迷犬ハチ

 もうすぐお盆休みと言う、ある夏の暑い日、家の裏で息子が犬に吠えられている。様子を見に行くと、ガリガリに痩せた、まるでハイエナのような姿の犬がそこにいた。
 その犬は私を見てウ〜〜と唸っていたが、紛れもなくその場所は私の土地なので引き下がることは出来ない(犬に対抗意識燃やしてどないすんねん)。

あんた・・・・そんなとこで何やってんの!!
 犬に対して喝を入れた。するとどうした事だろう・・・・今まで唸っていた犬が急に豹変して尻尾を振り出すではないか!なんなんだコイツ・・・と思ったが、飼う気はないので撫でないことにした。それからである、コイツが我が家に居座りだしたのは・・・
 よその人が家の前を通ると吠え、家族の者が帰ってくると尻尾を振って出迎え、それ以外の時はガリガリの体を車の下に横たえているのである。何度餌を与えようかとも思ったが、飼う気もないのにそんな事をしたら無責任なのでぐっと堪える事にした。
 一時期、嫁にくっついて遠くまで行ってしまい、2〜3日姿を見かけなかったのだが、気がつくと車の下で寝ているのだ。
 そんな事が10日程続いたろうか、向かいの奥さんが苦情を漏らし始めた。
ちょっと!飼ってるんやったら、なんとかしたら?」
「いえ・・・飼ってるんじゃなく、勝手に住み着いているだけなんですけど・・・」
「保健所に電話して引き取ってもらったら?」
 その犬が嫌なんやったら、自分ですればいいのに、そんな事までこちらが言われる始末。保健所に連れて行かれたら、7日後には殺されてしまうだろう。お盆休みも終わろうとする頃、あまりにも不憫な犬に負け、結局飼うこととなった。
 飼うとなれば、気分は楽である。餌も与えてあげてもいいし、撫でてあげてもいいのだ。首輪、ひも、シャンプー、蚤取り首輪、エサ等々、結構するものである。寝る場所は裏の物置の1階部分を開放して、雨風がしのげるようにした。
 これで準備万端、後は名前を決めるだけである。今まで「おいっ!」とか「こらっ!」とかしか呼んでなかったので、名前はまだ無い。ポチとか次郎とか候補にあがったが、シャンプーをする時に雌犬と言う事が判明したので却下された。結局INET友達のHATIちゃんの命名で「ハチ」となったのだが、このハチ・・・・今までの分を取り戻すかのように良く食う・・・・。

 飼い主に似たのか、名付け親に似たのかは定かでないが(両方かもしんない・・・)、実によく食うのである。その分、出す物も出す。しかもそれが臭いのだ。毎朝散歩に連れていき、その処理をする私は、朝の食欲がめっちゃ減ってしまったのは言うまでもない(ダイエットに繋がってくれればいいんだが・・・)。
 ハチを飼いだすようになって1週間も過ぎた頃、その日は雲行きが怪しかった。案の定、夜中の2時半頃にはバラバラと雨が降り出してきた。いや・・・雨で起きた訳じゃなく、雨に怯えたハチの鳴き声で目が覚めたのである。雨を凌げる場所を用意しているにも関わらず、そこには入らず大声で鳴きまくるのだ。何度その場所に押し込んでも出てきて鳴く始末・・・・。よくよく放浪時代のことを思い出すと、雨が降ると車の下に潜り込んでいたのだ。車の下に行けるようにひもをつないでやると、鳴き声はピタリと治まった。なんなんだコイツは・・・。広いところが怖いのだろうか?
 なんにしても、今までどのように生きてきたのか知る由もないので、これからどんな事が起きるのかとても不安である。

 余談ではあるが、このハチ・・・・先日散歩に連れていって、私がハチの出した物を処理している間にターーーーーッと逃げ去ってしまった。10メートルくらい走っては、私をジーーーーッと見て立ち止まっているのだ。私が近づくと、またまたターーーーッと走る。この繰り返しで全然捕まえることが出来ないのだ。
 ん?私をからかっているのか?ご主人に向かって非常に失敬な奴であるのだ。せめて小判でも掘り出してくれないかなぁ?と考えると、やっぱり名前はハチよりもポチの方が良かったのかもしれない。ポチだったら、ここ掘れワンワン・・・・

 そんなわけないか・・・

 後日談・・・

 裏で飼っていたハチだが、雷が鳴るとメチャメチャ吠えて、回覧板で苦情がきた。またまた仕方なく、裏から玄関に連れてくることになった。今は狭い玄関で丸まっている。本人(本犬)も、そこが自分の居場所と認識して、散歩から帰ってくるとまっしぐらに玄関に向かうのである。私の力作の犬小屋は全然利用されていないのだ。今では家族の者から「マルマジロ」と呼ばれているこの犬・・・お客さんが来ると吠えまくるんだよなぁ・・・これが・・・

 この顔にピンと来たらご一報下さい。