてある。

「しゃぁないなあ・・・・・・・・」

 車を置いて、歩いて帰るしか手がないのだ。しかも、いつグランドの使用がある

のかわからないので、トランクに入れてあるクラブのネットやホワイトボード、シャ

トルコック等々を持ち帰らなければならない。弱り目に祟り目状態なのだ。

「バスで帰ろうよ〜」

馬鹿者!!このくらいの距離、歩かんかいっ!」(ほんなら最初から車で来るなよ

 やっとの思いで家に帰り着いたが、家では嫁と娘の罵声が待っていたことは言

うまでもない。

 次の日の朝、私はバイクで駅に向かったが、例の駐車場では私の車だけが寂

しげにたたずんでいた。

「まってろよ・・・もうすぐ救出してあげるから・・・・」心の中でそっと呟く。

 嫁が救出に成功したら携帯に連絡が入る手はずになっているので、片時も携帯

を手放すわけには行かないのだ。

 HATIちゃんとの昼チャットでも気分はブルーのまま、時間だけが過ぎていった。

午後3時を回った頃、急に大きい方を催したので、会社のトイレに駆け込む。

ムムムムム・・・・・

 写真に収めておきたいくらいの、1本筋の通ったでっかいのをひねり出した瞬間、

ポケットに入れてあった携帯が鳴り出した。

ピリリリリリ・・・・・ピリリリリリ・・・・・

「車を救出してきたで〜」

嫁からの電話だった。

「をを!ありがと〜・・・埋め合わせに今晩おごるわ!」

結局、タクシー代よりもバス代よりも高くついた交通手段になってしまったのだった。

 

 余談ではあるが、月曜日の夜からのどの調子が悪いな〜と思っていたら、火曜日

にはしっかり風邪をひいていた。嫁から移されたのか(移されるようなことはしてない

んだが・・・)、散髪後のスースーする首筋から風邪をひいたのかは定かではないが、

散髪後に風邪をひくと言うジンクスはまだまだ継続中である。